異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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大名行列?②

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 再び私たちは大きな集団となり街を練り歩く。
 
 オリヴァーは訝しげに口を開いた。

「……おかしい。いくら人質がいるからって、彼らは見ているだけなんて招集された意味がない」

 サイスは声を押し殺すようにクックックと笑った。

(こんな笑い方もできるんだ)

「カンがいいな。アイツらは追い込んでるつもりなんだ。どうせ港で討つ算段だろうなァ」

 港にはパラスリリーの商船と海賊船(彼らはグレイトグリムと呼んでいた)が停泊している。

「船が壊されちゃったら出国できないじゃないですか……!」

 私の不安はすぐに払拭された。

「俺たちが留守中にグレイトグリムを沈められる? そんなマヌケじゃこの海は渡れねぇ」

 イワンは彼らが決して無鉄砲な集団ではないことを示した。

「船にはサイス船長のご指名で何人かの精鋭が残ってるッス。彼らは商船を引っ張りながら、ナリスバーグに付かず離れずの距離を保ってるッス」

「戦いを決めるのは数じゃねぇ。経験に見合う予測が肝心だ」

 死神リーパー海賊団がケミエドのアジトを制圧できたのは数によるところが多いと思っていたが、それ以上に優れた指揮官の存在が大きかったのだ。

「ガーハッハッハー!」

 サイスが突然大声で笑い出したので、軍に緊張が走る。

 
 港に到着した私たちが見たのは、破壊されたナリスバーグの砲台だ。

 軍まで引き連れた巨大な集団は遠くのグレイトグリムからも見えたらしく、こちらに向かい始めた。

 軍にとってこのタイミングで大砲が壊されていることは誤算だっただろうが、海賊の逃亡を阻止するべく命令が飛ぶ。

「撃てェー!! 卑劣極まりない海賊の首を獲れェー!!」

 入り組んだ港に群衆が入れないのをいいことに、人質の安全はお構いなしに戦闘を始めた。

「おめぇら、ダイヤもこいつらも死ぬ気で守れ!!」

 短期間ではあるが、死神リーパー海賊団に出会い、善悪は立場によって判断が分かれることを知った。

 ナリスバーグの多くの国民にサイスは狡猾で卑しい人物として映っただろう。
 一方でケミエドの支配に怯えていた人にとって、彼は救世主だ。

 もちろん私たちにとっても彼らは良き理解者である。

 
 では今回、ウォルトンの件はどうだろうか。

 ウォルトンの「スイレンのトゲ」により死にかけた時、こんなことを仕出かす人間は悪人に違いないと思った。
 常に誰かを妬み恨み、陽の光を求めないような人間。

 あの部屋を見て同じ感想を抱くことができるだろうか。

 自分自身に問いかけねばならない時が近づいている――。


「サクラ、船に乗ろう!」

 オリヴァーの手を借りながらグレイトグリムに乗り込む。

 大切な商船は傷一つ付いていない。

 サイスたちも乗り込み始めて大砲による攻撃が加わると、軍は歯が立たなくなり徐々に後退していく。

「卑怯者ッー!!」

「止まれー!」

 兵士たちの叫び声が遠くなっていく。


「カバンありがとうございました」

 カバンが戻り、こっそりと中を確認する。

(良かった。写真も入ってる!)

「おめぇの宝は見つかったか?」

 サイスがニヤニヤとカバンの中を覗き込む仕草を見せる。

 この巨体で足音一つ立てないのは、やはり歴戦の猛者だ。

「ヒ・ミ・ツです!!」

「ガーハッハッハー!」

 マフィアに命を狙われるのも、警戒中の軍に取り囲まれるのもそうそうない。

 ようやく終わったと肩の力が抜ける。

 しかしイワンが言っていたように、帰るまでが任務である。

 先のことを考えるのは、帰ってからでもいいだろう。
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