壺の中にはご馳走を

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顔を返して②

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 真也は「ヒッ」と恐怖し、逃げるようにして扉を開けた。


 店内には古い掛け時計やフランス人形、不思議な形の木箱などでひしめき合っている。

 狭いスペースの真ん中に置かれたテーブルと椅子を囲うようにこれらの物が置かれている。

 心地良い白檀の香りが漂う中であっても、真也は心を落ち着かせることはできなかった。

 ここにも鏡があり、先ほどと同じ老婆が映っていたからだ。


 奥から人が現れた。

「おやおや、随分と乱暴な開け方だねぇ。ほう……。面白い物を連れているな」

 逆三角形のシャープな輪郭と、大きなツリ目に高い鼻、小さくて薄い唇の美しい女性だ。

 年齢は25歳~30歳くらいだろうか。

 いやもっと若くても、あるいは年齢が上でも納得できる何かがある。


 眉毛が非常に薄く、今風のメイクではない。

 しかし妖艶という言葉がよく似合い、透き通るような色白の肌としなやかな細い手足が大人っぽさを演出する。

 艶やかな黒髪がアジアンビューティーを思い起こさせる。

 
 だが真也は美しさに見惚れる余裕もなく、懇願した。

「お願いします! ここは無料でやってくれるって書いてありました。 あなたの占いの力で、僕の顔を取り戻してください!!」

 言い終えるとガバッと頭を下げた。


「あはははははは!! 坊や、アタシの占いを受けに来たのか? それじゃあ、やってやろうかねぇ」

 女性はキョロキョロと見回して、たくさんのインテリアの中から大きな水晶玉を取った。

「そこの椅子に座りな」

 
 真也と女性はテーブルの上の水晶玉を挟んで向かい合う。

「坊やの名前は?」

「神楽坂真也です」

 真也はなるべく鏡を見ないように水晶玉を見つめている。

「真也、お前の悩み事を言い当ててやろう……」


 女性は水晶玉に手をかざし、ユラユラと動かした。

 水晶玉には何も映らない。

 しかし女性は満足気にニンマリと笑った。

「お前は化物に怯えている。そしてそれはいつも鏡の中に現れる」

「そうです。友達と心霊スポットに行って――」

 説明しようとする真也を女性は遮った。


「まだその話はしなくて良い。それより、化物を消す方法を知りたくないのか?」

「ええ、お願いします!」

 この人は本物だ、ようやく苦しみから解放されると真也は思った。

 来店前の今にも死にそうな表情とは大違いで、生きるエネルギーがふつふつと沸き起こる。


「いいかい? まず朝の5時に東に向かって『おやだまおやだま、どうかおかえりください』と唱える。10時になったら日本酒を右肩から左胸に流れるようにかける。12時にはまた東を向いて同じように唱え、16時に左の頬を思い切り引っぱたけ。20時に西を向いて鳥の鳴き真似をするんだ。鳥は鶏でもオウムでも何でも良い。24時に枕を足元に置いて寝るのを1週間続けるんだ」

 真也はスマホに必死でメモする。

「1週間後またウチに来い。言うとおりにしないと大変なことになる」


「はい! 今日からやります。ありがとうございました!」

 頭を下げ、いそいそと帰ろうとする真也。

「帰る前に1つ聞きたい。お前はどうしてウチが占いの店だと思った?」

「えーと、無料でオカルト関係の相談に乗ってくれるところをネットで探したら、検索の一番上に出てきました」

 女性は左眉をピクリと上げた。

「そうかい。とお前は何か深い縁で繋がっているかもしれないねぇ。気をつけて帰るんだよ」

 真也はこの時初めて、「Tisa」という店名の正しい発音を知った。
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