異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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贈り物は気持ちを込めて

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 アリアが所属するチャールズ研究所は、多くの研究生を抱えている。

 オリヴァーの研究所のような気軽に立ち寄って相談するといった人間臭さはないが、その分、専門性の高い施設で研究生たちは切磋琢磨している。

 壁のあちこちが黒板になっており、香水作りに役立つメモが共有されている。

「アリア。ちょっといいかな?」

 先ほどは休憩時間だったのだろうか。
 アリアは真面目な研究生の顔をしていた。

 
 チャールズ研究所入口前で、例の日傘を渡す。

「この前買ったドレスに合うわ! ありがとーサクラ!」

 喜んでくれたようで何より。

「ドクターにはもう渡した?」

「まだだよ。まずはアリアに渡したくて。親友の喜ぶ顔が見られて良かった」

 えへへ、と照れるとアリアも口を横に大きく開いて笑った。

「それとこれからリチャードさんのところに行こうと思ってる」

 アリアの目がキラリと光った。

「リチャード様のところ!? あたしも行きたい!!」

「構わないけど、研究は大丈夫なの?」

 アリアは口元を手で隠しながら小声で言った。

「今日はチャールズさん上機嫌なのよ。皆から『讃歌の日』の贈り物をもらって、特別に午後から休暇が出たの!」

 アリアの大荷物の中にもチャールズへの贈り物があったに違いない。

「じゃあ、私、街で時間潰してるから噴水のところで待ち合わせね!」



 午後の鐘が鳴ってしばらくしてからアリアが現れた。

「ごめん、待った? あたしリチャード様への贈り物買ってないの。食事してから見て回っていい?」

 私たちは家庭料理が美味しい「ジェフワール」に入り、食事中は延々と女子トークに花を咲かせた。

「リチャード様はあの若さで自警団長なんて、かっこ良すぎるわ! ドクターも若くして研究長だから優秀な人材だけど、あたしは断然リチャード派ね」

「リチャードさんはたまにウチに来るよ。オリヴァーに薬もらいに」

 私も時々上手くできた薬をあげていることは黙っておこう。

「いいなぁー。チャールズさんが自警団とのコネ作ってくれたらなー」

「ねえ、チャールズさんってどんな人? 私会ったことない」

 食事をしていた手が止まり、目を突き刺す勢いでフォークを私の顔に向けた。

「あの人、ほんっっっとうに人使いが荒いの! 全然研究室から出ないで、買い物は研究生にさせるのよ! お尻に根っこが生えているお爺ちゃんだから、サクラが見たことないのも当然よ」

 どうやらチャールズも研究以外には興味がないようだ。

 アリアは優しい声色で続けた。

「でもね、研究者の育成に人生を捧げた人でもあるの。チャールズさん結婚もしないで、ずっと研究に向き合って研究生の悩みに寄り添ってる。ドクターもチャールズさんに師事していた時期があるそうよ。『お前たちは俺の家族だー』って、みーんないつか巣立ってっちゃうのに」

 チャールズは人情味のある憎めない人なのだろう。

「チャールズさんには何をあげたの?」

「フルーツの盛り合わせよ。質より量作戦!!」

 フルーツの盛り合わせはアリアの荷物の中でも、一際大きく運ぶのに手間がかかりそうな贈り物だった。

(何だかんだ言っても、チャールズさんのこと大好きなんだね)

 ニヤついてる私に

「何よ?」

 と言うアリアは珍しく顔が赤くなっていた。

「別にぃ~。『讃歌の日』って素敵な行事だね。リチャードさんには何を贈るつもりなの?」

 アリアはハッとした顔で

「リチャード様もライバルが多いから、一番目立つ物にしなくちゃ! ゆっくり食べてる暇はないわ!」

 と急いで食べ始めたので、つられた私もガツガツ食べ、リチャードへの贈り物探しに繰り出した。



 マーケットは相変わらず人で溢れているが、商品の在庫はまだまだあるようだ。

「この前『カフカ商会』が帰ってきたばかりだから、珍しい物があるはず」

 アリアはひたすらパラスリリー初上陸の舶来品を探している。

「ところで、サクラは何にしたの?」

「私は大した物じゃなくて、クッションとクッキーだよ。クッキーは皆で食べる用にいいと思って」

 アリアのこだわり方を見ると、自信が無くなってきた。

「いいわね~。形に残る物だと、それを見るたびにあたしを思い出してくれるし!」

 そのようなつもりはなかったが、確かに消耗品と飾り物では好みが分かれそうだ。

 アリアは愛しのリチャードのために、マーケットを彷徨い歩く。

 ようやく決まった時には、もうすぐ夕暮れという時間だった。

「時間かかってごめんね~。リチャード様を想うと、あれこれ考えちゃって」

 アリアが選んだのは持ち手部分が鷹の頭部になっているステッキだ。
 おしゃれで権威ある立場のリチャードにピッタリである。

「私もオリヴァーの贈り物には悩んだよ~。リチャードさん絶対喜んでくれるよ! だから早く行こっ!」
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