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僕は竜騎士訓練生になった
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無事に選考会を勝ち抜いた僕は、晴れて竜騎士訓練生となり、竜騎士訓練所に入ることになった。同級生は二百人余り。受験生は十分の一ほどに減っていた。
基地の入り口近くに三階建ての建物が四棟連なった訓練所がある。広大な屋外訓練場と屋内闘技場を持つ訓練所は、基地の中でもかなり大きな施設だ。
二棟は講義棟、残りの二棟は寮になっている。竜騎士訓練生は全寮制で、四年生までは六人部屋を使う。小さな机とベッドだけが個人の空間だった。
五年生からは二人部屋。八年目以降は一人部屋を使えるらしい。それはとても遠い未来の話だ。
僕が使う部屋は三階にあり、部屋の奥側の真ん中に置かれたベッドと机が僕の場所だった。机の引き出しにはレアナにもらった銀の札と、弟のディエゴが描いたレアナの絵を入れた。両方とも大切な僕の宝物だ。
こうして、僕に竜騎士訓練生としての日々が始まった。
合格者の中で八歳は僕一人だけだったが、九歳は十人ほどいた。その殆どが私塾へ通っていた受験生だったが、一人だけ公立の学問所出身者がいる。僕はそのリカルドととても親しくなったんだ。
残念ながらリカルドとは部屋は同じではなかったが、同室の訓練生は私塾出身のやつらばかり。皆既に顔見知りになっていて、僕はちょっと話しかけにくい。
だから僕はいつもリカルドと一緒に過ごしていた。
父やカイオさんが言うように、訓練はとても厳しかった。一番体の小さな僕にとって、全ての科目の難易度がとても高く感じる。
でもカイオさんだってこの訓練に耐えてきたんだ。
そして、神殿で僕らのために祈っているレアナのことを想うと、とても弱音なんか吐けない。僕は優等生でないけれど、劣等生でもないぐらいには頑張れていた。
それはリカルドも同じだ。だから、リカルドとは訓練の班が同じになることが多く、僕たちは益々仲良くなっていった。
昼休憩中に大食堂でリカルドと話していると、カイオさんの話題が出た。リカルドはカイオさんに憧れて竜騎士になろうと思ったらしい。カイオさんは王都の下町出身で、竜騎士訓練所に入るまで特別な訓練を受けていない。それなのに誰よりも早く竜を得て竜騎士になったカイオさんは、やっぱり凄い人なんだと改めて思う。
そして、金属光沢をもつ真っ黒なライムンドが格好いいとリカルドはしきりに褒める。
僕たちの話を聞いていた近くに座っている訓練生も、口々にカイオさんとライムンドを褒めた。特に公営の学問所出身者はカイオさんのことを英雄のように持ち上げる。
だから、僕はつい第九番竜のエルネストが格好良いし、地方から出てきて二十二歳で竜騎士になったジャイルも凄いと主張してしまった。
父は地方の村出身で、母は同郷の幼馴染だった。王都からそれほど離れた村でもなく、父は村長の孫だったので金には困っていなかったから、一年間王都の私塾へ入ってから竜騎士訓練生選考会に臨んだらしい。
王都の富裕層の姉弟は五歳から私塾に入って、数年間訓練してから選考会に挑むらしいので、一回目の挑戦で合格した父はやっぱり凄い。
父が竜騎士になった当時は最年少だったので、新聞で大々的に報道された。その新聞は母がちゃんと残しているので、僕も読んだことがある。父が竜騎士になって二年後にカイオさんが最年少で竜騎士になったので、その陰に隠れがちだが、父も凄い竜騎士であることには違いない。
「そうか? 最高に格好良いいライムンドに比べて、土色のエルネストなんて本当に地味だよな。ジャイルさんも何だか影が薄いし。やっぱり田舎者だからか」
誰かがそんなことを言った。僕よりかなり体が大きいので上級生かもしれない。
僕はそいつの言葉が我慢できなかった。
竜騎士を目指す訓練生が、竜騎士の父や竜を馬鹿にするのが許せない。
「父さんやエルネストを馬鹿にするな! 父さんはとても立派な竜騎士なんだからな。エルネストだって、翼に赤い二本の線が入っていて、とても格好良いんだ」
赤い線は近くで見なければわからないだろう。竜騎士団の本部に飾っているような大きな絵でないと、赤い二本線は描かれていない。
僕は父とエルネストを馬鹿にした上級生に殴りかかった。しかし、体格差があるので簡単に止められる。
「父って、ジョエルのお父さんは竜騎士なのか?」
呆然としながらリカルドが僕に訊いた。
食堂が騒めいていた。皆が口々に竜騎士と叫んでいる。
僕は取り返しのつかない失敗をしてしまったことに気がついた。
騒ぎになっているのを訝しく思った教官が飛んできて、その場は何とか収まった。
しかし、次の日の昼休憩、リカルドは僕の隣に座らなかった。
「同じ学問所出身者だと思っていたのに、ジョエルは竜騎士の子どもだったなんて。僕のことを馬鹿にしていたんじゃないのか?」
リカルドはとても冷たいの目をして僕を睨んでいた。
「違うよ。馬鹿になんてしていない」
そう言ったけれど、リカルドは返事をしないで離れていく。
『訓練生になったら、出身など全く関係ない。ただ竜を得んがために努力するだけだ。しかし、無駄な揉め事を起こさないためにも、親が竜騎士であることは皆に話さない方がいいだろう』
父はそう言っていたのに、僕は父とエルネストを自慢したくて、父のことをしゃべってしまった。
カイオさんが凄い竜騎士であることはわかっている。だけど、父も凄いと言いたかっただけなんだ。
僕はその日、たった一人で昼を食った。いつもと同じ味の筈なのに、まるで砂を噛んでいるような気がしていた。
基地の入り口近くに三階建ての建物が四棟連なった訓練所がある。広大な屋外訓練場と屋内闘技場を持つ訓練所は、基地の中でもかなり大きな施設だ。
二棟は講義棟、残りの二棟は寮になっている。竜騎士訓練生は全寮制で、四年生までは六人部屋を使う。小さな机とベッドだけが個人の空間だった。
五年生からは二人部屋。八年目以降は一人部屋を使えるらしい。それはとても遠い未来の話だ。
僕が使う部屋は三階にあり、部屋の奥側の真ん中に置かれたベッドと机が僕の場所だった。机の引き出しにはレアナにもらった銀の札と、弟のディエゴが描いたレアナの絵を入れた。両方とも大切な僕の宝物だ。
こうして、僕に竜騎士訓練生としての日々が始まった。
合格者の中で八歳は僕一人だけだったが、九歳は十人ほどいた。その殆どが私塾へ通っていた受験生だったが、一人だけ公立の学問所出身者がいる。僕はそのリカルドととても親しくなったんだ。
残念ながらリカルドとは部屋は同じではなかったが、同室の訓練生は私塾出身のやつらばかり。皆既に顔見知りになっていて、僕はちょっと話しかけにくい。
だから僕はいつもリカルドと一緒に過ごしていた。
父やカイオさんが言うように、訓練はとても厳しかった。一番体の小さな僕にとって、全ての科目の難易度がとても高く感じる。
でもカイオさんだってこの訓練に耐えてきたんだ。
そして、神殿で僕らのために祈っているレアナのことを想うと、とても弱音なんか吐けない。僕は優等生でないけれど、劣等生でもないぐらいには頑張れていた。
それはリカルドも同じだ。だから、リカルドとは訓練の班が同じになることが多く、僕たちは益々仲良くなっていった。
昼休憩中に大食堂でリカルドと話していると、カイオさんの話題が出た。リカルドはカイオさんに憧れて竜騎士になろうと思ったらしい。カイオさんは王都の下町出身で、竜騎士訓練所に入るまで特別な訓練を受けていない。それなのに誰よりも早く竜を得て竜騎士になったカイオさんは、やっぱり凄い人なんだと改めて思う。
そして、金属光沢をもつ真っ黒なライムンドが格好いいとリカルドはしきりに褒める。
僕たちの話を聞いていた近くに座っている訓練生も、口々にカイオさんとライムンドを褒めた。特に公営の学問所出身者はカイオさんのことを英雄のように持ち上げる。
だから、僕はつい第九番竜のエルネストが格好良いし、地方から出てきて二十二歳で竜騎士になったジャイルも凄いと主張してしまった。
父は地方の村出身で、母は同郷の幼馴染だった。王都からそれほど離れた村でもなく、父は村長の孫だったので金には困っていなかったから、一年間王都の私塾へ入ってから竜騎士訓練生選考会に臨んだらしい。
王都の富裕層の姉弟は五歳から私塾に入って、数年間訓練してから選考会に挑むらしいので、一回目の挑戦で合格した父はやっぱり凄い。
父が竜騎士になった当時は最年少だったので、新聞で大々的に報道された。その新聞は母がちゃんと残しているので、僕も読んだことがある。父が竜騎士になって二年後にカイオさんが最年少で竜騎士になったので、その陰に隠れがちだが、父も凄い竜騎士であることには違いない。
「そうか? 最高に格好良いいライムンドに比べて、土色のエルネストなんて本当に地味だよな。ジャイルさんも何だか影が薄いし。やっぱり田舎者だからか」
誰かがそんなことを言った。僕よりかなり体が大きいので上級生かもしれない。
僕はそいつの言葉が我慢できなかった。
竜騎士を目指す訓練生が、竜騎士の父や竜を馬鹿にするのが許せない。
「父さんやエルネストを馬鹿にするな! 父さんはとても立派な竜騎士なんだからな。エルネストだって、翼に赤い二本の線が入っていて、とても格好良いんだ」
赤い線は近くで見なければわからないだろう。竜騎士団の本部に飾っているような大きな絵でないと、赤い二本線は描かれていない。
僕は父とエルネストを馬鹿にした上級生に殴りかかった。しかし、体格差があるので簡単に止められる。
「父って、ジョエルのお父さんは竜騎士なのか?」
呆然としながらリカルドが僕に訊いた。
食堂が騒めいていた。皆が口々に竜騎士と叫んでいる。
僕は取り返しのつかない失敗をしてしまったことに気がついた。
騒ぎになっているのを訝しく思った教官が飛んできて、その場は何とか収まった。
しかし、次の日の昼休憩、リカルドは僕の隣に座らなかった。
「同じ学問所出身者だと思っていたのに、ジョエルは竜騎士の子どもだったなんて。僕のことを馬鹿にしていたんじゃないのか?」
リカルドはとても冷たいの目をして僕を睨んでいた。
「違うよ。馬鹿になんてしていない」
そう言ったけれど、リカルドは返事をしないで離れていく。
『訓練生になったら、出身など全く関係ない。ただ竜を得んがために努力するだけだ。しかし、無駄な揉め事を起こさないためにも、親が竜騎士であることは皆に話さない方がいいだろう』
父はそう言っていたのに、僕は父とエルネストを自慢したくて、父のことをしゃべってしまった。
カイオさんが凄い竜騎士であることはわかっている。だけど、父も凄いと言いたかっただけなんだ。
僕はその日、たった一人で昼を食った。いつもと同じ味の筈なのに、まるで砂を噛んでいるような気がしていた。
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