異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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それぞれの答え

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 商船はグレイトグリムと共にパラスリリーへと帰還中だ。

 ウォルトンは鍵のかかった部屋にいる。

 行動の自由を奪うことでありシプリアーノの監禁を想起させるが、ウォルトンには衝動性が強く見られ目を離した隙に海に飛び込みかねない。

 奇声を上げ続けている時は、オリヴァーが適切に希釈した鎮静剤を用いて寝かせている。

 比較的落ち着いている時もコミュニケーションは取れなかった。

 オリヴァーは明るく振舞っていたが、無理をしているのが見て分かるので辛い。

 
 私たちはウォルトンから目を背けるように、海賊たちとの交流を楽しんだ。

 長い帰路では何度も盃を交わし、私が攫われた時の話もあった。

 あの時、イワンは片道1時間半の距離を30分で駆け抜けた。

 死神リーパー海賊団と合流し自動車で移動することが決まった際、最も多くの自動車を確保したのは海賊に扮したイワンだったらしい。

 「早く到着するために仕方なかったッス。強奪は性に合わないッス!」

 と本人は弁解したが、海賊たちに「兄貴」と慕われる様は海賊団の特攻隊長みたいだ。

 
 オリヴァーは「鉄のサボテン」への道中、多くの輩に阻まれた。

 暴力的な街の若者なのか、シプリアーノが送り込んだ刺客だったのか考える余裕はなく、ただ襲いかかってきた者を蹴散らしたらしい。

「パラスリリーにいた頃じゃ考えられないよ」

 あの時のオリヴァーの精悍な顔付きは、私しか知らないのでニヤけてしまう。

 オリヴァーの口元が負傷していたのは、2人の男から背後を取られて腕を掴まれ、残りの男に一発殴られたからだった。

「あの時すぐに下半身をねじれば、反動で上半身も多少は力が入って自由に動けたかもしれない……。一瞬の判断の遅れで状況は変わるものだね」

「ガーハッハッハー! 勝負は経験がモノを言うからなァ。おめぇらが俺たちと一緒に来るってんなら、鍛えてやってもいいぜェ」


 海上での生活を刺激的なものにしてくれたのは、サイスが話す武勇伝の数々だ。

 海軍と繰り広げた死闘、襲った船に有名な賞金首がいた話などエピソードが盛りだくさんだ。

 その中には、海軍と海賊の垣根を越えて人命を救った話も含まれる。

 一緒に尽力したのがイワンの元上司オルロフ中将だった。

 若かりしサイスはこの出来事が今後の人生観を左右することになり、ここまで私たちに協力してくれる理由でもある。

「オルロフはよぉ、俺の首よりガキの命を選んだんだ。己の正義を貫くヤツに敬意を払うのは当然だ」

 昔話をするサイスは酒を飲むペースが速くなる傾向があったが、オルロフ中将に言及する時は本当に良い飲みっぷりだ。

「命には限度がある。賢者も愚者もいつかは死神の迎えを受け入れなきゃならねぇ」

 サイスは腕を前に出して、掘られた死神の鎌を見せる。

「その時、おめぇらは何を持って行く?」

 私は異世界ここに来る前、ひどく後悔していた。
 そんな後悔から解放されるのだと、情けなくも安堵していた。

「ある者は名誉を。ある者は愛を。ある者は知識を望んだ。何百人の命を持って行っちまった王だっている!」

 サイスはグビグビと酒を飲み干した。

「でもよぉ、そんなもんは虚しいだけだ。全能なる母も地獄の裁判官も、そいつの生き様を食らってんだ!」


 サイスはジョッキを机にガンと叩きつけ、立てた親指を胸に当てた。

「俺ァ学がねぇが、ここに何があるかは知ってる。目の前で仲間を殺された時! 死にたくねぇと泣き叫ぶガキの声! グラグラと血が沸き立ち跳ね上がった心臓!! それが俺の正義だ!!」

 サイスに多くの部下が付き従う理由が分かった気がした。
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