異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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サクラ

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 私はすぐに新郎新婦のもとへ行く。

「お疲れー。改めて結婚おめでとうー!」

 まだ2人とも顔が赤いが、人々が楽しく飲食している様子を見てホッとしていた。

「すっごく緊張した。皆の前でキス……するなんて」

 リチャードは涙目になっているアリアに気付くと、分かりやすくアタフタした。

「すまない。……とても美しくて俺なんかが汚したらいけないと思った」

 堅物も極めると、こんなに歯の浮くようなセリフが出るのか。

 しかしアリアは満更でもないようで、甘い2人だけの世界に没入した。

(お邪魔だったかな……)


 肉料理が並んでいるテーブル付近には、オリヴァーとウォルトンがいた。

 皿とフォークを手に料理に夢中なウォルトン、オリヴァーは呆れ笑いしている。

 ウォルトンは3年間で20kgも増え、会った当初の面影はない。

 美味しそうに食べるので、皆がウォルトンに食べさせてしまった結果だ。

 まずはマイナス5kgを目指してダイエット中のはずだが、今日は特別だ。

 しかし昨日はドーナツを食べていたので、ウォルトンにとっては毎日がスペシャル?

 しばらくウォルトンにはヘルシーな料理を差し入れようと決意する。


 腰の辺りにトンッと子供がぶつかった。

「ごめんね、大丈夫?」

 振り返ると子供ではなく、腰の曲がった小柄なおじいさんだった。

「あっ、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」

 おじいさんはニカッと笑った。

「大丈夫だよ。今日はめでたい日だ。たんまり飲み食いするぞい!」

 そう言うと、歯ごたえのある野菜をバリバリと食べ始めた。

(いい食べっぷり! 食事が美味しいのは健康の証だね!!)

 それにしても不思議なおじいさんだ。

 腰は曲がりいかにも老人の風貌なのに、歯は若い人のようにしっかり生え揃っている。

 パラスリリーに入れ歯は存在しないので、あれは全部自前だ。

 とても元気なおじいさんは、野菜を食べ終えると肉にがぶりつき始めた。


「イワンさーん!」

 大役を果たした者同士、労り合う。

「司会お疲れ様でした!」

「サクラさんもエスコート完璧だったッス! 会場は団員で設営して、皆が楽しめるようにずっと構想を練っていたッス」

 新郎新婦の位置からは参加者の顔がちゃんと見えるような配置になっている。

 そして宴の際は、あちこちを移動しながらたくさんの人と交流できるような導線設計がなされていた。


「以前よりパラスリリーはもっと生き生きした国になりましたね。きっと裁判の導入が良かったんですよ」

 裁判を行うようになってから、心を痛めるような事件も周知されるのが一般的となった。

 しかし心配したような傷付いて薬が作れなくなるといったデメリットは生じなかった。

 人々は薄々気付いていたのだ。

 隣人が突然行方不明になったり急死したりするのは、彼らの罪が自警団の知るところとなったからだと。

 罪の全容を知るより、隠される方がよっぽど精神に負荷がかかっていた。


 今のパラスリリーは、辛い事は分かち合い乗り越える方法を模索する方針を取っている。

 だからこそ今日のような祝い事は、街全体で何倍にも楽しさを膨らませることができる。

 屯所の地下室から淀みが消え、真に平和を愛する国へと変貌している。


「今度、自警団でカラバスターへ視察に行くッス。制度や文化を学んで、良い部分はパラスリリーに持ち帰りたいッス!」

 頭の良いイワンなら、パラスリリーの風土に適した文明を見極めてくれるだろう。

「また海に出るんですね! じゃあ、に再会するかもですよ?」

「サイス船長たちはもっと広い海を目指してるッス。だから会うことはな――」

 遠くで大砲を撃った音がした。

(まさかね……?)

 現実か幻か、風に乗って「ガーハッハッハー!」というあの豪快な笑い声が聞こえた気がする。

 イワンと目を合わせて、プハッと吹き出すのだった。
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