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前夜

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 夕暮れ時、出入り口付近は観客で混雑している。

 人混みの中からおもむろに男が

「お頭から話がある。付いて来い」

 と告げた。

 こんなことを言うのは彼らしかいない。

 他の観客に馴染むための正装ではあるがサイズが合っておらず、どこなく着られている感もあり、おそらく誰かの服を奪ったのだろう。

 私たちは距離を取りながら、サイスの部下に付いていった。


「ガーハッハッハー! ナリスバーグは楽しかったかァ? 俺の優秀な部下によると、ウォルトンはデヴォレー自治区にいるらしいぞ。あそこは『ケミエド』が支配していてなァ、俺たちみてぇなのがウロウロすると大乱闘に発展しちまう」

 サイスたちは独自の情報網を使い、一日もかけずにウォルトンの情報を引き出した。

「デヴォレー自治区ならここから近いッス」

「今日は遅いから明日にしよう。サクラを危険な目に遭わせるわけにはいかない」

 
 サイスは私をじっと見て言った。

「ワリィことは言わねえ。デヴォレーでの捜索は兄ちゃんたちに任せて、お嬢ちゃんは残りな」

 それだけ危険な場所だということだろう。

「お気遣いありがとうございます。でも……私、行きたいです! 行かなきゃいけないんです!」

 サイスは眉をピクリと上げた。

「海じゃァ雑魚でも勇敢と無謀の区別は付くんだぜェ? わざわざ鮫のくせぇ口の中に入りてぇのか?」

(怒らせたかもしれない)

「サクラさんはウォルトンと因縁があるッス。自分の任務はサクラさんたちを無事ウォルトンの根城に連れて行くことも含まれるッス」

「パラスリリーの代表として自警団長に任された人物です。彼女が同行しないなら、自警団長の意に反することになる」

 イワンとオリヴァーがフォローし、万が一に備えて私を庇うように前に立つ。

 サイスはそんな2人を見て安心したのか、張り詰めた空気が一変する。

「ガーハッハッハー! サクラ、おめぇは良い用心棒を持ったなァ。明日はここに船を置いておくから、何かあったら俺たちを頼れ!!」

「ありがとうございます!!」



 こうして私たちはウォルトンの居住地域と、死神リーパー海賊団の心強い援助を獲得した。

 宿屋への道中。

「いよいよですね……!」

 ワクワクと不安が入り交じる。

「今日はゆっくり休もう。僕はウォルトンに会ったら、一発殴ってやろうと思ってる」

 オリヴァーらしからぬ発言だが、今回の旅で変わったこともあるのだろう。

「明日は朝から行動開始ッス。よーく食べて、よーく寝るッス!!」

 ウォルトンの居場所を突き止める――。
 私たちはそれだけを考えて眠りに就いた。
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