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社交界

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 既に時間の無駄だと結論が出ているオーケルマンのピロートーク。

 だが、今日だけは有益な情報をもたらした。


「明日の正午、夫人たちが第3庭園で社交界を行うそうだ。お前も行ってみるか?」

 女性たちは強固なネットワークを築き上げている。

 もしかしたら、真実の愛について知っている人がいるかもしれない。

 そうでなくても、オーケルマンの弱みを握っているとか、色んな情報を入手できそうだ。


「はい! 社交界に出るのは旦那様の妾として当然です」

「ホホホ。ワシは女の集まりが苦手でな。一人で行くと良い」

 それは好都合。

 
 その後の話は何となくでやり過ごし、社交界への期待を膨らませた。



 
 第3庭園は王宮で最も広い庭だ。

 俺の部屋からは遠いため、到着したのは正午を少し過ぎた辺りになってしまった。


 オーケルマンの妾として、などと言ったものの、俺は男性服に身を固めた。

 まず最初に目に入ったのは、騎士。

 この人は確かソール騎士団員?

 どうしてここに?


 俺は王宮に知り合いがほとんどいない。

 だから、孤立してしまった。

 女ばかりの花園は、傍から見たら華やかだが、いざ入ってみると寂しい。

 情報収集のためには、彼女たちと仲良くしないと!


「あの~」

 笑顔で近づく俺に、彼女たちは扇子で口元を覆いながら眉をひそめる。

 ……嫌われてる?



「どうして男娼が?」

「宰相が入れあげてるのよ」

「まあ、いやらしい」


 コソコソと、だが、確実に俺に聞こえるように話している。

 場違いだから出て行けってことか。

 
 俺は自分の立場をまだ理解していなかったんだ。

 王宮で丁重に扱われるのは、俺が評価されているからじゃない。

 皆、俺の背後にオーケルマンを見ている。

 だから宰相に睨まれるとマズイ大臣をはじめとした貴族たちは、俺に深々と頭を下げる。

 オーケルマンと直接的な関わりのない女たちは、忖度なく俺を蔑む。


 完全アウェーの中、社交界は始まった。

 お茶を飲む者、狩猟を楽しむ者、社交界はとにかく楽しく会話するといった感じか。

 じゃあ、今の俺は社交界デビュー失敗だな。


 さっきの騎士は、夫人たちを連れて狩猟をしている。

 金持ちの娯楽で狩られる動物が可哀想だ。


 俺は一人で座っているおば様に声をかけた。

「あのぉ、お隣よろしいですか?」

 この人も話し相手が欲しいだろう。

 その憶測が間違いであったことは、すぐに分かった。


 おば様は眉にたくさんの小じわを寄せ、手でシッシッと追い払った。

 実に失礼な行動である。

 が、ここで引き下がれば、また話し相手を探す必要がある。

 ここは食い下がろう。

 最終的に気に入られればこっちのもんだ。


「少しでいいからお話しませんか?」

 隣に座ろうとした時、おば様の右手が俺の頬にヒットした。

 平手打ちに驚いて固まる俺の頬がヒリつく。


「まあ、ノシュテット夫人になんてことを!」

「身の程知らずねぇ」


 被害者は俺だろ!?

 ノシュテットって、確か内務大臣もそんな名前だったな。


 ノシュテット夫人は席から立ち上がり、閉じた扇子を俺に向けて投げつけた。

 それは俺の顔に当たり、新たな痛みが加わった。


「そなたのようなドブ臭い男娼が、私に近寄るとはっ! 騎士団の警護はどうなっているのですか!?」

「何か問題でも?」

 奥の方で女たちがザワつき始めた。

 声の主は女たちが作る花道を通って、ノシュテット夫人の前まで来ると会釈した。


「ユーホルト。この者が私と話がしたいと戯言を。宰相の決定に従い男娼の出入りを受け入れたのです。しかし、下賎な者と口を利くなど、地獄に堕ちるに等しい」

 俺は初めから社交界に誘われてなどいなかった。

 身分をわきまえて断るべきだったんだ。

 俺がノシュテット夫人に出会う前から、彼女は俺が嫌いだったんだろうな。


「だから、この者の汚れた舌を斬ってしまいなさい。舌がなくとも、半人前の男娼としてはやっていけるでしょう?」

 女たちはクスクス笑っている。

 ノシュテット夫人は虫けらを見る目で俺を蔑み、罰を与えないと気がすまないといった感じだ。


「何をしているのです! 男娼を斬った程度でその誇り高き剣は折れないわ」

 ハンスは鞘から剣を抜いた――。
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