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隠せない気持ち

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 溢れ出る涙を抑えられないまま、お手洗いに駆け込む。

 ちょうど鏡の前で髪の毛を整え直しているアリアと鉢合わせた。

「サクラ!? あなたどうしちゃったの!? おて洗いから帰ってこないと思ったらこんなになって」

 鏡に映った私はひどい顔だ。

 悲しみがこみ上げますます涙は勢いを増し、アリアに抱きついた。

「……っ、涙をっ……、止める薬を……ちょうだいっ」

 アリアは背中をポンポンと叩きながら私を落ち着かせようとする。

「何があったの? 薬じゃ悲しみまでは癒せないわよ」


 介抱のおかげで少し落ち着いた私は、アリアに連れられながら人気の少ない屋外に出た。

「どう? 少しはスッキリした? それで、何があったの?」

 泣き疲れてグッタリと、重い口を開く。

「クロエさんの部屋に行ったの」

 アリアは予想していない回答に驚き、思わず大きな声を出してしまう。

「クロエ嬢の!?」

「クロエさんとゆっくり話すためだったんだけど、そこで……クロエさんとオリヴァーが婚約してるって知って」

 また涙が溢れてくる。

 アリアは再び背中をさすり始めた。

「……私っ、オリヴァーが好きなの。どうしたらいいか分からない」

 もう隠すことはできなかった。
 とうに気付いていた感情を初めて口に出し、少しだけ気持ちが軽くなる。


「あの2人がねぇ。あたしも知らなかったわ」

 泣いてまともに返事もできない私を気遣って、アリアは一人で話し続ける。

「それにしてもホント、ドクターってモテるわね~。あの若さで研究所任されてるんだから人気出ちゃうわよね~。でもあたしはリチャード様の方が素敵だと思うんだけど。ドクターって人たらしよね~」
 
 アリアは背中をさするのを止めて、私の顔に両手を添えると自分の方へ向けた。

「サクラはその気持ちをドクターに伝えたの? 婚約のこと、ドクターの口から聞いたの?」

「だってクロエさんが――」

「まずあなたの気持ちを伝えなきゃダメでしょ! 泣くのはそれから」

 
 力なくもたれ掛かる私の頭をアリアはポンッと叩く。

「ごめんね。私のせいでせっかくのパーティーが……」

「何言ってんのよ! パーティーより親友との恋バナの方が楽しいわよ!!」

 おどけた調子のアリアに元気をもらい、何とか平常心を取り戻すことができた。



 夕方になりもう涙の跡も乾いた頃、人々で賑わう玄関へ戻った。

 クロエと話をしているオリヴァーを見つけた。

 かっこいいと思っていたオリヴァーの正装姿も、彼女のためだと思ってしまい胸が痛い。

「サクラ! 日が暮れる前に帰ろう!」

 オリヴァーは遠くで手を振りながら声を張る。

(そんなに大声出さなくても分かるよ)

 オリヴァーはクロエに何か話し、私の方へ近づいて来る。


「ちゃんと言うのよ!」

 アリアは私に香水を吹きかけてその場を離れた。

「ドクター、サクラのこと、ちゃんと送ってあげてよ」

 オリヴァーはその意図を汲み取れず、一瞬ポカンとした表情をした。

「もちろんだよ。じゃあ、帰ろうか」

 オリヴァーの後ろに見える遠くのクロエさんが気になって、黙って頷くことしかできない。
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