真実の愛は体を売って手に入れる所存

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ハーフハーフバースデー

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 北の台地に来てから何日経過しただろう。

 数えることも虚しくなって、本格的に世俗から離れた生活に馴染んだ。

 ここでの穏やかな生活も楽しいが、王宮が気になる。


「何落ち込んでるの? 今日はイヴの生後3ヶ月を祝うんだから、シャキッとしなよ。それでも牛乳を飲みたくて、ズルしてるの?」

「アリスじゃないんだから……。祭りの準備に向けて鋭気を養ってたんだよー!」


 ということは、今日で3ヶ月と1週間か。

 執念深いオーケルマンの嫌がらせが終わっているとは思えないから、もう少し大人しく待とう。


 それにしても新生児にとって過酷な環境ですくすく育ったエーヴェルトはすごい。

 生命力や愛情は、時に嘘みたいな本当を作り出す。

 そもそも医療設備のないこんな場所で出産したことが、俺にとってはアンビリバボー。


 今日は土でも耕すか。

 俺やエーヴェルトが新しく入ったことで、畑を拡大する計画が進行中だ。

 今までは手をつけていなかった荒れ地の中にも、作物を育てられるポテンシャルを持つ場所がまだ残っている。

 元々ここら一帯が荒れ地だったのが、ここまで畑として活用できているんだ。

 まだまだ開拓していけるはずだ。

 よーし、今日も頑張るぞー!


 フィリップも土を耕すようで、

「おはよう。今日は天気が良くて作業が進むね」

 と爽やかな挨拶をされた。


「おはようございます。最近雨が多くて、内職ばっかりで体を動かすのが待ち遠しかったですよ」

「ジューン、おはよう。今日もお兄ちゃんは元気ね」

 イヴを抱いたテレサである。


「おはようございます! イヴもおはよう~」

「ふふ。この子にお父さんが頑張っているところを見せようと思って」

 イヴはキャッキャとご機嫌で、朝の散歩が楽しいようだ。


「今日はイヴの3ヶ月のお祝いですね!」

「私が働けなくなったのに、さらにお祝いまでしてくれるなんて、本当にありがとうねぇ」

 少し引け目を感じているようだ。

「ここが全部畑になれば、もっと多くの野菜が採れて、イヴはあっという間に大きくなっちゃいますよ! 俺、頑張ります!!」

 イヴは俺の弟だ。

 王宮の弟はどうしてるかなあ。


 フィリップは汗を拭いながら、今夜のことを話した。

「そういえば、一週間後の収穫祭を兼ねたお祝いだって言ってたよ。イヴは皆に祝ってもらえて幸せ者だね」

 収穫祭って、ハロウィン的なアレか?

 俺の知ってるそれは、コスプレした若者が街を練り歩くイベントだ。


「収穫祭って?」

「ジューンのいたところではなかったのかい? 収穫祭は豊穣を神に感謝すると共に、来年も豊作でありますようにと願うんだ。収穫した野菜を皆で食べて、神様のおかげで僕たちは今こんなに満たされていますよって。本当は酒も飲むんだけど、ここにはないからね……」

 フィリップは酒がないことが残念そうだ。


「もうっ、お酒なんて体に毒ですよ!」

 テレサに咎められたフィリップが

「……酒は薬になる」

 と反論するも

「酔っ払いはロクなことしないじゃない!」

 と軽々とぶっ飛ばされた。


 フィリップは尻に敷かれてるんだな……。

 2人の会話でイヴがはしゃいでいるし、いっか。



 夜、いよいよイヴの3ヶ月祝い&収穫祭が始まる。


「アリス~。今夜は収穫祭もやるって知ってたか?」

「昼間聞いた。その分、下ごしらえが大変で3日分は働いたと思う」

 食糧の備蓄は大して余裕もないのに、こういう時は奮発する、この雰囲気が大好きだ。

 小さな幸せを何倍にして分かち合う感覚。

 こんな僻地でも、皆の精神が安定しているのが頷ける。


 それぞれわずかな量の牛乳と、なみなみとつがれたスープが配られた。

 フィリップがゴホンと咳払いをし、周りを見渡した。

 乾杯の音頭を任されたようだ。


「えー皆さん! 今夜はたくさんのご馳走に囲まれ、日頃の労働が報われるというものです! えー、最近は新しい家族が2人も増えまして、ここでの生活はより一層充実――」

「分かったから早くしろー」

 ヤジが飛んで、場が和んだ。

 俺たちは早くこの貴重な牛乳を飲みたいんだ!


「そうですよね~。ではまず牛乳が入った杯を手に取ってくださいよー!! ふぅ…………行きます! 『ペトロネッラに乾杯』」

 皆が口々に「ペトロネッラに乾杯」と言って、牛乳を飲み干す。

 俺も真似をして牛乳のまろやかさに感動し

「ところでペトロネッラって?」

 とアリスに訊ねた。


「豊穣の女神様だけど、アンタ知らなかった?」

 俺は外国人みたいなもんだからな。

「あーあーそうだった。聞いたことはあるよ」

 王宮では王様が一番で、神様がどうこうって話は聞いたことがなかった。

 でも王国の民たちは、生活に根付いた神様を信仰しているんだ。


「えー続きましてはスープでございます! このスープは我が愛息エーヴェルトが誕生した日に採れた野菜の汁で作っております。では皆さん、エーヴェルトに乾杯っ!!」

「エーヴェルトに乾杯っ!!」

 と今回は俺もノリノリで声を出し、豪快に飲んだ。

「!!?」
 
 何だこの不味さは!?

 ほんのり牛乳と混ざって、不気味な口当たりである。


 アリスも苦虫を噛み潰したような顔だ。

「うえぇ……」

 テレサも

「本当に汁ね……」

 と旨みが全くないスープを評価した。


 イヴが興味津々にスープを見ているが、それは絶対に飲ませちゃダメだ!

 野菜嫌いになること間違いなし!!


「野菜の栄養がたっぷり摂れて、めでてぇことじゃねぇか!」

 と誰かが無理やり褒め称え、根性で飲み干す者が続出した。


「見てろ? 俺も今からこれを飲み干して、全てを取り込む!!」

「何それ? 私だってそれくらいできるから」

 競争だと言わんばかりの一気飲み。

「まっっっずーーーー!!」

 口を揃えた俺たちは、本当の兄妹のようだった。
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