壺の中にはご馳走を

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選ばれた③

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 古谷雅人は真也へと顔を向け

「せっかく出してくれたのにすまない。健康診断で血糖値があまり良くなかったんだ。俺の娘だったら喜んで食べていたんだが」

 と言ったので、手土産にして持ち帰らせた。



 茉美は、古谷雅人が知りたがっていた真相をつらつらと語った。

「ある村に霞喞かしょくという妖怪が住み着いた。霞喞は家畜を襲い、夜には金切り声を上げて村中を騒がしくした。大切な食糧を無惨に殺され、睡眠まで取り上げられては、村人は安心して暮らせない。

 そこで霞喞と直接交渉することを決めた。交渉役を務めたのは、高い霊力を持つ一族。中でも宗兵衛は今までに何度か妖怪を追い払ったことがあり、もし交渉に失敗したら霞喞を葬る手はずだった。

 しかし宗兵衛は霞喞の姿を見ると、村人に霞喞との共存を訴えた。その姿は黒い霧に覆われ、いくつもの目玉が浮かんでいた。黒い霧が怨念の集合体であると気づいた宗兵衛は、一族の力を以てしても勝てる相手ではないと判断したのだ。

 早い解決を願う村人は反対したが、そうしている間にも霞喞の悪さは止まらない。いよいよ有力者の赤子にまで被害がお四本だ。謎の切り傷が生じたんだ。取り返しがつかなくなる前に、彼らは宗兵衛の案に乗ることにした。

 宗兵衛は霞喞と交渉を始めた。霞喞は村側のいかなる提案や妥協も受け入れなかった。己の強さを把握していたのさ、簡単に折れる必要などない。一方で殺戮ばかりの日々に退屈していたんだろう、霞喞はある賭けを申し出た。


 ・60年に一度、子供を小屋に入れ、一夜を過ごさせる

 ・子供が戸を開ければ、霞喞が子供を体内に取り込み、その後60年間は大人しくする

 ・子供が我慢し戸を開けたのが迎えの者なら、次の賭けまで村の半分の土地を水没させる

 ・小屋や子供の用意など、一切の準備は宗兵衛あるいはその子孫が執り行う

 
 賭けは村側に不利なものだったが、宗兵衛は受け入れた。子供を1人犠牲にすれば、村の平和が約束されるからだ。

 霞喞との賭けを受け入れたその年、村から1人の子供が消えた。戸を開けてしまったのさ。

 霞喞は村八分や口減らしによって殺された者の怨念が生んだ妖怪だ。いくつもの声を持っており、自在に使い分けることができる。古谷と同じように、その子供も父母が呼んでいると勘違いしたのだろう。

 
 子供の死という悲しい出来事を、村は大いに喜んだ。そんなことが何百年と繰り返されてきたんだ。

 選ばれるのは親離れできていない幼い子供。それも末っ子や一人っ子のような、家族に構ってもらえる甘えん坊が多い。そういう子供は警戒心が薄く、簡単に戸を開けてしまう。宗兵衛の子孫は、村を水没させないように生贄を選んできた。

 先祖代々で密かに語り継いでいたのだろう、古谷の父親が賭けの内容を知っていたのが救いだったな。まれに戸を開けない子供が出る。母親は戸を開けてしまうと絶望したようだが、古谷もその1人だったわけだ。

 だが、大半の子供は霞喞の一部になってしまう。霞喞はそれを狙っているんだ。長い時間をかけながら力を増して、村の半分を水没させる以上の災いをもたらすことができれば……。

 今回古谷が話したことで、力は抑えられたはずだ。霞喞の計画は振り出しに戻った。今にも滅び行かんとする村は、一度は切り捨てた命に守られたのさ」


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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