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7.マルシア・ドワイトの狂乱
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「はい?私がアルスナート皇子の側仕えに?何の冗談ですか?それは?」
最初、マルシアは父が何を言っているのか、よくわからなかった。
マルシアは父ラトックの言葉を冗談だと思ったのだ。
マルシアの父ラトック・ドワイトはエストリア南部のプ・ル・サンテ地方でも有名な貴族である。
彼女の家、ドワイト家は医術師の家系で治癒魔法、治療魔法、薬学等に長けた一族であり、代々ギュネー侯爵家の主治医を務めているので『ギュネー侯爵家御殿医』と呼ばれている。
仕えているギュネー侯爵家は、帝国時代から続くプ・ル・サンテ地方の貴族で『プ・ル・サンテの大侯爵』と呼ばれ、プ・ル・サンテ地方の貴族を取りまとめる大貴族である。
そしてギュネー侯爵家はその権勢の大きさからエストリア竜皇家とは微妙な関係にある。
そんなギュネー侯爵家に仕えるドワイト家の娘にエストリア竜皇家の皇子、アルスナート皇子に仕えよとは……。
現当主である父ラトックの言葉にマルシアは、
「ワタクシにアルスナート皇子を『祖竜の元へお導きせよ』とでも仰るのですか?」
と呆れ顔で応えた。
だが、マルシアの言葉を聞いたラトックは、
「なっ!バカな事を言うんじゃ無い!シャルム閣下の命だ!冗談でも滅多な事を言うんじゃ無い!」
と、慌てた。
ギュネー侯爵子息のシャルム公子。
次期ギュネー侯爵となるギュネー侯爵家第一公子の顔を思い浮かべながらマルシアは、
『あの方ならば有り得るのでは無いかしら?』
などと考えたが、口には出さない。
次期侯爵として優秀な方だと言われてはいるが、マルシアは野心的で少々自己評価が高過ぎる感がある方だと感じているので、マルシア自身はシャルムの事はあまり高く評価してはいない。
シャルム公子がエストリア皇家に嫁いで側妃となった妹のルイーネ公子を溺愛していたというのはプ・ル・サンテでは有名な事だった。
だからマルシアはルイーネ側妃が産んだエリオルド皇子を次の竜皇にする為ならばどんな事を考えてもおかしくは無いと思ったのだ。
「これは内密だが、ダルディオス禅譲皇陛下から内々に要請があったそうだ。近習になれる良い医術者は居らぬかとな。おそらく、アルスナート皇子を冷静に診断できる医術者、ダリアの息がかからぬ者を探しているのであろう。」
確かにアルスナート皇子には色々と噂がある。
生母の母国、ダリア青竜皇国と関係のある医術者では依怙贔屓が過ぎて正確な診断は出来ないだろうし、青竜皇国に関係が無い者であっても青竜皇国やダリア系貴族に遠慮してしまうかもしれない。
だからダリア皇国の影響を受けず客観的な評価が欲しいのかもしれない。
だが、わざわざアルスナート皇子とは完全な敵対派閥であるギュネー侯爵家ゆかりの医術者を宛てがう理由は何だろうか?
ダリア系とは逆の意味で客観的では無い診断を下すかもしれない。
だからギュネー侯爵家に声がかかったのは何か意味があるのでは無いかと、マルシアはそちらの方が気になった。
「それに、我がドワイト家の評判がエストリアまで聞こえておるのでは無いかな。」
マルシアとしては冗談だと思いたかったが、ラトックはそう言って笑った。
もし裏に意味が有るとすれば『ギュネーの首根っこを押さえるため』だろう。
ドワイト家は何代にもわたってギュネー侯爵家の主治医を務めており、ラトックの父の代には侯爵から子爵位も頂いている。
貴族として育ったためかラトックはかなりプライドが高い。
舌禍で侯爵家家中の貴族達と諍いを起こしたこともある。
そんなプライドの高い父の言葉にマルシアは、
「まさか。」
と言って笑った。
彼女の笑いは自嘲の様子が強いものだったのだがラトックは気付いていない。
「まあ、聞けばエストリアの魔法医達は何の治療や診断も出来ず『虚無症』などと診断し、メルキアのグロッセ・タルセンは診断不能などと何の診断結果を出すことも出来なかったと言うぞ。エストリアの医術者達などその程度のモノだよ。」
「ですがグロッセ・タルセンはメルキアで『導師』の栄誉を受け、今代随一と称されるほどの智者なのでしょう?」
「フン、もはやメルキアなど辺境の片田舎では無いか。これからは西方諸国の学問こそ先進なのだよ。」
確かに、かつては古代よりの『賢者の国』と言われたメルキア黄竜皇国も、ここ数世代はその立地から来る不便さで竜属の人口も減り勢いは衰えていると言われている。
特に西方の人属達が『魔術』と呼ばれる魔法を開発し、魔法を『術式』で制御する方法を発明した事で魔法は制御が容易になった。
古来より魔法の効果の発露は個人の能力に大きく依存し、簡単な魔法でも効果が不安定だった。
そういう不安定さがあった魔法も安定した結果を成す事が出来るようになり、近年はより強く効果が大きな魔法の術式化が研究されている。
これまでは一部の者才能ある者達によって行われる『奇跡』だった魔法が多くの者に使える『術』となり広く普及したのだ。
そのため、魔法の先進地域は西の人属諸国に移ったと言われて久しい。
だが、メルキアの皇都ル・デンテンセリアには知の竜神の記録庫と呼ばれる博物館が有り、そこには竜属の歴史や知識、神代に世界中から集まった知識や、かつて神々が使った『御技』と呼ばれる奇跡についての知識も有ると言われている。
智者、学者を目指すものとしては一度は訪れ学んでみたい場所である。
「まあ、竜皇は一時代に六柱しか生まれない貴き存在。アルスナート皇子の症例は前例も無く、エストリアの魔法医達も初めての経験で戸惑っているのでしょう。」
『竜皇』と呼ばれる存在は世界に六柱存在している。
エス、ダールス、メリキュオール、ドーラス、ハーネスト、レンギス。
竜皇とは祖たる竜神の直系の子孫であり、竜属でも特別な存在だ。
だから竜皇の子供、皇子ともなれば次代の竜皇として敬われる。
加えて件のアルスナート皇子の生母はダリア青竜皇国の皇女ラファエナ。
エストリア白竜皇国の竜皇とダリア青竜皇国の皇女、そんな竜皇の直系の子同士の夫婦から子が生まれるなど非常に珍しく、長い竜属の歴史でも何度と有ることでは無い。
そしてそんな稀少な夫婦の子が竜属の常識から見れば『異常』と思われる状態なのだが、その状態が果たして異常なのか、異常では無いのか判断に迷うところである。
医術的には前例の少なさ。
政治的には貴族達の思惑。
外交的にはエストリア皇国とダリア皇国の関係性。
社交界ではダリア系貴族への警戒。
臣下としては皇家への忖度。
そのため、色々な情報が錯綜しているのだが、皇都エストリアから離れた地では正確な状態はわからない。
だが、竜属の魔法医一辺倒のエストリア皇都に比べてプ・ル・サンテの様な地方では外国の医術が入って来やすい。
だからあまりにも『よく分からない』状況を違った視点から調べたいがために声掛けがあったのかもしれない。
けれどダルディオス禅譲皇が他の地方の医術者ではなく、わざわざギュネー家の関係者であるドワイト家に声をかけた事に対して、マルシアは何らかの思惑があるのでは無いかと推測した。
「ダルディオス禅譲皇陛下としては使える伝手は全て使った上でということでしょうか……。それとも、もしかしたら皇子の様子は相当に悪いのかもしれませんね。心配ですわねえ。」
マルシアは頬に手を当ててホウッとため息を吐く。
「かもしれぬな。だが、側仕えとなってお側に近づいて診断してみれば容易くわかるであろうよ。その上で見定めれば良いのだ。そう言うことだから、近くエストリアへ発つぞ。ダルディオス陛下には早急に御目通り願わねばいかんからな!」
ラトックは鼻息荒くそう宣言して笑った。
そして翌日、ラトックとマルシアは早速エストリアに馬車で向かった。
数日後二人はエストリアに到着したが、ダルディオス禅譲皇は体調が優れないと言うことでなかなかお目通りが叶わない。
ラトックが、
「診察いたしましょうか?」
と、申し出たが丁寧な様子ではあるがハッキリと断られた。
ラトックは、
「手柄をあげられたくないのだ。」
と言って嫌味を言っていたが、普通の貴族なら敵対派閥の貴族家から派遣された医術師に自身の健康状態を診断させたりはしないだろう。
マルシアはわざわざ頭を突っ込んで行くラトックを見て『余計なコトはしない方が良いのに』などと考えながら、皇国書庫で借り受けた書物を読んだり、書庫に収められていた様々な研究の記録石を読み込んで思考に耽ったのだった。
さすがエストリア皇国の皇宮にある書庫は資料が豊富であり、プ・ル・サンテでは見る事が出来ない魔導書や魔法記憶石が沢山ある。
そうやって過ごすこと60日余り、ダルディオス禅譲皇よりも先にアルスナート皇子へのお目通りの許可が降りた。
ラトックはダルディオス皇との面会を望んでいた様で、
「先に陛下にお目通りするのが筋ではないか!」
と言って遣わされた使者に食ってかかっていたが、使者の方はラトックに何の返答もすることもなく帰っていった。
ラトックはそんな使者の態度にも、
「なんと無礼なヤツだ!」
と、文句を言っていた。
そして数日が過ぎ、お目通りの当日、今度はマルシアだけが参内を許され、ラトックには控室での待機が命じられた。
その待遇にラトックは非常に怒り、
「無礼すぎる!殿下にお会いできないのであればこのまま帰る!」
と激昂してしまった。
「お父様、そんなこと仰らずに。アルスナート皇子には私がお目通り頂き、皇によろしくおとりなし頂ける様にお願いいたしますわ。」
マルシアはいつもなら父の癇癪など放っておくのだが、ここはギュネー領では無い。
ギュネー領であれば多少の騒ぎを起こしても侯爵の威光でなんとでも収まるのだろうが、もしここエストリアで何かの騒ぎを起こしたら、ギュネー侯爵でもなんとも出来ないかもしれない。
ここエストリアはマルシア達にとっては敵地と同じなのだ。
マルシアはこんな場所で父の舌禍に巻き込まれたくは無かった。
それにもしかしたらこれは好都合かもしれない。
マルシアに判断出来なかったとしても、師であるラトックの診断を認めなかったエストリア側に責任があるのだ。
マルシアやラトック達に責任は無いと主張出来る。
「アルスナート皇子のご様子は先ずはワタクシが確認してまいりますわ。」
マルシアはそう言ってラトックを宥め、アルスナート皇子への謁見が行われる部屋へと向かったのだった。
侍従に案内されて謁見の間に入るとそこはあまり広くは無い広間で、裾の長い衣を着た侍従と思しき者が数人居るだけだった。
『護衛の戦士などは置いて居ないのね』
てっきり護衛の戦士達が居並ぶ威圧的な場所で謁見を受けるのかと思って居たマルシアとしては拍子抜けといった感じを受ける。
マルシアとしてはドワイト家の立場から、アルスナート皇子を護る為に『下手なコトはするな』と初めに威嚇されるのでは無いかと想定して居たのだが、そういった気配が無いというのは少々不思議な感じがして、マルシアは『少々慎重に考える必要がありそうだ。』と考えた。
もしかしたらマルシアの考えている一番厄介な想定。
方々の医術師を手配し『手は尽くしたがダメだった』という言い訳とアルスナート皇子に何かあった時、アルスナート皇子の側近くに『ギュネーの関係者が居た』状況を作り、ダリアからの非難をギュネー侯爵家に向ける算段なのかもしれない。
『父はドワイト家にとって相当に厄介で困難な用事を受けてしまったのではないだろうか?』
と考えたが、マルシアはそんな事などおくびにも出さず、黙って立っている侍従達に囲まれながらも澄ました態度を貫く。
『貴族は度胸。』
気後れしたらつけ込まれるだろう。
「アルスナート皇子のご入室!」
その声にマルシアはサッと両手を胸の前で交差させ、両膝を着いて頭を下げた前傾の姿勢をとる。
この姿勢は神に祈る時の最上級の礼儀を示す姿勢だ。
片手を胸に当てて片膝を着く上位貴族を相手にした礼で無いのはともかく、胸の前で両手を交差させて片膝を着く主君や王族に対する礼ではなく、神に対する礼を取ったのは『アルスナート様を最大限尊重します』と態度で示すためだ。
この場には居ないが、この部屋に控えている侍従達はダルディオス禅譲皇の侍従達だろう。
アルスナート皇子の背後にはダルディオス禅譲皇がいると言う事だ。
マルシアはこの場に居ないダルディオス禅譲皇を意識したのだった。
扉が開く音と衣擦れの音が聞こえる中、マルシアは床に敷かれた絨毯の模様を見つめる。
とても細い糸で織られた精緻な模様、神々と六竜神の戦いのシーンを抽象化した部分だろうか。
「マルシア・ドワイト殿、顔を上げられよ。」
侍従の声に頭を上げると目の前の壇上、マルシアが立っている場所から一段高くなった壇上に一人の少女が立って居た。
歳の頃は成人前くらいだろうか。
『アルスナート皇子……では無いわよね?誰?』
と、疑問を感じるよりも先にその少女の腰あたりに隠れる様にスカートにしがみついている子供に気がついた。
白地の生地に金色の刺繍が施された上着を着た幼児。
アルスナート皇子はまだ生年3廻年(36年)にも満たないはずなので、年恰好としては一致する。
おそらくこの幼児がアルスナート皇子なのだろう。
寝起きだったのか、幼い皇子は眠そうに目を擦りながら片手で側仕えらしき少女のスカートをしっかりと掴んでいる。
マルシアから見た第一印象として、その仕草は年相応というか年齢よりかなり幼く見える。
マルシアはアルスナート皇子の様子をよく観察してみようと目を凝らしてみるが、よく分からない。
元々マルシアは子供が好きでは無い。
手がかかるし、よく泣くし面倒くさい存在だ。
これまでは出来るだけ子供と関わりそうな出来事を避けてきた。
元服してからも婚約を断り続けてきたし、自分が子供を持って育てるという未来は想像すらできないし、やりたいとも思って居ない。
それに、彼女は兄とも歳が離れており子供付き合いに慣れてもいない。
『ただの甘えたがりなのか?それとも……本当に阿呆なのか?』
などと考えながら、
「プ・ル・サンテの貴族。ギュネー家の臣。子爵ラトック・ドワイトの第二公子マルシア・ドワイトに御座います。本日は拝謁を賜り恐悦至極。アルスナート皇子におかれましてはご機嫌麗しく、祝着至極に存じます。蒼穹の空高く晴々しいこの日、お目通り叶いました事、光栄の至り。祖たる白き竜神エスタに感謝いたします。」
エストリア語と聖霊語で形式通りの挨拶を述べ、再び両手を胸の前で交差させて頭を下げて傅く。
……。
……。
……。
……。
なんの反応も無い。
……。
……。
「……?」
マルシアがどの様に対応しようかと少し迷い始めた頃、
「マルシア・ドワイト殿、殿下は『大儀である』と、仰せです。」
と、少女の声がマルシアに言葉をかけてきた。
皇子の周りに立っている侍従達は皆男性なので、声の主はアルスナート皇子がしがみついていた側仕えの少女だと推測出来る。
『なに様のつもりかしら?』
マルシアは貴族の医術師として召し出された自分に対する皇子の言葉を、あの様な少女が代弁するなど烏滸がましいと感じたのだ。
だが、もしかすると他に応える役割を与えられた近習が居ないのかもしれない。
『危ういな』
アルスナート皇子の状態は分からないが、この様にマトモに受け応えできない幼子を、受け応えする役割の者すら付けずに他家の貴族の前に出すなんて、親である竜皇や側近達は何をしているのだろう?
『保護すべき者達がその責を果たして居ないのではないか?』
それは養育を放棄するのと同じではないか。
『それとも、こんな幼い子供を政争の道具に使うつもりなのか?』
他家の事とはいえ、マルシアは少し腹が立った。
「顔を……上げられよ。」
少し戸惑い気味に少女からマルシアに声がかけられる。
マルシアはアルスナート皇子の置かれた立場には同情を感じるものの、代わりに声をかけてくる少女に対しては、
『本当に、ナニ様のつもりかしら?』
と、癇に障って怒りさえ込み上げて来る。
しかし、マルシアは薄く笑みを浮かべて何食わぬ顔で顔を上げるとアルスナート皇子を見る。
アルスナート皇子は側仕えの少女の手を握ってその手を自分の頬に当てさせて悦にいった様に目を瞑っている。
どうやらマルシアのことは気にして居ないらしい。
『本当に阿呆かもしれないわね』
そんな事を考えたが、おくびにも出さない。
「それでは過日……。」
「お待ちを。」
マルシアが退出しようと挨拶の口上を述べようとすると、傍らの年老いた侍従がそれを遮った。
その侍従は他の侍従たちとは趣の違う異国風の装束をしており、おそらく、より高位の侍従なのだろう。
「本日、一度目の診察を行なっていただく様にとご下命頂いております。」
これには流石にマルシアも目を丸くした。
初めてお目通りした他家の医術師に、君主となるかもしれない子供、次の竜皇となるかもしれない子供を『診よ』というのだ。
君主の世継ぎの健康状態はその国の最重要機密である。
少なくともマルシアは父からそう教えられてきたし、ラトックの弟子として研鑽を積んできたマルシアでもギュネー侯爵家のシャルム公子の診察をした事さえない。
それなのに初見の医術師、それもアルスナート皇子とは敵対派閥の貴族であるマルシアに『診断させよ』とは……。
『正気か?』
「しかし!?それではあまりにも!?……」
側仕えの少女も驚いたのか一瞬声を荒げる。
「ご下命に御座います。」
言い抗おうとする少女に年老いた侍従はキッパリと言い放つ。
その言葉に少女はグッと押し黙ってしまった。
『これは、アルスナート皇子は皇家内でも立場が危ういのでは?』
見ると、当のアルスナート皇子本人は自分には関係ないという様子で側仕えの少女の手を頬に当てがって目を瞑り、ホウッっと気持ちよさそうにしている。
もしかしたら本当に何も分かっていないのかもしれない。
だがこれはマルシアにとっては都合が良い。
何度も参内せずとも皇子の状態がわかるのだ。
顔を真っ赤にして怒りながら別室で待っているであろう父ラトックに対しても良い土産になるだろう。
「ご下命ということであれば謹んでご用命承りましょう。場所を替えますか?」
「いや、本日はこちらにてお願いいたします。」
老侍従がそう言うと、離れた位置に居た他の侍従達がマルシアに近付いてきてマルシアを円形に取り囲んだ。
『皇子の護衛のためかしら?』
応対の様子から皇子は軽視されているのではないかと感じていたが、流石にどうなっても良いという程放置しているわけでは無いらしい。
「どうぞ。」
老侍従に促され、アルスナート皇子、というか皇子がくっついている側仕えの少女がアルスナート皇子と一緒に一段高くなっている上段から降りてマルシアに近づいてくる。
『あれ?……いや、気のせいか?』
少女がアルスナート皇子を促して動き出して、一瞬アルスナート皇子が引っ張られる様な形になった時、足は動いていないのに皇子の足が絨毯の上をス~ッと滑った様に見えたのだ。
だが、この部屋に敷かれている絨毯は毛足が長いものなので足を擦るように歩くと躓いてしまう。
『見間違い?まあ良いですわ』
少女とアルスナート皇子が側まで来たのでマルシアは余念を振り解き、再度跪いて両手を胸の前で交差させて最敬礼の姿勢をとる。
アルスナート皇子は相変わらず目を瞑って少女の手を頬に当てている。
アルスナート皇子はよほどこの少女がお気に入りなのだろう。
『……アルスナート皇子、目を開けていたかしら?』
壇上にいる時も、そこから降りてマルシアの側まで来る時もアルスナート皇子の眼が開いていなかった様な気がした。
だが何故か、つい先ほどの出来事なのに記憶が曖昧だった。
『なにかしら?緊張……している?』
マルシアはなんだか酔っ払った様に頭がボ~ッとしている様な気がした。
マルシアが少し頭を振って意識を集中して覚醒を試みていると、円陣を組んでいる侍従達が何事か呟きながら長衣の下で手をモゾモゾと動かしているのが見えた。
『何か魔法を……?これは、罠?』
と、怪訝に思った瞬間、頭がスッキリした。
「御前である。気を確かに。ご注意なされよ。」
「痛み入ります。」
どうやら意識が不明瞭だったのは侍従の魔法が原因ではなく、侍従達はマルシアを補助してくれているらしい。
マルシアは老侍従が何を言いたいのかよく分からなかったが、一応、礼を返しておく。
「それでは、診察をさせて頂きます。御手を……。……アルスナート殿下?」
マルシアは手を差し出してアルスナート皇子を見たが、アルスナート皇子は名前を呼ばれても気にした様子はなく、相変わらず目を瞑って側仕えの少女の手を頬に当てている。
『コ、コレは……ホントに、ダメなんじゃないかしら?』
確かにマルシアも、阿呆だとか無能だとかの噂は聞いてはいたが、これほど『ダメっぽい』状態だとは想像だにしていなかった。
「皇子、御手を。」
見かねたのか、側仕えの少女がアルスナート皇子の手を取りマルシアの手の上にアルスナート皇子の手を置かせる。
アルスナート皇子は右手を取られても抵抗することもなく左手で側仕えの少女の手を自分の頬に押し当ててホウッと悦に入っている。
『ワタクシのコトは無視、ですか……』
マルシアはプ・ル・サンテ地方の社交の場、ギュネー侯爵家の宮殿においてその美しい容姿から老若男女の別無く声を掛けられることが多い。
別にそのことを鼻にかけるつもりはないのだが、今のアルスナート皇子の様に目の前に居ても気付いてさえいない様な態度は些かプライドを傷つけられる。
『まあ良いですわ。所詮は阿呆。』
どうせ今回限りの対面なのだ。
気にする必要はない。
そう考えてアルスナート皇子の手を握る。
「それでは、診察をさせて頂きます。」
そう宣言すると、マルシアは精神を集中し己の魔力を活性化し、感覚を研ぎ澄まさせた。
そして先鋭化させた針の様な魔力をアルスナート皇子へと流し込み、アルスナート皇子の体内の魔力を探ってみる。
感じられた感触を基に自分の意識の中にその状態や形態をイメージする。
『うん?……あれ?おかしいな』
マルシアの送り込んだ魔力は何も感じ取ることが出来ず、それどころかまるで宙空で手を振っている様な感じなのだ。
通常であれば相手の魔力の輪郭だとか硬さ柔らかさの様なものを感じ取ることが出来、その感触を辿れば何かしらわかる。
だが、今アルスナート皇子に注がれているマルシアの魔力はひたすら空を切るのみで、基準となる様な『確かな感触』を掴めない。
フワフワした状態というか、何処までも吸い込まれて行く様な感触。
『中身が無い?いやコレは大きい?もしくは遠い?』
茫漠とした感じと空虚な様子……。
感触としては何も感じられない。
だが、なんというか、温度とでもいうか寒さの様なものを感じた気がした。
『それに……』
そんな状態の中でも微かに感じるのは、寂しさ?
『いや、コレは、淋しさ……だろうか?』
何もないのか何かあるのかわからないが、アルスナート皇子の内にほんの微かに感じた感覚。
それにマルシアも子供の頃に感じたことがあるような感覚……。
『試してみますか……。』
寂しくても黙っている子供の気を引く方法。
『ワタクシの時は祖母だった』
マルシアは兄弟、兄とは10廻年(144年)以上歳が離れていて、マルシアが生まれた時には既に兄が家を継ぐ事は決まっていた。
兄と両親は主君である侯爵家の診察や、侯爵から紹介された顧客の診察や治療、他の貴族家への挨拶回りで頻繁に家を空けた。
幼いマルシアはそういった挨拶の席に参加する事はなく、家に留め置かれる事が多かった。
そんな時、祖母がマルシアの世話をしてくれたのだ。
『お祖母様は確か……』
マルシアは祖母が自分をどうやってあやしてくれたのか思い出す。
『あらまあ!カワイイわね~!なあんてカワイイのかしら~!』
マルシアが初めて祖母に会った時の第一印象は、オーバー過ぎる仕草と注目せざるを得ない甲高い声やたくさんのキス、そして優しく包み込んでくれるような柔らかな魔力だった。
ちょっと煩かったが柔らかな感じが心地良かったのを覚えている。
正直、あの時の祖母の態度や魔力を再現するのは少々恥ずかしいのだが、羞恥心を押し殺して、イメージを爆発させる。
コツは棘のない柔らかくて暖かく包むような魔力と、くすぐる様に適度な刺激を与える魔力の振幅。
現実世界なら甲高い声も出して行った方が効果があるのかもしれないが、初見での様子を考えると耳は聴こえていないかもしれない。
『それでは!』
魔力の波動を発信してみる。
……。
反応は、無い。
『……ダメだったかしら?』
マルシアが『失敗したのか?』と、思った瞬間、地震が、いや今マルシアは魔力針に集中していて精神的には睡眠中に近い状態なので、立っているというのもマルシアのイメージだから地面は無い。
だが、ワケがわからないほど周囲の魔力が震えている感じがする。
揺さぶられるというよりも周り全て、世界が震えている様な感覚を感じる。
あっと思った瞬間、マルシアの意識は意味が分からないほど力強い魔力の奔流に包まれる。
この魔力探針方式の診察は通常ならば診察する対象の魔力を外部から『探る』だけのはずだった。
外から探るだけのはずなのだ。
だが、意識が呑まれる瞬間、マルシアは自分が以前からその魔力に飲み込まれていたように感じた。
まるで、今までは感じることが出来なかった存在に今気づいた様な感覚。
そして『恋しい』『包まれたい』という感じの、胸を締めつける様な渇望する様な、『切なくなる』様な感情がマルシアの意識を揺さぶる。
マルシアはその魔力の『淋しさ』を感じ取ると同時に意識が掻き消えたのだった。
……。
……。
……。
「……ワイト……ドワイト殿!。」
「ッ!」
微睡んでいるような、眠りと覚醒の間の様な状態から意識が引き戻される。
「ハッ、い、今のは!?」
気付くといつの間に近寄ってきたのか、老侍従がマルシアの肩を掴んでいた。
「やはり『当てられて』おるようだな。気を付けられよと申したであろう?」
老侍従はそう言ってやれやれといった顔をする。
「竜皇というモノは我ら末々の者よりも原初に近い存在なのだ。気を付けなければ飛ばされるぞ?」
無愛想な表情だった老侍従は、そう言ってホッとした様な顔になった。
「大丈夫、なのですか?」
老侍従に横からアルスナート皇子の側仕えの少女が声を掛けるのをマルシアは眼だけで追いかける。
と、同時にその横にいたアルスナート皇子の姿がマルシアの視界に入った。
アルスナート皇子はマルシアを見ていた。
「おそらくは……。これまで大事や問題になった者は居りませぬ故。」
「そういうことでは無く。殿下が、大丈夫なのか?という事です!」
「それこそ問題など御座いませぬよ。湖にひとつまみの塩を投じたところで海にはなりませぬ。」
少女と老侍従の会話を上の空で聞きながらマルシアはアルスナート皇子を見つめる。
マルシアは先程までアルスナート皇子に大した興味は持っていなかったし、皇子もマルシアには一片の関心も無さそうに見えた。
だが、今アルスナート皇子はマルシアの方を見つめており、目が合っている。
その表情はもの憂げな様子で、潤んだ瞳はとても淋しそうだ。
その顔を見ていると、マルシアは心の奥から湧き出してくる妙な感覚を抑えきれなくなって来て……。
「はぁ~ん!カワイィ~ん。」
……。
「は?」
「え?」
一瞬の沈黙の後、老侍従と側仕えの少女の声が重なる。
「カワイイ!カワイイ!カワイィ~!!お姉さんが!オネエさんが!チュッチュ!チュッチュしてあげるぅ~!」
そう言いながらマルシアは身体をクネクネさせながらアルスナート皇子に手を伸ばす。
「なっ!止めッ!?」
側仕えの少女が慌てて遮ろうとしたが、いつの間にかアルスナート皇子はマルシアのすぐ目の前に移動しており、まるで母親に抱っこをせがむ子供の様な格好をしていた。
その姿にマルシアはより悶絶した様な顔をして、
「ああ~ん!カワイイ~!」
と、甲高い声をあげてアルスナート皇子を抱きしめる。
アルスナート皇子の顔はマルシアの見た目以上にボリュームのある胸に埋もれた。
「あ~ん、カワイイ!カワイイ~!」
「無礼ですよっ!」
しかし、マルシアがアルスナート皇子を抱きしめたのは一瞬だけで、即座に側仕えの少女が抱きしめられているアルスナート皇子をマルシアから引き剥がす。
「ああ~ん。もっと~!」
「変態ですかッ!?貴女はッ!」
「取り押さえて下がらせよ。」
激昂している側仕えの少女と冷静で呆れたような様子の老侍従によってマルシアはアルスナート皇子から引き剥がされた。
そしてマルシアは他の侍従達に抱えられるようにして文字通り謁見の間から引き摺り出されたのだった。
だが、流石にそんな状態になった女性を帰す訳にはいかなかったのか、アルスナート皇子の様子が外に漏れるのを嫌ったのか、マルシアとラトックは宮殿内に部屋を用意されて強制的に宿泊することになった。
数日後、マルシアとラトックは宮殿内の一室で居心地が悪そうに小さくなって呼び出されるのを待っていたのだった。
謁見の日から数日間、マルシアは錯乱した様な状態が続き、皇宮にて宮廷の医術師達の治療を受けることになった。
しかも娘の錯乱状態を見た父ラトックは、「邪な魔法をかけられた!」
と、激怒し、大騒ぎしてこちらも医術師から鎮静の魔法をかけられて皇宮内の部屋に閉じ込められることになった。
数日後、落ち着きを取り戻したマルシアは
暗澹たる気持ちでいっぱいになった。
アルスナート皇子の魔力に『当てられて』いたとはいえアルスナート皇子に対して無礼とも取れる行動をしてしまった。
何より、他の者の目前で醜態としか言いようのない行動をしてしまったのだ。
マルシア自身、恥ずかしくて全てを辞退して故郷へ帰りたかったのだが、治療のために留まらざるを得なかったし、情報を外部へ漏らしたく無いのであろう皇家に強く引き留められた。
そして先日、ダルディオス禅譲皇からの招聘状が届いた。
届いた書状を読んだ途端、ラトックはそれまでの強気が鳴りを顰め、急激に緊張して大人しくなってしまった。
アルスナート皇子との謁見時、招待状の宛名は、
『ギュネー侯爵家御殿医術師ラトック・ドワイト殿』
だが、今日の謁見の招聘状の宛名は、
『プ・ル・サンテ地方子爵ラトック・ドワイト殿』
どういう経緯かはわからないがギュネー侯爵の名が消えていたのだ。
つまりダルディオス禅譲皇はラトックを直接名指しして参内を命じたのだ。
招聘状が届く前まで、
「ワタシはギュネー侯爵家の廷臣だぞ!」
と、強がっていたラトックも今は明らかに顔色が悪い。
ラトックとマルシアの二人はダルディオスの離宮の館で馬車を降りると、親子共に無言でトボトボと謁見の間へと向かった。
「陛下は既にお待ちになっておられます。」
「え!?お待たせしてしまって居るのですか?!」
ラトックが驚いて声を上げる。
通常の謁見だと目下の者は謁見の間に先に入って目上の者の来場を待つことが多い。
目上の者に合わせるのが普通なのだ。
『ええと、お待ちいただいて居る皇族の前に出る時は顔を上げて歩いても良かったのかしら……?』
マルシアは慌てて頭の中で謁見時のマナーについて思い起こす。
先日のアルスナート皇子の謁見の時は相手が入って来るのを待っていれば良かったので落ち着いていられたが、今回は自ら皇族に向かって歩み寄らねばならない。
これまでマルシアに『皇族が待っている時』のマナーなど教えてくれる者は居なかった。
しかも、待っている相手は『元』竜皇である。
皇帝のいない現在、竜神の眷属の中で最上位であり最尊位の存在なのだ。
「ラトック・ドワイト子爵殿、ご参内!」
慌てているマルシアとそれ以上に慌てているラトックを他所に扉の前の侍従が声を張り上げる。
その声に促されるようにラトックとマルシアは部屋に入った。
背中に冷や汗が流れるのを感じながら少し頭を下げ静々と歩くマルシアと、マルシアの前で大きく手を振って歩くラトック。
ラトックは堂々と大手を振っているように見えるが、歩調と手の動きが合っておらずギクシャクしている。
そんな二人はアルスナート皇子の時より広い謁見の間の真ん中辺りで立ち止まって跪いた。
二人とも緊張のあまり所作がバラバラで、マルシアは両腕で胸の前で組み合わせた最上級の礼だが上位貴族相手の片膝着き。
ラトックは両膝をついた最上級の畏まり方なのに片手を胸に添えた略礼。
『ああっ!お父さま、それでは失礼ですわ!』
などと混乱しながらも視線を感じて上目で上座を見たマルシアは、一段高くなった場所にアルスナート皇子を見つけた。
初めて会った時は何も感じなかったが、今のマルシアにはアルスナート皇子の姿はまるで光り輝いている様に感じられる。
側仕えの少女の手を握ってはいるものの、前回の謁見の時とは違って皇子も始めからマルシアの方を見ていて目が合った。
マルシアは思わず、
『目が合っちゃった!キャー!』
などと考えて、先程までの緊張は吹っ飛んでしまい、マルシアは思わず小さく手を振る。
それに気づいたアルスナート皇子は片手は側仕えの少女の手を握ったまま、片手でマルシアへ手を振りかえした。
『キャー!カワイイ~!』
マルシアは思わず悶絶しそうになった。
「ドワイト子爵、ならびに公子マルシア殿。よくぞ参ってくれた。」
だが、一段高くなった上座の豪華な椅子に座った男性に声をかけられた時、マルシアは浮かれていた気分が吹っ飛んで我に返った。
目前の段上、椅子に座っている巨大な存在感を持った存在に気付いて驚愕したのだ。
それは巨大な……、マルシアには壁の様にしか認識できない何か。
つい先ほどまでアルスナート皇子の陰に隠れてしまっていたので気づかなかったが、おそらく巨大な魔力的存在感を持った巨大なナニカ。
『どうして気付かなかったのしょうか?』
怖いもの知らずで、方々で舌禍を振り撒いているラトックでさえ部屋に入った時から怯えていたのに、マルシアだけが今までその存在感に気づくことができていなかったのだ。
マルシアは自分が相当強力にアルスナート皇子に『当てられて』しまっているらしい事を実感したのだった。
最初、マルシアは父が何を言っているのか、よくわからなかった。
マルシアは父ラトックの言葉を冗談だと思ったのだ。
マルシアの父ラトック・ドワイトはエストリア南部のプ・ル・サンテ地方でも有名な貴族である。
彼女の家、ドワイト家は医術師の家系で治癒魔法、治療魔法、薬学等に長けた一族であり、代々ギュネー侯爵家の主治医を務めているので『ギュネー侯爵家御殿医』と呼ばれている。
仕えているギュネー侯爵家は、帝国時代から続くプ・ル・サンテ地方の貴族で『プ・ル・サンテの大侯爵』と呼ばれ、プ・ル・サンテ地方の貴族を取りまとめる大貴族である。
そしてギュネー侯爵家はその権勢の大きさからエストリア竜皇家とは微妙な関係にある。
そんなギュネー侯爵家に仕えるドワイト家の娘にエストリア竜皇家の皇子、アルスナート皇子に仕えよとは……。
現当主である父ラトックの言葉にマルシアは、
「ワタクシにアルスナート皇子を『祖竜の元へお導きせよ』とでも仰るのですか?」
と呆れ顔で応えた。
だが、マルシアの言葉を聞いたラトックは、
「なっ!バカな事を言うんじゃ無い!シャルム閣下の命だ!冗談でも滅多な事を言うんじゃ無い!」
と、慌てた。
ギュネー侯爵子息のシャルム公子。
次期ギュネー侯爵となるギュネー侯爵家第一公子の顔を思い浮かべながらマルシアは、
『あの方ならば有り得るのでは無いかしら?』
などと考えたが、口には出さない。
次期侯爵として優秀な方だと言われてはいるが、マルシアは野心的で少々自己評価が高過ぎる感がある方だと感じているので、マルシア自身はシャルムの事はあまり高く評価してはいない。
シャルム公子がエストリア皇家に嫁いで側妃となった妹のルイーネ公子を溺愛していたというのはプ・ル・サンテでは有名な事だった。
だからマルシアはルイーネ側妃が産んだエリオルド皇子を次の竜皇にする為ならばどんな事を考えてもおかしくは無いと思ったのだ。
「これは内密だが、ダルディオス禅譲皇陛下から内々に要請があったそうだ。近習になれる良い医術者は居らぬかとな。おそらく、アルスナート皇子を冷静に診断できる医術者、ダリアの息がかからぬ者を探しているのであろう。」
確かにアルスナート皇子には色々と噂がある。
生母の母国、ダリア青竜皇国と関係のある医術者では依怙贔屓が過ぎて正確な診断は出来ないだろうし、青竜皇国に関係が無い者であっても青竜皇国やダリア系貴族に遠慮してしまうかもしれない。
だからダリア皇国の影響を受けず客観的な評価が欲しいのかもしれない。
だが、わざわざアルスナート皇子とは完全な敵対派閥であるギュネー侯爵家ゆかりの医術者を宛てがう理由は何だろうか?
ダリア系とは逆の意味で客観的では無い診断を下すかもしれない。
だからギュネー侯爵家に声がかかったのは何か意味があるのでは無いかと、マルシアはそちらの方が気になった。
「それに、我がドワイト家の評判がエストリアまで聞こえておるのでは無いかな。」
マルシアとしては冗談だと思いたかったが、ラトックはそう言って笑った。
もし裏に意味が有るとすれば『ギュネーの首根っこを押さえるため』だろう。
ドワイト家は何代にもわたってギュネー侯爵家の主治医を務めており、ラトックの父の代には侯爵から子爵位も頂いている。
貴族として育ったためかラトックはかなりプライドが高い。
舌禍で侯爵家家中の貴族達と諍いを起こしたこともある。
そんなプライドの高い父の言葉にマルシアは、
「まさか。」
と言って笑った。
彼女の笑いは自嘲の様子が強いものだったのだがラトックは気付いていない。
「まあ、聞けばエストリアの魔法医達は何の治療や診断も出来ず『虚無症』などと診断し、メルキアのグロッセ・タルセンは診断不能などと何の診断結果を出すことも出来なかったと言うぞ。エストリアの医術者達などその程度のモノだよ。」
「ですがグロッセ・タルセンはメルキアで『導師』の栄誉を受け、今代随一と称されるほどの智者なのでしょう?」
「フン、もはやメルキアなど辺境の片田舎では無いか。これからは西方諸国の学問こそ先進なのだよ。」
確かに、かつては古代よりの『賢者の国』と言われたメルキア黄竜皇国も、ここ数世代はその立地から来る不便さで竜属の人口も減り勢いは衰えていると言われている。
特に西方の人属達が『魔術』と呼ばれる魔法を開発し、魔法を『術式』で制御する方法を発明した事で魔法は制御が容易になった。
古来より魔法の効果の発露は個人の能力に大きく依存し、簡単な魔法でも効果が不安定だった。
そういう不安定さがあった魔法も安定した結果を成す事が出来るようになり、近年はより強く効果が大きな魔法の術式化が研究されている。
これまでは一部の者才能ある者達によって行われる『奇跡』だった魔法が多くの者に使える『術』となり広く普及したのだ。
そのため、魔法の先進地域は西の人属諸国に移ったと言われて久しい。
だが、メルキアの皇都ル・デンテンセリアには知の竜神の記録庫と呼ばれる博物館が有り、そこには竜属の歴史や知識、神代に世界中から集まった知識や、かつて神々が使った『御技』と呼ばれる奇跡についての知識も有ると言われている。
智者、学者を目指すものとしては一度は訪れ学んでみたい場所である。
「まあ、竜皇は一時代に六柱しか生まれない貴き存在。アルスナート皇子の症例は前例も無く、エストリアの魔法医達も初めての経験で戸惑っているのでしょう。」
『竜皇』と呼ばれる存在は世界に六柱存在している。
エス、ダールス、メリキュオール、ドーラス、ハーネスト、レンギス。
竜皇とは祖たる竜神の直系の子孫であり、竜属でも特別な存在だ。
だから竜皇の子供、皇子ともなれば次代の竜皇として敬われる。
加えて件のアルスナート皇子の生母はダリア青竜皇国の皇女ラファエナ。
エストリア白竜皇国の竜皇とダリア青竜皇国の皇女、そんな竜皇の直系の子同士の夫婦から子が生まれるなど非常に珍しく、長い竜属の歴史でも何度と有ることでは無い。
そしてそんな稀少な夫婦の子が竜属の常識から見れば『異常』と思われる状態なのだが、その状態が果たして異常なのか、異常では無いのか判断に迷うところである。
医術的には前例の少なさ。
政治的には貴族達の思惑。
外交的にはエストリア皇国とダリア皇国の関係性。
社交界ではダリア系貴族への警戒。
臣下としては皇家への忖度。
そのため、色々な情報が錯綜しているのだが、皇都エストリアから離れた地では正確な状態はわからない。
だが、竜属の魔法医一辺倒のエストリア皇都に比べてプ・ル・サンテの様な地方では外国の医術が入って来やすい。
だからあまりにも『よく分からない』状況を違った視点から調べたいがために声掛けがあったのかもしれない。
けれどダルディオス禅譲皇が他の地方の医術者ではなく、わざわざギュネー家の関係者であるドワイト家に声をかけた事に対して、マルシアは何らかの思惑があるのでは無いかと推測した。
「ダルディオス禅譲皇陛下としては使える伝手は全て使った上でということでしょうか……。それとも、もしかしたら皇子の様子は相当に悪いのかもしれませんね。心配ですわねえ。」
マルシアは頬に手を当ててホウッとため息を吐く。
「かもしれぬな。だが、側仕えとなってお側に近づいて診断してみれば容易くわかるであろうよ。その上で見定めれば良いのだ。そう言うことだから、近くエストリアへ発つぞ。ダルディオス陛下には早急に御目通り願わねばいかんからな!」
ラトックは鼻息荒くそう宣言して笑った。
そして翌日、ラトックとマルシアは早速エストリアに馬車で向かった。
数日後二人はエストリアに到着したが、ダルディオス禅譲皇は体調が優れないと言うことでなかなかお目通りが叶わない。
ラトックが、
「診察いたしましょうか?」
と、申し出たが丁寧な様子ではあるがハッキリと断られた。
ラトックは、
「手柄をあげられたくないのだ。」
と言って嫌味を言っていたが、普通の貴族なら敵対派閥の貴族家から派遣された医術師に自身の健康状態を診断させたりはしないだろう。
マルシアはわざわざ頭を突っ込んで行くラトックを見て『余計なコトはしない方が良いのに』などと考えながら、皇国書庫で借り受けた書物を読んだり、書庫に収められていた様々な研究の記録石を読み込んで思考に耽ったのだった。
さすがエストリア皇国の皇宮にある書庫は資料が豊富であり、プ・ル・サンテでは見る事が出来ない魔導書や魔法記憶石が沢山ある。
そうやって過ごすこと60日余り、ダルディオス禅譲皇よりも先にアルスナート皇子へのお目通りの許可が降りた。
ラトックはダルディオス皇との面会を望んでいた様で、
「先に陛下にお目通りするのが筋ではないか!」
と言って遣わされた使者に食ってかかっていたが、使者の方はラトックに何の返答もすることもなく帰っていった。
ラトックはそんな使者の態度にも、
「なんと無礼なヤツだ!」
と、文句を言っていた。
そして数日が過ぎ、お目通りの当日、今度はマルシアだけが参内を許され、ラトックには控室での待機が命じられた。
その待遇にラトックは非常に怒り、
「無礼すぎる!殿下にお会いできないのであればこのまま帰る!」
と激昂してしまった。
「お父様、そんなこと仰らずに。アルスナート皇子には私がお目通り頂き、皇によろしくおとりなし頂ける様にお願いいたしますわ。」
マルシアはいつもなら父の癇癪など放っておくのだが、ここはギュネー領では無い。
ギュネー領であれば多少の騒ぎを起こしても侯爵の威光でなんとでも収まるのだろうが、もしここエストリアで何かの騒ぎを起こしたら、ギュネー侯爵でもなんとも出来ないかもしれない。
ここエストリアはマルシア達にとっては敵地と同じなのだ。
マルシアはこんな場所で父の舌禍に巻き込まれたくは無かった。
それにもしかしたらこれは好都合かもしれない。
マルシアに判断出来なかったとしても、師であるラトックの診断を認めなかったエストリア側に責任があるのだ。
マルシアやラトック達に責任は無いと主張出来る。
「アルスナート皇子のご様子は先ずはワタクシが確認してまいりますわ。」
マルシアはそう言ってラトックを宥め、アルスナート皇子への謁見が行われる部屋へと向かったのだった。
侍従に案内されて謁見の間に入るとそこはあまり広くは無い広間で、裾の長い衣を着た侍従と思しき者が数人居るだけだった。
『護衛の戦士などは置いて居ないのね』
てっきり護衛の戦士達が居並ぶ威圧的な場所で謁見を受けるのかと思って居たマルシアとしては拍子抜けといった感じを受ける。
マルシアとしてはドワイト家の立場から、アルスナート皇子を護る為に『下手なコトはするな』と初めに威嚇されるのでは無いかと想定して居たのだが、そういった気配が無いというのは少々不思議な感じがして、マルシアは『少々慎重に考える必要がありそうだ。』と考えた。
もしかしたらマルシアの考えている一番厄介な想定。
方々の医術師を手配し『手は尽くしたがダメだった』という言い訳とアルスナート皇子に何かあった時、アルスナート皇子の側近くに『ギュネーの関係者が居た』状況を作り、ダリアからの非難をギュネー侯爵家に向ける算段なのかもしれない。
『父はドワイト家にとって相当に厄介で困難な用事を受けてしまったのではないだろうか?』
と考えたが、マルシアはそんな事などおくびにも出さず、黙って立っている侍従達に囲まれながらも澄ました態度を貫く。
『貴族は度胸。』
気後れしたらつけ込まれるだろう。
「アルスナート皇子のご入室!」
その声にマルシアはサッと両手を胸の前で交差させ、両膝を着いて頭を下げた前傾の姿勢をとる。
この姿勢は神に祈る時の最上級の礼儀を示す姿勢だ。
片手を胸に当てて片膝を着く上位貴族を相手にした礼で無いのはともかく、胸の前で両手を交差させて片膝を着く主君や王族に対する礼ではなく、神に対する礼を取ったのは『アルスナート様を最大限尊重します』と態度で示すためだ。
この場には居ないが、この部屋に控えている侍従達はダルディオス禅譲皇の侍従達だろう。
アルスナート皇子の背後にはダルディオス禅譲皇がいると言う事だ。
マルシアはこの場に居ないダルディオス禅譲皇を意識したのだった。
扉が開く音と衣擦れの音が聞こえる中、マルシアは床に敷かれた絨毯の模様を見つめる。
とても細い糸で織られた精緻な模様、神々と六竜神の戦いのシーンを抽象化した部分だろうか。
「マルシア・ドワイト殿、顔を上げられよ。」
侍従の声に頭を上げると目の前の壇上、マルシアが立っている場所から一段高くなった壇上に一人の少女が立って居た。
歳の頃は成人前くらいだろうか。
『アルスナート皇子……では無いわよね?誰?』
と、疑問を感じるよりも先にその少女の腰あたりに隠れる様にスカートにしがみついている子供に気がついた。
白地の生地に金色の刺繍が施された上着を着た幼児。
アルスナート皇子はまだ生年3廻年(36年)にも満たないはずなので、年恰好としては一致する。
おそらくこの幼児がアルスナート皇子なのだろう。
寝起きだったのか、幼い皇子は眠そうに目を擦りながら片手で側仕えらしき少女のスカートをしっかりと掴んでいる。
マルシアから見た第一印象として、その仕草は年相応というか年齢よりかなり幼く見える。
マルシアはアルスナート皇子の様子をよく観察してみようと目を凝らしてみるが、よく分からない。
元々マルシアは子供が好きでは無い。
手がかかるし、よく泣くし面倒くさい存在だ。
これまでは出来るだけ子供と関わりそうな出来事を避けてきた。
元服してからも婚約を断り続けてきたし、自分が子供を持って育てるという未来は想像すらできないし、やりたいとも思って居ない。
それに、彼女は兄とも歳が離れており子供付き合いに慣れてもいない。
『ただの甘えたがりなのか?それとも……本当に阿呆なのか?』
などと考えながら、
「プ・ル・サンテの貴族。ギュネー家の臣。子爵ラトック・ドワイトの第二公子マルシア・ドワイトに御座います。本日は拝謁を賜り恐悦至極。アルスナート皇子におかれましてはご機嫌麗しく、祝着至極に存じます。蒼穹の空高く晴々しいこの日、お目通り叶いました事、光栄の至り。祖たる白き竜神エスタに感謝いたします。」
エストリア語と聖霊語で形式通りの挨拶を述べ、再び両手を胸の前で交差させて頭を下げて傅く。
……。
……。
……。
……。
なんの反応も無い。
……。
……。
「……?」
マルシアがどの様に対応しようかと少し迷い始めた頃、
「マルシア・ドワイト殿、殿下は『大儀である』と、仰せです。」
と、少女の声がマルシアに言葉をかけてきた。
皇子の周りに立っている侍従達は皆男性なので、声の主はアルスナート皇子がしがみついていた側仕えの少女だと推測出来る。
『なに様のつもりかしら?』
マルシアは貴族の医術師として召し出された自分に対する皇子の言葉を、あの様な少女が代弁するなど烏滸がましいと感じたのだ。
だが、もしかすると他に応える役割を与えられた近習が居ないのかもしれない。
『危ういな』
アルスナート皇子の状態は分からないが、この様にマトモに受け応えできない幼子を、受け応えする役割の者すら付けずに他家の貴族の前に出すなんて、親である竜皇や側近達は何をしているのだろう?
『保護すべき者達がその責を果たして居ないのではないか?』
それは養育を放棄するのと同じではないか。
『それとも、こんな幼い子供を政争の道具に使うつもりなのか?』
他家の事とはいえ、マルシアは少し腹が立った。
「顔を……上げられよ。」
少し戸惑い気味に少女からマルシアに声がかけられる。
マルシアはアルスナート皇子の置かれた立場には同情を感じるものの、代わりに声をかけてくる少女に対しては、
『本当に、ナニ様のつもりかしら?』
と、癇に障って怒りさえ込み上げて来る。
しかし、マルシアは薄く笑みを浮かべて何食わぬ顔で顔を上げるとアルスナート皇子を見る。
アルスナート皇子は側仕えの少女の手を握ってその手を自分の頬に当てさせて悦にいった様に目を瞑っている。
どうやらマルシアのことは気にして居ないらしい。
『本当に阿呆かもしれないわね』
そんな事を考えたが、おくびにも出さない。
「それでは過日……。」
「お待ちを。」
マルシアが退出しようと挨拶の口上を述べようとすると、傍らの年老いた侍従がそれを遮った。
その侍従は他の侍従たちとは趣の違う異国風の装束をしており、おそらく、より高位の侍従なのだろう。
「本日、一度目の診察を行なっていただく様にとご下命頂いております。」
これには流石にマルシアも目を丸くした。
初めてお目通りした他家の医術師に、君主となるかもしれない子供、次の竜皇となるかもしれない子供を『診よ』というのだ。
君主の世継ぎの健康状態はその国の最重要機密である。
少なくともマルシアは父からそう教えられてきたし、ラトックの弟子として研鑽を積んできたマルシアでもギュネー侯爵家のシャルム公子の診察をした事さえない。
それなのに初見の医術師、それもアルスナート皇子とは敵対派閥の貴族であるマルシアに『診断させよ』とは……。
『正気か?』
「しかし!?それではあまりにも!?……」
側仕えの少女も驚いたのか一瞬声を荒げる。
「ご下命に御座います。」
言い抗おうとする少女に年老いた侍従はキッパリと言い放つ。
その言葉に少女はグッと押し黙ってしまった。
『これは、アルスナート皇子は皇家内でも立場が危ういのでは?』
見ると、当のアルスナート皇子本人は自分には関係ないという様子で側仕えの少女の手を頬に当てがって目を瞑り、ホウッっと気持ちよさそうにしている。
もしかしたら本当に何も分かっていないのかもしれない。
だがこれはマルシアにとっては都合が良い。
何度も参内せずとも皇子の状態がわかるのだ。
顔を真っ赤にして怒りながら別室で待っているであろう父ラトックに対しても良い土産になるだろう。
「ご下命ということであれば謹んでご用命承りましょう。場所を替えますか?」
「いや、本日はこちらにてお願いいたします。」
老侍従がそう言うと、離れた位置に居た他の侍従達がマルシアに近付いてきてマルシアを円形に取り囲んだ。
『皇子の護衛のためかしら?』
応対の様子から皇子は軽視されているのではないかと感じていたが、流石にどうなっても良いという程放置しているわけでは無いらしい。
「どうぞ。」
老侍従に促され、アルスナート皇子、というか皇子がくっついている側仕えの少女がアルスナート皇子と一緒に一段高くなっている上段から降りてマルシアに近づいてくる。
『あれ?……いや、気のせいか?』
少女がアルスナート皇子を促して動き出して、一瞬アルスナート皇子が引っ張られる様な形になった時、足は動いていないのに皇子の足が絨毯の上をス~ッと滑った様に見えたのだ。
だが、この部屋に敷かれている絨毯は毛足が長いものなので足を擦るように歩くと躓いてしまう。
『見間違い?まあ良いですわ』
少女とアルスナート皇子が側まで来たのでマルシアは余念を振り解き、再度跪いて両手を胸の前で交差させて最敬礼の姿勢をとる。
アルスナート皇子は相変わらず目を瞑って少女の手を頬に当てている。
アルスナート皇子はよほどこの少女がお気に入りなのだろう。
『……アルスナート皇子、目を開けていたかしら?』
壇上にいる時も、そこから降りてマルシアの側まで来る時もアルスナート皇子の眼が開いていなかった様な気がした。
だが何故か、つい先ほどの出来事なのに記憶が曖昧だった。
『なにかしら?緊張……している?』
マルシアはなんだか酔っ払った様に頭がボ~ッとしている様な気がした。
マルシアが少し頭を振って意識を集中して覚醒を試みていると、円陣を組んでいる侍従達が何事か呟きながら長衣の下で手をモゾモゾと動かしているのが見えた。
『何か魔法を……?これは、罠?』
と、怪訝に思った瞬間、頭がスッキリした。
「御前である。気を確かに。ご注意なされよ。」
「痛み入ります。」
どうやら意識が不明瞭だったのは侍従の魔法が原因ではなく、侍従達はマルシアを補助してくれているらしい。
マルシアは老侍従が何を言いたいのかよく分からなかったが、一応、礼を返しておく。
「それでは、診察をさせて頂きます。御手を……。……アルスナート殿下?」
マルシアは手を差し出してアルスナート皇子を見たが、アルスナート皇子は名前を呼ばれても気にした様子はなく、相変わらず目を瞑って側仕えの少女の手を頬に当てている。
『コ、コレは……ホントに、ダメなんじゃないかしら?』
確かにマルシアも、阿呆だとか無能だとかの噂は聞いてはいたが、これほど『ダメっぽい』状態だとは想像だにしていなかった。
「皇子、御手を。」
見かねたのか、側仕えの少女がアルスナート皇子の手を取りマルシアの手の上にアルスナート皇子の手を置かせる。
アルスナート皇子は右手を取られても抵抗することもなく左手で側仕えの少女の手を自分の頬に押し当ててホウッと悦に入っている。
『ワタクシのコトは無視、ですか……』
マルシアはプ・ル・サンテ地方の社交の場、ギュネー侯爵家の宮殿においてその美しい容姿から老若男女の別無く声を掛けられることが多い。
別にそのことを鼻にかけるつもりはないのだが、今のアルスナート皇子の様に目の前に居ても気付いてさえいない様な態度は些かプライドを傷つけられる。
『まあ良いですわ。所詮は阿呆。』
どうせ今回限りの対面なのだ。
気にする必要はない。
そう考えてアルスナート皇子の手を握る。
「それでは、診察をさせて頂きます。」
そう宣言すると、マルシアは精神を集中し己の魔力を活性化し、感覚を研ぎ澄まさせた。
そして先鋭化させた針の様な魔力をアルスナート皇子へと流し込み、アルスナート皇子の体内の魔力を探ってみる。
感じられた感触を基に自分の意識の中にその状態や形態をイメージする。
『うん?……あれ?おかしいな』
マルシアの送り込んだ魔力は何も感じ取ることが出来ず、それどころかまるで宙空で手を振っている様な感じなのだ。
通常であれば相手の魔力の輪郭だとか硬さ柔らかさの様なものを感じ取ることが出来、その感触を辿れば何かしらわかる。
だが、今アルスナート皇子に注がれているマルシアの魔力はひたすら空を切るのみで、基準となる様な『確かな感触』を掴めない。
フワフワした状態というか、何処までも吸い込まれて行く様な感触。
『中身が無い?いやコレは大きい?もしくは遠い?』
茫漠とした感じと空虚な様子……。
感触としては何も感じられない。
だが、なんというか、温度とでもいうか寒さの様なものを感じた気がした。
『それに……』
そんな状態の中でも微かに感じるのは、寂しさ?
『いや、コレは、淋しさ……だろうか?』
何もないのか何かあるのかわからないが、アルスナート皇子の内にほんの微かに感じた感覚。
それにマルシアも子供の頃に感じたことがあるような感覚……。
『試してみますか……。』
寂しくても黙っている子供の気を引く方法。
『ワタクシの時は祖母だった』
マルシアは兄弟、兄とは10廻年(144年)以上歳が離れていて、マルシアが生まれた時には既に兄が家を継ぐ事は決まっていた。
兄と両親は主君である侯爵家の診察や、侯爵から紹介された顧客の診察や治療、他の貴族家への挨拶回りで頻繁に家を空けた。
幼いマルシアはそういった挨拶の席に参加する事はなく、家に留め置かれる事が多かった。
そんな時、祖母がマルシアの世話をしてくれたのだ。
『お祖母様は確か……』
マルシアは祖母が自分をどうやってあやしてくれたのか思い出す。
『あらまあ!カワイイわね~!なあんてカワイイのかしら~!』
マルシアが初めて祖母に会った時の第一印象は、オーバー過ぎる仕草と注目せざるを得ない甲高い声やたくさんのキス、そして優しく包み込んでくれるような柔らかな魔力だった。
ちょっと煩かったが柔らかな感じが心地良かったのを覚えている。
正直、あの時の祖母の態度や魔力を再現するのは少々恥ずかしいのだが、羞恥心を押し殺して、イメージを爆発させる。
コツは棘のない柔らかくて暖かく包むような魔力と、くすぐる様に適度な刺激を与える魔力の振幅。
現実世界なら甲高い声も出して行った方が効果があるのかもしれないが、初見での様子を考えると耳は聴こえていないかもしれない。
『それでは!』
魔力の波動を発信してみる。
……。
反応は、無い。
『……ダメだったかしら?』
マルシアが『失敗したのか?』と、思った瞬間、地震が、いや今マルシアは魔力針に集中していて精神的には睡眠中に近い状態なので、立っているというのもマルシアのイメージだから地面は無い。
だが、ワケがわからないほど周囲の魔力が震えている感じがする。
揺さぶられるというよりも周り全て、世界が震えている様な感覚を感じる。
あっと思った瞬間、マルシアの意識は意味が分からないほど力強い魔力の奔流に包まれる。
この魔力探針方式の診察は通常ならば診察する対象の魔力を外部から『探る』だけのはずだった。
外から探るだけのはずなのだ。
だが、意識が呑まれる瞬間、マルシアは自分が以前からその魔力に飲み込まれていたように感じた。
まるで、今までは感じることが出来なかった存在に今気づいた様な感覚。
そして『恋しい』『包まれたい』という感じの、胸を締めつける様な渇望する様な、『切なくなる』様な感情がマルシアの意識を揺さぶる。
マルシアはその魔力の『淋しさ』を感じ取ると同時に意識が掻き消えたのだった。
……。
……。
……。
「……ワイト……ドワイト殿!。」
「ッ!」
微睡んでいるような、眠りと覚醒の間の様な状態から意識が引き戻される。
「ハッ、い、今のは!?」
気付くといつの間に近寄ってきたのか、老侍従がマルシアの肩を掴んでいた。
「やはり『当てられて』おるようだな。気を付けられよと申したであろう?」
老侍従はそう言ってやれやれといった顔をする。
「竜皇というモノは我ら末々の者よりも原初に近い存在なのだ。気を付けなければ飛ばされるぞ?」
無愛想な表情だった老侍従は、そう言ってホッとした様な顔になった。
「大丈夫、なのですか?」
老侍従に横からアルスナート皇子の側仕えの少女が声を掛けるのをマルシアは眼だけで追いかける。
と、同時にその横にいたアルスナート皇子の姿がマルシアの視界に入った。
アルスナート皇子はマルシアを見ていた。
「おそらくは……。これまで大事や問題になった者は居りませぬ故。」
「そういうことでは無く。殿下が、大丈夫なのか?という事です!」
「それこそ問題など御座いませぬよ。湖にひとつまみの塩を投じたところで海にはなりませぬ。」
少女と老侍従の会話を上の空で聞きながらマルシアはアルスナート皇子を見つめる。
マルシアは先程までアルスナート皇子に大した興味は持っていなかったし、皇子もマルシアには一片の関心も無さそうに見えた。
だが、今アルスナート皇子はマルシアの方を見つめており、目が合っている。
その表情はもの憂げな様子で、潤んだ瞳はとても淋しそうだ。
その顔を見ていると、マルシアは心の奥から湧き出してくる妙な感覚を抑えきれなくなって来て……。
「はぁ~ん!カワイィ~ん。」
……。
「は?」
「え?」
一瞬の沈黙の後、老侍従と側仕えの少女の声が重なる。
「カワイイ!カワイイ!カワイィ~!!お姉さんが!オネエさんが!チュッチュ!チュッチュしてあげるぅ~!」
そう言いながらマルシアは身体をクネクネさせながらアルスナート皇子に手を伸ばす。
「なっ!止めッ!?」
側仕えの少女が慌てて遮ろうとしたが、いつの間にかアルスナート皇子はマルシアのすぐ目の前に移動しており、まるで母親に抱っこをせがむ子供の様な格好をしていた。
その姿にマルシアはより悶絶した様な顔をして、
「ああ~ん!カワイイ~!」
と、甲高い声をあげてアルスナート皇子を抱きしめる。
アルスナート皇子の顔はマルシアの見た目以上にボリュームのある胸に埋もれた。
「あ~ん、カワイイ!カワイイ~!」
「無礼ですよっ!」
しかし、マルシアがアルスナート皇子を抱きしめたのは一瞬だけで、即座に側仕えの少女が抱きしめられているアルスナート皇子をマルシアから引き剥がす。
「ああ~ん。もっと~!」
「変態ですかッ!?貴女はッ!」
「取り押さえて下がらせよ。」
激昂している側仕えの少女と冷静で呆れたような様子の老侍従によってマルシアはアルスナート皇子から引き剥がされた。
そしてマルシアは他の侍従達に抱えられるようにして文字通り謁見の間から引き摺り出されたのだった。
だが、流石にそんな状態になった女性を帰す訳にはいかなかったのか、アルスナート皇子の様子が外に漏れるのを嫌ったのか、マルシアとラトックは宮殿内に部屋を用意されて強制的に宿泊することになった。
数日後、マルシアとラトックは宮殿内の一室で居心地が悪そうに小さくなって呼び出されるのを待っていたのだった。
謁見の日から数日間、マルシアは錯乱した様な状態が続き、皇宮にて宮廷の医術師達の治療を受けることになった。
しかも娘の錯乱状態を見た父ラトックは、「邪な魔法をかけられた!」
と、激怒し、大騒ぎしてこちらも医術師から鎮静の魔法をかけられて皇宮内の部屋に閉じ込められることになった。
数日後、落ち着きを取り戻したマルシアは
暗澹たる気持ちでいっぱいになった。
アルスナート皇子の魔力に『当てられて』いたとはいえアルスナート皇子に対して無礼とも取れる行動をしてしまった。
何より、他の者の目前で醜態としか言いようのない行動をしてしまったのだ。
マルシア自身、恥ずかしくて全てを辞退して故郷へ帰りたかったのだが、治療のために留まらざるを得なかったし、情報を外部へ漏らしたく無いのであろう皇家に強く引き留められた。
そして先日、ダルディオス禅譲皇からの招聘状が届いた。
届いた書状を読んだ途端、ラトックはそれまでの強気が鳴りを顰め、急激に緊張して大人しくなってしまった。
アルスナート皇子との謁見時、招待状の宛名は、
『ギュネー侯爵家御殿医術師ラトック・ドワイト殿』
だが、今日の謁見の招聘状の宛名は、
『プ・ル・サンテ地方子爵ラトック・ドワイト殿』
どういう経緯かはわからないがギュネー侯爵の名が消えていたのだ。
つまりダルディオス禅譲皇はラトックを直接名指しして参内を命じたのだ。
招聘状が届く前まで、
「ワタシはギュネー侯爵家の廷臣だぞ!」
と、強がっていたラトックも今は明らかに顔色が悪い。
ラトックとマルシアの二人はダルディオスの離宮の館で馬車を降りると、親子共に無言でトボトボと謁見の間へと向かった。
「陛下は既にお待ちになっておられます。」
「え!?お待たせしてしまって居るのですか?!」
ラトックが驚いて声を上げる。
通常の謁見だと目下の者は謁見の間に先に入って目上の者の来場を待つことが多い。
目上の者に合わせるのが普通なのだ。
『ええと、お待ちいただいて居る皇族の前に出る時は顔を上げて歩いても良かったのかしら……?』
マルシアは慌てて頭の中で謁見時のマナーについて思い起こす。
先日のアルスナート皇子の謁見の時は相手が入って来るのを待っていれば良かったので落ち着いていられたが、今回は自ら皇族に向かって歩み寄らねばならない。
これまでマルシアに『皇族が待っている時』のマナーなど教えてくれる者は居なかった。
しかも、待っている相手は『元』竜皇である。
皇帝のいない現在、竜神の眷属の中で最上位であり最尊位の存在なのだ。
「ラトック・ドワイト子爵殿、ご参内!」
慌てているマルシアとそれ以上に慌てているラトックを他所に扉の前の侍従が声を張り上げる。
その声に促されるようにラトックとマルシアは部屋に入った。
背中に冷や汗が流れるのを感じながら少し頭を下げ静々と歩くマルシアと、マルシアの前で大きく手を振って歩くラトック。
ラトックは堂々と大手を振っているように見えるが、歩調と手の動きが合っておらずギクシャクしている。
そんな二人はアルスナート皇子の時より広い謁見の間の真ん中辺りで立ち止まって跪いた。
二人とも緊張のあまり所作がバラバラで、マルシアは両腕で胸の前で組み合わせた最上級の礼だが上位貴族相手の片膝着き。
ラトックは両膝をついた最上級の畏まり方なのに片手を胸に添えた略礼。
『ああっ!お父さま、それでは失礼ですわ!』
などと混乱しながらも視線を感じて上目で上座を見たマルシアは、一段高くなった場所にアルスナート皇子を見つけた。
初めて会った時は何も感じなかったが、今のマルシアにはアルスナート皇子の姿はまるで光り輝いている様に感じられる。
側仕えの少女の手を握ってはいるものの、前回の謁見の時とは違って皇子も始めからマルシアの方を見ていて目が合った。
マルシアは思わず、
『目が合っちゃった!キャー!』
などと考えて、先程までの緊張は吹っ飛んでしまい、マルシアは思わず小さく手を振る。
それに気づいたアルスナート皇子は片手は側仕えの少女の手を握ったまま、片手でマルシアへ手を振りかえした。
『キャー!カワイイ~!』
マルシアは思わず悶絶しそうになった。
「ドワイト子爵、ならびに公子マルシア殿。よくぞ参ってくれた。」
だが、一段高くなった上座の豪華な椅子に座った男性に声をかけられた時、マルシアは浮かれていた気分が吹っ飛んで我に返った。
目前の段上、椅子に座っている巨大な存在感を持った存在に気付いて驚愕したのだ。
それは巨大な……、マルシアには壁の様にしか認識できない何か。
つい先ほどまでアルスナート皇子の陰に隠れてしまっていたので気づかなかったが、おそらく巨大な魔力的存在感を持った巨大なナニカ。
『どうして気付かなかったのしょうか?』
怖いもの知らずで、方々で舌禍を振り撒いているラトックでさえ部屋に入った時から怯えていたのに、マルシアだけが今までその存在感に気づくことができていなかったのだ。
マルシアは自分が相当強力にアルスナート皇子に『当てられて』しまっているらしい事を実感したのだった。
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