異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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研究者を支える森

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「で、何であたしなのよ?」

 休暇を満喫しようとしていたアリアを引っ張り出した。

「ドクターと一緒に行けばいいじゃなーい」

「オリヴァーはまだ仕事が残ってるし、それにアリアと2人で話すの久しぶりだしね。お願いっ!! 期限までに薬を完成させるの手伝って!!」

 アリアは深く息をついた。

「分かったわよ。その代わり今度奢ってよね」

「もちろん!」

 
 アリアは何度か行ったことがあるらしく、森へはすんなりたどり着いた。

 森といっても整備された巨大な自然公園みたいな場所だった。

「この辺りの木からは正体不明の良い物が放出されていて、それが研究者にひらめきと心の豊かさを与えるらしいわ」

「正体不明……?」

 パラスリリーは不思議は力で溢れている。

「あたしも気になったんだけど、チャールズさんは『何でも暴けばいいってもんじゃない』って言ってたわ。研究者としてどうなのって感じよね~」

 
 とても静かで頭がすっきりする。

 大切な場所を守り続けるため、歴代の研究者たちは森を人為的な物から遠ざけたのだろうか。

「アリアはここによく来るの?」

「たまにチャールズさんのお遣いで、花を摘みに来るの。必要な分だけなら、研究所に持ち帰って精油にできるから」

 花畑では育ててない花の精油が研究所に保管されているのは、この森からもらっているためだった。

 私たちは森の奥へと入っていった。



 アリアが周りをキョロキョロして私たち以外誰もいないことを確認する。

「サクラたちがいない間に、キャボット家の死亡が発表されたわよ」

 クロエはパラスリリーを経つ前に処刑された。

「海で嵐に巻き込まれて商船だけ流れ着いたってことになってる。キャボット商会がなくなったから、今の最大手はコーザ商会に移ったわ。キャボット商会の従業員も全部コーザが引き継いだみたい」

 あくまで不慮の出来事として処理したいのだろう。

 アリアは物憂げに続ける。

「皆最初はびっくりしたり悲しんだりしてた。でもすぐに忘れて今やコーザ商会が持ち帰る舶来品が楽しみで仕方ないの。あたしたちは平和な暮らしに慣れてるせいで、命の重さを忘れちゃったんだわ」

 平和とは正反対のデヴォレー自治区では、荒廃が当たり前すぎて命が軽く扱われていた。

 アリアはいつになく真剣に呟いた。

「あたしたちには毒が必要なのよ」

 しんみりしたムードを感じ取ったアリアは、すぐに普段の明るい表情に戻った。

「あたしばっかり話しちゃってごめんね~。そ・れ・で! ドクターとの色んな話聞かせなさいよ!!」

 
 静かな森に私たちの和気あいあいとした会話が響く。

「あのね、私マフィアにさらわれたんだけど――」

「えー! マフィアって本当にいるのね!」

「牢に閉じ込められているところをオリヴァーが助けてくれたの!」

 アリアは私の手を握ってブンブンと振る。

「キャー! ドクターも以外とやるじゃない」

 銃弾から守るためにオリヴァーが抱きしめたことを思い出し顔が赤くなる。

「何思い出して赤くなってんのよ! 早く続き!!」

「それで手繋いで逃げたり抱きしめられたり……私そういうの初めてで」

 アリアはあらまぁと口に手を当てた。

「ドクターは1人の男としてサクラを……!」

「べっ、別にオリヴァーは助けるためにそうしたのであって……、私が単純に嬉しかったって話!! 好きって伝えてもないし」

「そこまで近づいといて何も進展しないって、ある意味才能じゃない!? 『オリヴァーっ! 大好きぃー!!』、『僕もだよ、サクラ』そして2人は夜の街へと消えるのであった――」

 腹が立つほど甲高い女声と、やけに爽やかな少年声を使い分け、身振り手振りで始めた即興の一人芝居。
 アリアに思う存分からかわれて、私の純情恋物語ナリスバーグ編は終わった。
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