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竜騎士訓練生選考会

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 竜騎士訓練生になるには、厳しい選考会を勝ち抜かなければならない。選考会は吐くほど苦しかったとカイオさんが言っていた。そして、僕はその言葉が嘘でないことを身をもって味わうことになる。

 王都には竜騎士訓練生を目指す子どもたちを教える私塾があるが、僕たち竜騎士の子どもは自由に基地の外に行くことはできないので、そんな私塾に入ることはできなかった。
 私塾の授業料はとても高額なため、王都の住民でも下町に住む庶民は私塾に通うことができず、五歳から十歳まで公共の学問所で学んでいる。カイオさんも私塾に行かずに学問所で学んだだけだったが、八歳で見事に選考会に合格したんだ。
 基地内にも王都と同じような学問所が設けられていて、基地で働く人々の子どもが通っている。もちろん僕も学問所で学んでいるので、カイオさんと条件は同じだった。カイオさんにできて、僕にできない筈はない。僕は絶対にレアナを迎えに行くと約束したのだから。

 レアナが神殿へ行ってしまってから二か月後、竜騎士訓練生の選考会が始まった。選考会の間、竜騎士訓練生は帰省することになっている。だから、いつもは七百人ほどもいる訓練生は誰もいないが、それより多くの受験生が集まってきていた。
 選考会は三日に亘って行わる。初日、二千人ほどの受験生は、竜騎士訓練所のいくつかの講義室に別れて学力検査を受けた。
 学力検査は計算や文字の読み書きかと思っていたが、言葉の間違いを探したり、数列の関連性を見つけたり、順番通りに線を引いたり、ある形を同じ大きさに区切ったりと、学問所では教えてくれない問題ばかりだった。とにかく問題数が多くて素早く解く必要があったから、僕はかなり緊張した。
 それから面接があって、なぜ竜騎士になりたいのか問われた。僕は竜の背に乗って空を飛びたいこと。この国の人々を救いたいこと。そして、聖乙女となった幼馴染を救い出したいと答えた。それは僕の正直な気持ちだから、嘘はつけなかった。

 幸い僕は合格者として名前を呼ばれた。その日、合格した受験生は半分に減っていた。
 その夜、合格した者は広い屋外訓練場に天幕を張ることになった。これも訓練の一つだ。緊急発進や哨戒飛行の時、竜は食料や天幕を背に積んでいる。もし竜が飛行できないような事態になれば、竜を地上に降ろし、竜騎士が竜を癒さなければならない。竜騎士はたった一人見知らぬ土地で何日も過ごすこともあり得るのだ。だから、天幕を張ったり簡単な調理をしたりは、竜騎士に必要な能力で、これも試されている。
 
 二日目は魔法の検査。魔法が使えなければ全速の竜の背に乗ることはできない。体を強化しなければばらばらになってしまうほど、竜の速度は速いからだ。音の速度を超えるらしい。
 身体強化魔法や風魔法を中心に、僕たちは様々な魔法を使わされる。何度も何度も、魔力の限界を試されるんだ。
 この日も半分の受験生が落とされた。だけど、僕は何とか残ることができた。硬い地面に薄い皮の敷物、その上に敷いた毛布の上で僕たちは眠る。疲れた体と魔力はそれほど回復することができなかった。

 そして最終日。体力検査が始まった。
 この日は体力の限界を試される。体がまだ小さい僕にはとても不利だった。
 だけど、カイオさんだって八歳で受かったんだ。僕にもできるはずだ。そう思いながら、僕は走った。跳んだ。そして、闘った。
 もう、記憶さえあやふやになっていた頃、やっと選考会が終わったらしい。
 僕は手足を投げ出して地面に寝転がった。もう、一歩も動けない。

 僕は遠い意識の中で、自分の名前が呼ばれるのを聞いた。
 自由にならない重い体を根性で引き上げるようにして立ち上がる。
「これから竜舎へ行くぞ。この班はカイオ殿のライムンドに乗せてもらうことになっている。ライムンドに乗せることを拒否された者は、残念だがその場で帰宅だ。また、高所が怖い者も竜騎士には向かない。その他、カイオ殿が不可だと判断した者も帰宅となる。残った者は晴れて竜騎士訓練生となることができる」
 試験官は魔法で拡声したようだ。その言葉は疲れ切った僕にも届いた。

 竜舎には何度も行ったことがある。ライムンドにも何回か乗せてもらった。それでも、今日は特別だった。
 僕は震えるように力が入らない脚を何とか動かして、列に遅れないように進んでいた。


 竜舎前の広場には、見慣れた真っ黒いライムンドが引き出されて待っていた。もちろん操竜するのはカイオさんだ。
 そして、一番目の受験生を乗せてライムンドが飛び立つ。やはりとても格好良い。ふと横を見ると、父のエルネストも飛び立つところだった。
 この日、昼と夜の哨戒飛行担当以外の竜は、三日間の選考会を勝ち抜いてきた受験生を乗せて空を舞うんだ。僕は毎年基地の公園からそれを見ていた。
 そして今日、竜の背中からそんな風景を眺めることができる。


「本当に八歳で合格したんだな」
 カイオさんはそう言いながら、順番がきた僕を軽々と抱いてライムンドに飛び乗った。
 力強く飛び立つライムンド。
「僕は今日見たこの風景を絶対に忘れない」
「ああ、俺も最初に竜に乗せてもらった時のことははっきりと覚えている。アウレリオという名の瑠璃色の美しい竜が俺を乗せてくれたんだ」
 カイオさんもこんな飛行を経験したんだなと思うと、竜騎士がとても身近になったような気がした。

「ジョエル、よく頑張った。でもな、これからはもっときついぞ。選考会なんて子どもの遊びだったんだなと、訓練所に入ったら思うはずだ。覚悟しておけ」
 カイオさんは笑顔でそんなことを言った。それは真実だろうなと僕も思う。父もそんなことを言っていた。
「覚悟はしています」
 レアナに誓ったから、どんなに苦しくても耐えてみせる。

「十年経ったら俺がレアナを迎えに行くから、ジョエルはそんなに気張らんでもいいからな」
 ライムンドを急降下から急上昇させながら、カイオさんが僕に言った。
 もちろんそんな飛行で僕は驚かないし、レアナを迎えに行くのを譲る積りもない。
「レアナを迎えに行くのは僕なので、お気遣いは不要です」
 僕はそう答えて笑う。
 疲れた体に上空の風が気持ち良かった。 
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