異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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救出

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 クロエたちを手引きしていたのはシプリアーノだった!

 ではなぜウォルトンが手を組んでいる?
 シプリアーノが話した「勉強」や「監禁」は何か別の意味を持つのか?

 冷たい牢の中でグルグルと思考を巡らせる。

(とにかくここから出ないと……!)

 牢の見張りは1人で、ただ座っているだけだ。
 しかし牢に行くまでには多くの構成員たちに出会った。

 牢から出る鍵は見張りが持っており、運良く出られても構成員たちに見つかってしまう。

 明日には私はどこかに売られる……。
 
 オリヴァーとイワンは今頃探し回っているだろう。
 もしシプリアーノが送り込んだ構成員に遭遇してしまったら……。

(足でまといになっちゃった……)


 どれほどの時間が経っただろうか。
 
 牢のある長い通路を駆けてくる音が響く。

 見張りの男が立ち上がり叫んだ。

「誰だてめぇ!」

「ぼっ、えーゴホンゴホン。俺はお前たちの仲間なんだっ……ぜぇ? さっきボスにも会って来たからな!!」

 悪ぶったぎこちない口調だったが、声の主はオリヴァーだ!

 オリヴァーは見張りと会話しながらこちらへ近づいてくる。

 
 オリヴァーに存在をアピールするために、鉄格子を掴みながら

「ここから出して!!」

 と抵抗してみせる。

「オイッ! 変なマネしてんじゃねぇぞ」

 見張りの男がこちらに注意を逸らした時、オリヴァーが後ろから男の口にハンカチを押し当てた。

 見張りの男は声も上げずに白目を剥いて、うなだれるように膝から崩れ落ちた。

 むにゃむにゃと楽しい夢でも見ているのだろうか。

「サクラ、迎えに来たよ! 怪我はない?」

 オリヴァーは服を土まみれにして、口元には殴られた出血もあった。

 私よりもオリヴァーの方が手当てが必要だ。

 状況が変わったことに安堵し、次々と話したいことが浮かぶ。

「オリヴァーの怪我が心配です。それにイワンさんは?」

「彼はサイス船長たちとここに向かってる。それより早くここを出よう!」

 オリヴァーは牢の鍵を探している。

「鍵はその男のポケットの中に!」

 牢が開き自由の身となった私は、オリヴァーに手を引かれながら走る。

「ちょっと走るよ。大丈夫、もう離さない」

 
 走りながら見張りの男をどうやって大人しくさせたのか尋ねた。

「彼には鎮静剤を嗅がせたんだ。とはいっても通常の3倍以上は濃縮されているから、しばらくは起きないよ」

 オリヴァーは懐に薬を忍ばせていた。
 パラスリリー出発を決めた時から、有事の際を想定していたそうだ。

「オリヴァーに言わなきゃいけないことがあるんです! ウォルトンさんは――」

 
 ウォルトンの居場所を明かそうとした時、通路の向こう側から足音がする。

 カツカツカツと革靴の音が近づくたびに、恐怖で胸がドキドキする。

 光に照らし出されたのは、眉間に皺を寄せたシプリアーノだった。

「愛の逃避行とは泣かせるじゃねぇかァ」

 シプリアーノの異常な殺気に体が身震いする。

 オリヴァーもこの男が只者ではないと理解し、私を隠すように一歩前に出る。

「お前、彼女に何をしたんだ!」

「お前こそ、俺の可愛い部下たちにひどいことしてくれるじゃねぇか、あぁ? 死んだみてぇに寝てるから、何人もあの世に送っちまったよ」

 シプリアーノは懐から銃と取り出すと、銃口を私たちに向ける。
 正確にはオリヴァーから少し見切れている私を狙っていた。

「次も外れる方に賭けるか?」

 シプリアーノは命乞いも待たずに引き金を引いた。


「危ないっ!!」

 発砲する直前にオリヴァーが私に覆い被さった。

(そんな……!!)

 だがオリヴァーの肩越しに見た光景は、銃口をやや上に向け頭から血をタラリと流すシプリアーノだった。

 なぜシプリアーノは私に狙いを定めた後で、明後日の方向に発砲したのか。

 答えは我らの誇り高き一騎当千の戦士だ。

「……ふぅ、間に合ったッス!」

 倒れるシプリアーノの背後からイワンがひょっこりと顔を出した。

「イワンさん!!」

 私を抱きしめ続けていたオリヴァーの力が緩む。

「助かったよ! ハハッ、さすがだな」

 イワンもここまで来るのに相当苦労したのだろう。
 服や髪型が乱れているが、大きな怪我はなさそうだ。

「サクラさんもドクターも元気そうで何よりッス!」

 久しぶりの集結に私たちのテンションは高まる。

 
 そして私はようやく最重要情報を伝えることができた。

「ウォルトンさんは最上階にいます!!」

 オリヴァーとイワンの目に力がみなぎる。

 待ちに待ったこの時を絶対に逃すまいと、私たちは急いで階段を駆け上がるのだった。
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