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バトンは繋いでいくもの

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 湖はいつも穏やかだ。

 よくもまあ、呪いだの何だのと噂が流れたものだ。

 そのおかげで誰にも邪魔されずハンスと2人っきりで過ごせるから、ヨシとしよう!


 手を繋いでいて気付いた。

「手を怪我してる。大丈夫か?」

「これは弓術の訓練をしていたんだ」

 ハンスは剣で戦うイメージがあるけど、弓を使うこともあるんだな。


「今度、王宮で弓術大会が開かれる。ソール騎士団からは俺が出場するから、そのための訓練だ。不甲斐ない結果で恥をかかせるわけにはいかないからな」

「弓術大会?」

 学校の球技大会みたいなものか?


「毎年、王の前で武芸を披露するんだ。その年によって違い、去年は馬術、一昨年は剣術だった。今年が弓術で、実はあまり得意ではない」

 ハンスにも苦手意識があるんだ。

「へえ、結果を残す必要があるんだー。順位が出るとか?」

「王から順位を賜り、それに応じた褒美がもらえるぞ」


 褒美があると大会へのやる気も出る。

 褒美に真実の愛が入ってたらな~。

 入ってるわけないか。


「口元が緩んでいるぞ。そんなに褒美が欲しいか?」

 ハンスが俺の口をムニムニと引っ張る。

「いひゃい。ひゃなせ~」


「残念だったな。去年と一昨年ならば俺が首位だったから、お前に渡すことができたのだが。今年は難しいだろうな」

 俺は褒美よりハンスが活躍してる姿を見たかったよ。

「弓術ってそんなに難しいのか?」


「難易度はそれほどだが、王国には優れた弓使いがいる。弓ならば宰相も参加するはずだ」

 オーケルマンが?

 あいつは男娼の斡旋で王様に気に入られたんだから、武芸と関係ないじゃん。

 でも王宮で行われる大会だ。

 優れた人物だと皆に知らしめるのにちょうど良いのかもな。


「俺はハンスを応援するよ! いいなあ~、近くで見たかった。俺も参加しようかな」

「お前も観戦できるはずだ」

 マジで?

 観戦だけで、参加しなくて良いとか最高だ!


「宰相は特別席を用意して、妾たちに応援させるのが恒例だ。お前たちに武芸もできると見栄を張りたいのだろう」

 うげぇ……、オーケルマンの応援か。

 でもハンスの応援もこっそりやろうっと。


「楽しみだなあ。例え下手くそでも、俺の一番はハンスだぞ!」

 ハンスは困ったように笑った。

「得意ではないと言っただけで、下手ではないんだがな」



 ハンスと別れ、自室に戻る途中の廊下で、ばったりオーケルマンに出くわしてしまった。


 ヤバイ!!

 夜中に出歩いているのを見られた!


「マヤ、何をウロウロしているのだ? 早く寝ないとお前の美しい顔に障るぞ」

 今夜のオーケルマンはいつもと違う。

 こういう時は俺の体をベタベタ触ったり、下ネタを言ったりするものだ。

 そういえばハンスといるのが楽しすぎて忘れていたが、この1週間呼び出しはなかったな。


 そもそもオーケルマンはなぜ、妾の部屋が集まるこの場所に?

 オーケルマンが鼻の下を伸ばしながら入っていったのは、別の妾の部屋だった。

「アイシャ~」


 そうか、オーケルマンのお気に入りは俺から別の妾に変わったんだ。

 俺は飽きられたんだな。


 少し前だったら作戦を考えるところだが、今は痛くも痒くもない。

 真実の愛を手に入れるのにオーケルマンは役に立たなさそうだし、飽きられたからって俺の身分が変わるわけでもないし。

 互いが必要ないと思ったのであれば、契約は終了だ。

 表向きは妾として従順でいるが、面倒事は新しいお気に入りに任せよう。
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