異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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銀翼の鳥を探せ!

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 異世界にも花の世話にも慣れた頃。
 
 私はいつも通り花畑にいた。

「大きくなるんだよー。いい色が付いてきたね~」
 
 花に声をかけるのも習慣になり、今日も綺麗に咲いてくれて嬉しい。


(さて、そろそろ帰ってスープでも作りますか)

 研究所に帰ろうとした時、泣いている子供の声が聞こえる。

 こちらに近づいているようだ。

「ポーちゃーん~、どこにいるの~? ポーちゃーん~、でてきてよぉー」

 男の子は泣きながらも何かに声をかけ続けている。


「どうしたの? はぐれっちゃった?」

 困った人に進んで手を貸すのは、パラスリリーでは当たり前のことだ。

「ポーちゃんがいなくなっちゃったの」

「ポーちゃんって?」

 ゴシゴシと涙を拭いながら答える。

「このまえママにかってもらった。はねがぎんいろでかっこいいの」

 腕をパタパタさせ飛ぶジェスチャーをしてみせる。

「ポーちゃんは鳥さんなんだね。ここら辺に飛んで行ったの?」

「わかんない。おきたらカゴがひらいてて、どっかいっちゃった」

 再び泣き出しそうな子供に現実を突き付けるほど鬼じゃない。

「僕、名前は? 私はサクラ!」

「トムだよ。おねえちゃん、けんきゅーせー?」

 思えば、私は研究生でもないのに研究所ブロックにいるのだ。

「うーん、そんな感じ」

 子供相手に見栄を張った……。

「ねえ、おくすりでポーちゃんさがしてよ。ママがこまったときのドクターっていってた」

 オリヴァーは人々に献身的な余り、子供に便利屋だと誤解されているようだ。
 そもそも薬で解決できる問題なのだろうか。

「あ~どうかな~? ママは一緒じゃないの?」

 トムは東側はるか遠くを指差した。

「ママはむこうでポーちゃんさがしてる。ゆうがたのかねがなったらおうちにかえる」
 
 パラスリリーの治安は常に自警団に守られており、誘拐の心配がない。
 だから幼い子供が街中を一人で歩き回るのもおかしな光景ではない。

 しかし困っている子供を放置するのは大人として失格だ。

「研究所に行ってドクターに相談してみよっか」

「うん! けんきゅーじょいくー!」



 研究所に入るとオリヴァーは不在だった。

 オリヴァーは時々各家庭を訪問して、薬を渡したり病気の相談に乗ったりしている。

 こういう時はなかなか帰ってこない。

 今もポーちゃんは悠々と空を飛んでいるに違いない。

(どうしよう……何か使えそうな薬あるかな?)

 トムはポーちゃんに会えると信じきっており、目をキラキラと輝かせている。

「おねえちゃん、ドクターは?」

「うーんと、今はいないみたい……」

 策を講じるが、そもそも香水の知識も最近になって身につけたばかりで、薬のことは全く分からない。
 今の私にできることは何もない。

 
 ここでトムを突き放したらどうなるだろうか?

 薬を作ってくれるドクターはいない。
 ポーちゃんも帰ってこない。
 だから大人しく家に帰ってママに新しい鳥を買ってもらえと正論を吐き捨てたら……。

 きっとトムは泣きながら一人でポーちゃんを探すだろう。

 迷子になっても誰かが家まで送り届けてくれる。

 私が救えなくても’誰か’が……。

(私はいつまで誰かに頼るんだ! 自分で動かなきゃ、あの孤独な最期を繰り返すだけだ!!)

 トムに無謀とも言える作戦を告げる。

「今からお姉ちゃんが薬を作るね!」

 
 事情を知らないトムは私を完全に信頼し、純粋な眼差しで薬を待つ。

(逃げたペットを見つけるってことは、紛失物を探すみたいな感じかな?)

 今日まで蓄えた知識をフル活用して、該当する精油をひねり出す。

(そうだ!)

 ジャスミン:飽くなき探究心とロックンアイス:正誤を混ぜてみる。

 金属探知機やダウジングのような効果が発揮されないだろうか。

(大切なのは心……早く見つかりますように……)

 ところが色は変わらずただの香水のままだ。
 しかも奇妙なニオイとなり、香水としても不適切な出来となってしまった。

 刺激的なニオイはトムの方にも広がる。

「おねえちゃん、なんかくさいよー」

 トムにはこの危機的状況を気付かれてはいけない。

「ごめん、ごめん。大丈夫だよー。ちょーっと待っててね~」


 次はジャスミンとラベンダー:誘惑で挑戦してみる。

 探しても見つからないなら、ポーちゃんからやって来てもらおうというわけだ。

 ……しかしこれも失敗。

 当然といえば当然だが、私には薬を作る能力が備わっていない。
 始めから無理だったのだ。

(オリヴァーが帰ってくるのを待つしか……)

 子供の感性は侮れないもので、弱気はトムに届いた。
 涙を浮かべてトムは言う。

「もうポーちゃんにあえないの? ママがとんでったとりさんはもどらないっていってた。ポーちゃんはぼくがきらいになったの?」

 その言葉で昔のことを思い出す。

 幼い私は母の姿が見えなくなるだけで泣き叫んだそうだ。
 懐かしそうに語る母の顔は今でも忘れられない。

 大好きな存在を失う怖さは痛いほど分かる。
 そして失ってしまった痛みを覚えるには、トムは幼すぎる。


 一切の弱気をかなぐり捨てて、トムに宣言した。

「トム、安心して。必ずポーちゃんを見つけてくるから! ここで待ってて!!」

 子供でも食べられそうな果物やパンを机に置き、勢い良く研究所を飛び出した。
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