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いざパーティーへ!
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クロエが待つキャボット邸は一般居住ブロックとは離れた場所にある。
いわゆるパラスリリーの中でも特に裕福な層が集まるブロックで、とりわけ豪奢なのがキャボット邸である。
大きな正門は開け放たれて、パーティーのゲストたちを迎え入れる。
手入れが行き届いた庭は端がどこにあるか、正門からは確認できない。
「わあ、豪邸ですね! 図書館より大きな建物があっただなんて!」
「こっちに来る用事なんてそうないからね。キャボット商会はパラスリリー随一の貿易業を営んでるから、羽振りが良いんだよ。研究所とは大違いだね」
バツが悪そうなオリヴァーはいつもと違い正装に着替えている。
「サクラー! あなたも誘われてたのね! ドクター、この子借りるわよー!」
アリアも招待状を受け取っていたようだ。
オリヴァーにブンブンと手を振ると、私の手を掴んで玄関に向かう。
「初めてのパーティーだから緊張しちゃって……」
「大丈夫よ! 楽しい時間を過ごすことだけがルールなんだから。それに今のあたしたちはとっても可愛いわ!」
アリアはシュッと香水を吹きかけた。
「これは『自分を解放する』おまじないよ! 今日は思い切り楽しみましょ」
すでにパーティーは始まっており、広すぎる玄関を通ってパーティー会場である客間に入った。
「ねえ見て! これどこのグラスかしら? この前はなかったから今日のために新調したのね」
アリアは目に見える全てに感激している。
すっかり異世界での生活が日常として馴染んでいたが、この空間は非日常だ。
高級そうな器に、有名な芸術家が描いたのだろう絵画もたくさん飾られている。
この世界のありとあらゆるトレンドがここに集まっているのではないだろうか。
フワフワした気持ちでいると、同年代と思しき女の子に声をかけられた。
「あなたがサクラさん?」
「はい、はじめまして。サクラです」
周囲の女の子たちが視線を集める。
「あなたがあのサクラさんなのね!」
「いいなあ~。ドクターと一緒に住んでるんでしょう?」
「どこからいらしたの?」
「ねえ、ドクターの秘密とか教えてよぉー」
女の子たちから質問攻めに合う。
ほとんどがドクター関連だったけど……。
でもパーティーの雰囲気に乗せられて普段よりおしゃべりになる。
リチャードによって「グレイトノード」から来たことになっている私は、外の国をある程度知っている設定になっている。
(良かった。図書館で勉強してて)
気付けば緊張はほぐれ、パーティーを存分に楽しむのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、オリヴァーはクロエと庭園にいた。
「オリー、来てくれたのね。とっても嬉しいわ」
「アハハ…久しぶりだね」
オリヴァーは煌びやかな宝石を身にまとうクロエを一瞥して苦笑いした。
「研究所の彼女、何てお名前だったかしら?」
「ああ、サクラだよ。彼女が花の管理をしてくれるから研究に集中できるんだ」
にこやかにサクラを褒めるオリヴァーにクロエは表情を硬くする。
「……そう。今日はサクラさんの歓迎会も兼ねているのです。明日と明後日は今日呼べなかった人が来てくださるの。わたくし、オリーには明日も来て欲しいわ!」
「ハハッ、相変わらずクロエは派手なことが好きだなあ」
クロエはわざとらしく腕を組んで不満を漏らす。
「リック兄様はどうして来てくださらないのかしら? 遣いの者まで送ってお誘いしましたのに」
「リチャードは責任感が強いからね。公私混同するわけにはいかないだろ?」
オリヴァーは会話はするものの、クロエとあまり目を合わせないようにしている。
「ねぇ、オリー。今日は色んな方に先の貿易について聞かれたのよ。航海中の天候悪化やハリヤードの皇太子のことに、この宝石の話。オリーも聞きたい?」
小首をかしげて上目遣いをするクロエ。
「ああ……僕は外のことには興味ないかな。クロエが無事に帰って来て嬉しいよ」
期待外れの返事にクロエは顔を曇らせた。
「でしたらわたくしはオリーの話が聞きたいわ。わたくしがいない間の面白い話を教えてくださらない?」
「サクラが研究所に来て……、ああそうだ! この前サクラが薬を作ったんだよ! パラスリリーの人しか作れないって言われてるけど、そうじゃないかもしれない。最近はサクラが料理も準備してくれんだけど、僕の知らない料理もあって食事の時間も楽しいな。食事中の会話で、今まで気付かなかったことが見えてくることもある。きっとサクラは――」
クロエは突然饒舌になるオリヴァーに驚いた。
それと同時に今までとは違う人間の名前を出すオリヴァーを快く思わなかった。
「オリー」
先ほどまでの優雅でどこか媚びたような声色から一変し、抑えのきいた声だった。
「その話はもういいわ。わたくし何だか頭が痛いので、ここで失礼します」
立ち去ろうとするクロエをオリヴァーは心配する。
「大丈夫? 薬、作ろうか?」
「お気遣いありがとう、オリー。わたくしの薬は従者が管理しているから大丈夫。気になさらずパーティーを楽しんで」
オリヴァーに背を向けたクロエの笑みは引き攣り始めていたが、ゲストたちは談笑に夢中で悟られることはなかった。
そしてクロエは平常心を取り戻しゆっくりとした足取りで屋敷内に入るのだった。
いわゆるパラスリリーの中でも特に裕福な層が集まるブロックで、とりわけ豪奢なのがキャボット邸である。
大きな正門は開け放たれて、パーティーのゲストたちを迎え入れる。
手入れが行き届いた庭は端がどこにあるか、正門からは確認できない。
「わあ、豪邸ですね! 図書館より大きな建物があっただなんて!」
「こっちに来る用事なんてそうないからね。キャボット商会はパラスリリー随一の貿易業を営んでるから、羽振りが良いんだよ。研究所とは大違いだね」
バツが悪そうなオリヴァーはいつもと違い正装に着替えている。
「サクラー! あなたも誘われてたのね! ドクター、この子借りるわよー!」
アリアも招待状を受け取っていたようだ。
オリヴァーにブンブンと手を振ると、私の手を掴んで玄関に向かう。
「初めてのパーティーだから緊張しちゃって……」
「大丈夫よ! 楽しい時間を過ごすことだけがルールなんだから。それに今のあたしたちはとっても可愛いわ!」
アリアはシュッと香水を吹きかけた。
「これは『自分を解放する』おまじないよ! 今日は思い切り楽しみましょ」
すでにパーティーは始まっており、広すぎる玄関を通ってパーティー会場である客間に入った。
「ねえ見て! これどこのグラスかしら? この前はなかったから今日のために新調したのね」
アリアは目に見える全てに感激している。
すっかり異世界での生活が日常として馴染んでいたが、この空間は非日常だ。
高級そうな器に、有名な芸術家が描いたのだろう絵画もたくさん飾られている。
この世界のありとあらゆるトレンドがここに集まっているのではないだろうか。
フワフワした気持ちでいると、同年代と思しき女の子に声をかけられた。
「あなたがサクラさん?」
「はい、はじめまして。サクラです」
周囲の女の子たちが視線を集める。
「あなたがあのサクラさんなのね!」
「いいなあ~。ドクターと一緒に住んでるんでしょう?」
「どこからいらしたの?」
「ねえ、ドクターの秘密とか教えてよぉー」
女の子たちから質問攻めに合う。
ほとんどがドクター関連だったけど……。
でもパーティーの雰囲気に乗せられて普段よりおしゃべりになる。
リチャードによって「グレイトノード」から来たことになっている私は、外の国をある程度知っている設定になっている。
(良かった。図書館で勉強してて)
気付けば緊張はほぐれ、パーティーを存分に楽しむのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、オリヴァーはクロエと庭園にいた。
「オリー、来てくれたのね。とっても嬉しいわ」
「アハハ…久しぶりだね」
オリヴァーは煌びやかな宝石を身にまとうクロエを一瞥して苦笑いした。
「研究所の彼女、何てお名前だったかしら?」
「ああ、サクラだよ。彼女が花の管理をしてくれるから研究に集中できるんだ」
にこやかにサクラを褒めるオリヴァーにクロエは表情を硬くする。
「……そう。今日はサクラさんの歓迎会も兼ねているのです。明日と明後日は今日呼べなかった人が来てくださるの。わたくし、オリーには明日も来て欲しいわ!」
「ハハッ、相変わらずクロエは派手なことが好きだなあ」
クロエはわざとらしく腕を組んで不満を漏らす。
「リック兄様はどうして来てくださらないのかしら? 遣いの者まで送ってお誘いしましたのに」
「リチャードは責任感が強いからね。公私混同するわけにはいかないだろ?」
オリヴァーは会話はするものの、クロエとあまり目を合わせないようにしている。
「ねぇ、オリー。今日は色んな方に先の貿易について聞かれたのよ。航海中の天候悪化やハリヤードの皇太子のことに、この宝石の話。オリーも聞きたい?」
小首をかしげて上目遣いをするクロエ。
「ああ……僕は外のことには興味ないかな。クロエが無事に帰って来て嬉しいよ」
期待外れの返事にクロエは顔を曇らせた。
「でしたらわたくしはオリーの話が聞きたいわ。わたくしがいない間の面白い話を教えてくださらない?」
「サクラが研究所に来て……、ああそうだ! この前サクラが薬を作ったんだよ! パラスリリーの人しか作れないって言われてるけど、そうじゃないかもしれない。最近はサクラが料理も準備してくれんだけど、僕の知らない料理もあって食事の時間も楽しいな。食事中の会話で、今まで気付かなかったことが見えてくることもある。きっとサクラは――」
クロエは突然饒舌になるオリヴァーに驚いた。
それと同時に今までとは違う人間の名前を出すオリヴァーを快く思わなかった。
「オリー」
先ほどまでの優雅でどこか媚びたような声色から一変し、抑えのきいた声だった。
「その話はもういいわ。わたくし何だか頭が痛いので、ここで失礼します」
立ち去ろうとするクロエをオリヴァーは心配する。
「大丈夫? 薬、作ろうか?」
「お気遣いありがとう、オリー。わたくしの薬は従者が管理しているから大丈夫。気になさらずパーティーを楽しんで」
オリヴァーに背を向けたクロエの笑みは引き攣り始めていたが、ゲストたちは談笑に夢中で悟られることはなかった。
そしてクロエは平常心を取り戻しゆっくりとした足取りで屋敷内に入るのだった。
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