10 / 14
竜騎士訓練生選考会
しおりを挟む
竜騎士訓練生になるには、厳しい選考会を勝ち抜かなければならない。選考会は吐くほど苦しかったとカイオさんが言っていた。そして、僕はその言葉が嘘でないことを身をもって味わうことになる。
王都には竜騎士訓練生を目指す子どもたちを教える私塾があるが、僕たち竜騎士の子どもは自由に基地の外に行くことはできないので、そんな私塾に入ることはできなかった。
私塾の授業料はとても高額なため、王都の住民でも下町に住む庶民は私塾に通うことができず、五歳から十歳まで公共の学問所で学んでいる。カイオさんも私塾に行かずに学問所で学んだだけだったが、八歳で見事に選考会に合格したんだ。
基地内にも王都と同じような学問所が設けられていて、基地で働く人々の子どもが通っている。もちろん僕も学問所で学んでいるので、カイオさんと条件は同じだった。カイオさんにできて、僕にできない筈はない。僕は絶対にレアナを迎えに行くと約束したのだから。
レアナが神殿へ行ってしまってから二か月後、竜騎士訓練生の選考会が始まった。選考会の間、竜騎士訓練生は帰省することになっている。だから、いつもは七百人ほどもいる訓練生は誰もいないが、それより多くの受験生が集まってきていた。
選考会は三日に亘って行わる。初日、二千人ほどの受験生は、竜騎士訓練所のいくつかの講義室に別れて学力検査を受けた。
学力検査は計算や文字の読み書きかと思っていたが、言葉の間違いを探したり、数列の関連性を見つけたり、順番通りに線を引いたり、ある形を同じ大きさに区切ったりと、学問所では教えてくれない問題ばかりだった。とにかく問題数が多くて素早く解く必要があったから、僕はかなり緊張した。
それから面接があって、なぜ竜騎士になりたいのか問われた。僕は竜の背に乗って空を飛びたいこと。この国の人々を救いたいこと。そして、聖乙女となった幼馴染を救い出したいと答えた。それは僕の正直な気持ちだから、嘘はつけなかった。
幸い僕は合格者として名前を呼ばれた。その日、合格した受験生は半分に減っていた。
その夜、合格した者は広い屋外訓練場に天幕を張ることになった。これも訓練の一つだ。緊急発進や哨戒飛行の時、竜は食料や天幕を背に積んでいる。もし竜が飛行できないような事態になれば、竜を地上に降ろし、竜騎士が竜を癒さなければならない。竜騎士はたった一人見知らぬ土地で何日も過ごすこともあり得るのだ。だから、天幕を張ったり簡単な調理をしたりは、竜騎士に必要な能力で、これも試されている。
二日目は魔法の検査。魔法が使えなければ全速の竜の背に乗ることはできない。体を強化しなければばらばらになってしまうほど、竜の速度は速いからだ。音の速度を超えるらしい。
身体強化魔法や風魔法を中心に、僕たちは様々な魔法を使わされる。何度も何度も、魔力の限界を試されるんだ。
この日も半分の受験生が落とされた。だけど、僕は何とか残ることができた。硬い地面に薄い皮の敷物、その上に敷いた毛布の上で僕たちは眠る。疲れた体と魔力はそれほど回復することができなかった。
そして最終日。体力検査が始まった。
この日は体力の限界を試される。体がまだ小さい僕にはとても不利だった。
だけど、カイオさんだって八歳で受かったんだ。僕にもできるはずだ。そう思いながら、僕は走った。跳んだ。そして、闘った。
もう、記憶さえあやふやになっていた頃、やっと選考会が終わったらしい。
僕は手足を投げ出して地面に寝転がった。もう、一歩も動けない。
僕は遠い意識の中で、自分の名前が呼ばれるのを聞いた。
自由にならない重い体を根性で引き上げるようにして立ち上がる。
「これから竜舎へ行くぞ。この班はカイオ殿のライムンドに乗せてもらうことになっている。ライムンドに乗せることを拒否された者は、残念だがその場で帰宅だ。また、高所が怖い者も竜騎士には向かない。その他、カイオ殿が不可だと判断した者も帰宅となる。残った者は晴れて竜騎士訓練生となることができる」
試験官は魔法で拡声したようだ。その言葉は疲れ切った僕にも届いた。
竜舎には何度も行ったことがある。ライムンドにも何回か乗せてもらった。それでも、今日は特別だった。
僕は震えるように力が入らない脚を何とか動かして、列に遅れないように進んでいた。
竜舎前の広場には、見慣れた真っ黒いライムンドが引き出されて待っていた。もちろん操竜するのはカイオさんだ。
そして、一番目の受験生を乗せてライムンドが飛び立つ。やはりとても格好良い。ふと横を見ると、父のエルネストも飛び立つところだった。
この日、昼と夜の哨戒飛行担当以外の竜は、三日間の選考会を勝ち抜いてきた受験生を乗せて空を舞うんだ。僕は毎年基地の公園からそれを見ていた。
そして今日、竜の背中からそんな風景を眺めることができる。
「本当に八歳で合格したんだな」
カイオさんはそう言いながら、順番がきた僕を軽々と抱いてライムンドに飛び乗った。
力強く飛び立つライムンド。
「僕は今日見たこの風景を絶対に忘れない」
「ああ、俺も最初に竜に乗せてもらった時のことははっきりと覚えている。アウレリオという名の瑠璃色の美しい竜が俺を乗せてくれたんだ」
カイオさんもこんな飛行を経験したんだなと思うと、竜騎士がとても身近になったような気がした。
「ジョエル、よく頑張った。でもな、これからはもっときついぞ。選考会なんて子どもの遊びだったんだなと、訓練所に入ったら思うはずだ。覚悟しておけ」
カイオさんは笑顔でそんなことを言った。それは真実だろうなと僕も思う。父もそんなことを言っていた。
「覚悟はしています」
レアナに誓ったから、どんなに苦しくても耐えてみせる。
「十年経ったら俺がレアナを迎えに行くから、ジョエルはそんなに気張らんでもいいからな」
ライムンドを急降下から急上昇させながら、カイオさんが僕に言った。
もちろんそんな飛行で僕は驚かないし、レアナを迎えに行くのを譲る積りもない。
「レアナを迎えに行くのは僕なので、お気遣いは不要です」
僕はそう答えて笑う。
疲れた体に上空の風が気持ち良かった。
王都には竜騎士訓練生を目指す子どもたちを教える私塾があるが、僕たち竜騎士の子どもは自由に基地の外に行くことはできないので、そんな私塾に入ることはできなかった。
私塾の授業料はとても高額なため、王都の住民でも下町に住む庶民は私塾に通うことができず、五歳から十歳まで公共の学問所で学んでいる。カイオさんも私塾に行かずに学問所で学んだだけだったが、八歳で見事に選考会に合格したんだ。
基地内にも王都と同じような学問所が設けられていて、基地で働く人々の子どもが通っている。もちろん僕も学問所で学んでいるので、カイオさんと条件は同じだった。カイオさんにできて、僕にできない筈はない。僕は絶対にレアナを迎えに行くと約束したのだから。
レアナが神殿へ行ってしまってから二か月後、竜騎士訓練生の選考会が始まった。選考会の間、竜騎士訓練生は帰省することになっている。だから、いつもは七百人ほどもいる訓練生は誰もいないが、それより多くの受験生が集まってきていた。
選考会は三日に亘って行わる。初日、二千人ほどの受験生は、竜騎士訓練所のいくつかの講義室に別れて学力検査を受けた。
学力検査は計算や文字の読み書きかと思っていたが、言葉の間違いを探したり、数列の関連性を見つけたり、順番通りに線を引いたり、ある形を同じ大きさに区切ったりと、学問所では教えてくれない問題ばかりだった。とにかく問題数が多くて素早く解く必要があったから、僕はかなり緊張した。
それから面接があって、なぜ竜騎士になりたいのか問われた。僕は竜の背に乗って空を飛びたいこと。この国の人々を救いたいこと。そして、聖乙女となった幼馴染を救い出したいと答えた。それは僕の正直な気持ちだから、嘘はつけなかった。
幸い僕は合格者として名前を呼ばれた。その日、合格した受験生は半分に減っていた。
その夜、合格した者は広い屋外訓練場に天幕を張ることになった。これも訓練の一つだ。緊急発進や哨戒飛行の時、竜は食料や天幕を背に積んでいる。もし竜が飛行できないような事態になれば、竜を地上に降ろし、竜騎士が竜を癒さなければならない。竜騎士はたった一人見知らぬ土地で何日も過ごすこともあり得るのだ。だから、天幕を張ったり簡単な調理をしたりは、竜騎士に必要な能力で、これも試されている。
二日目は魔法の検査。魔法が使えなければ全速の竜の背に乗ることはできない。体を強化しなければばらばらになってしまうほど、竜の速度は速いからだ。音の速度を超えるらしい。
身体強化魔法や風魔法を中心に、僕たちは様々な魔法を使わされる。何度も何度も、魔力の限界を試されるんだ。
この日も半分の受験生が落とされた。だけど、僕は何とか残ることができた。硬い地面に薄い皮の敷物、その上に敷いた毛布の上で僕たちは眠る。疲れた体と魔力はそれほど回復することができなかった。
そして最終日。体力検査が始まった。
この日は体力の限界を試される。体がまだ小さい僕にはとても不利だった。
だけど、カイオさんだって八歳で受かったんだ。僕にもできるはずだ。そう思いながら、僕は走った。跳んだ。そして、闘った。
もう、記憶さえあやふやになっていた頃、やっと選考会が終わったらしい。
僕は手足を投げ出して地面に寝転がった。もう、一歩も動けない。
僕は遠い意識の中で、自分の名前が呼ばれるのを聞いた。
自由にならない重い体を根性で引き上げるようにして立ち上がる。
「これから竜舎へ行くぞ。この班はカイオ殿のライムンドに乗せてもらうことになっている。ライムンドに乗せることを拒否された者は、残念だがその場で帰宅だ。また、高所が怖い者も竜騎士には向かない。その他、カイオ殿が不可だと判断した者も帰宅となる。残った者は晴れて竜騎士訓練生となることができる」
試験官は魔法で拡声したようだ。その言葉は疲れ切った僕にも届いた。
竜舎には何度も行ったことがある。ライムンドにも何回か乗せてもらった。それでも、今日は特別だった。
僕は震えるように力が入らない脚を何とか動かして、列に遅れないように進んでいた。
竜舎前の広場には、見慣れた真っ黒いライムンドが引き出されて待っていた。もちろん操竜するのはカイオさんだ。
そして、一番目の受験生を乗せてライムンドが飛び立つ。やはりとても格好良い。ふと横を見ると、父のエルネストも飛び立つところだった。
この日、昼と夜の哨戒飛行担当以外の竜は、三日間の選考会を勝ち抜いてきた受験生を乗せて空を舞うんだ。僕は毎年基地の公園からそれを見ていた。
そして今日、竜の背中からそんな風景を眺めることができる。
「本当に八歳で合格したんだな」
カイオさんはそう言いながら、順番がきた僕を軽々と抱いてライムンドに飛び乗った。
力強く飛び立つライムンド。
「僕は今日見たこの風景を絶対に忘れない」
「ああ、俺も最初に竜に乗せてもらった時のことははっきりと覚えている。アウレリオという名の瑠璃色の美しい竜が俺を乗せてくれたんだ」
カイオさんもこんな飛行を経験したんだなと思うと、竜騎士がとても身近になったような気がした。
「ジョエル、よく頑張った。でもな、これからはもっときついぞ。選考会なんて子どもの遊びだったんだなと、訓練所に入ったら思うはずだ。覚悟しておけ」
カイオさんは笑顔でそんなことを言った。それは真実だろうなと僕も思う。父もそんなことを言っていた。
「覚悟はしています」
レアナに誓ったから、どんなに苦しくても耐えてみせる。
「十年経ったら俺がレアナを迎えに行くから、ジョエルはそんなに気張らんでもいいからな」
ライムンドを急降下から急上昇させながら、カイオさんが僕に言った。
もちろんそんな飛行で僕は驚かないし、レアナを迎えに行くのを譲る積りもない。
「レアナを迎えに行くのは僕なので、お気遣いは不要です」
僕はそう答えて笑う。
疲れた体に上空の風が気持ち良かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる