聖なる乙女は竜騎士を選んだ

鈴元 香奈

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10.朝目覚めると(カイオ視点)

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 目が覚めると、窓の外は明るくなっていた。昨日は食っている途中から記憶が飛んでいる。そのまま食事室のテーブルで眠ってしまったらしい。そのせいで体があちこち痛い。俺は身を起こして背伸びをした。そして、前を見るとテーブルの向かいに毛布をかぶった髪の長い女が突っ伏している。
「ルシア?」
 顔が見えないが昨日同居することに決まってしまった、元聖乙女のルシアに違いない。

 俺の声で目が覚めたのか、もぞもぞと動き始めたルシアが顔を上げた。
「あ、おはようございます」
 俺と目が合ったルシアはかなり冷静だった。
「呑気に挨拶してんじゃない! なぜこんなところで寝ていた? 二階の部屋を使うと言っていただろう」
「だって、家主さんがこんなところで寝てしまったのに、居候の私がぬくぬくとベッドで寝る訳にはいかないわよ」 
「次は俺のことは気にせずちゃんとベッドで寝るんだ。風邪でもひいたら、俺のせいみたいじゃないか」
「それは、自分に言い聞かせてよね。いくら疲れたからって、こんなところで寝ると体に良くないわよ」
「俺は体は丈夫なんだよ。聖乙女だったあんたとは違う」
 神殿から出たこともないと言っていたから、ルシアは運動もほどんどしてこなかったようだ。彼女は小柄で思った以上に軽い。
「私だって健康だから、ここで寝たって平気よ」
 ルシアが頬を膨らましながら横を向いた。相変わらず大人の魅力は迷子だ。


「とにかく、シャワーを浴びて、朝食を食って、出勤するから。あんたもシャワーを浴びるか?」
 気が進まないがルシアのことを団長に報告して、家政婦の要請もしなければならない。竜騎士団の基地内で働ける者は限られているから、家政婦も勝手に雇うことはできず、基地の事務所で手続きが必要になる。
「行く!」
 ルシアはシャワーと聞いて機嫌が直ったらしい。元気に立ち上がった。



「ここが風呂場だ。魔法で天井の上にあるタンクに水を汲み上げて燃料で温めておけば、魔力がなくてもシャワーが使える方式だ」
 風呂場にルシアを連れてきて、使い方を教えておく。
「神殿で使っていたのと同じで、栓を回せばお湯が出るのね。これなら私でも使えるわ。台所とは違う方式なのね」
 一人でシャワーが使えないと言い出せばどうしようと思ったが、その心配はいらなかったようだ。
「魔力がない人が伴侶になっても、調理の水は使えるようにとの配慮で台所はああなっている。焜炉の火やランプの明かりは燃料に火をつけるだけだから一瞬の魔法で済むけど、水を汲むのはずっと魔法を使い続けないといけないからな。シャワーのようにタンクに貯めておくと水も腐ってくるし。飲んだり調理に使う水は浄化したばかりの新鮮な方がいいだろう? 一般家庭の水道もこの方式だと思うけどな。家族全員が魔力持ちの家庭も珍しいし」
 聖乙女には魔力持ちの世話係がつくらしいので、全て世話係の魔力で行っていたようだ。
「村では井戸だったから、桶で水を汲んでいたの。水道なんて神殿に入る前は見たこともなかった。子どもだったけれど私も水汲みを手伝ったのよ。かなり重くて大変だったのを覚えているわ。ところで、シャワーのタンクに水を汲み上げるのには魔力を使うのでしょう? 竜に乗るだけでも大量の風魔法と身体強化魔法が必要だと本に書いてあったから、昨日は大量の魔力を消費したのよね? 水を汲み上げるのが無理だったら、お湯を沸かして体を拭くわ。村ではそうしていたの」

「俺は竜騎士だぞ。一晩も寝れば魔力も全回復する。こんなタンクの水ぐらい朝飯前だ」
「食事室のテーブルで眠ったのに?」
「睡眠は睡眠だ。とにかくシャワーの用意をするから」
 俺はルシアに見せつけるように、最大出力の水魔法を使って一瞬でタンクを満杯にしてやった。
「す、凄い。もう満杯になったわ」
 ルシアは驚いているが、竜騎士の俺にとってこれぐらい軽い。まぁ、水魔法はちょっと苦手なので少し疲れたが。


 俺がシャワーを浴びて風呂場から出ると、入れ替わりに風呂場に入ったルシアは、しばらくしてバスタオルで髪を拭きながら出てきた。
 彼女は昨日買った淡い水色のワンピースを着ている。基地内の雑貨屋で売っていたものなので、お洒落でもないが神殿から支給されたものよりましだろう。彼女は昨日よりかなり明るい雰囲気になっている。
「髪を魔法で乾かしてやる。風魔法は得意なんだ」
 風魔法は竜騎士にとって絶対必要ものだから、本当に得意だ。いくらでも使える。
 近寄って少し温めた風をルシアの亜麻色の長い髪に送ってやった。すると彼女は髪に風を髪に含ませるように手ですきながら乾かしている。世話係にやってもらっていたのか、その様子はかなり慣れていた。
「ありがとう。髪はきれいに乾いたわ。これでさっぱりした」
 ルシアが素直に礼を言ったので驚いた。
「これぐらい、どうってことない」
 礼を言われたりしたら調子が狂ってしまう。


 ずっと神殿にいたルシアもそうだが、俺も今まで独身寮に住んでいたので料理などしたことがない。昨日買って冷蔵保管庫にしまっておいた肉を料理するのは諦めて、パンとチーズとちぎった野菜で朝食を済ませた。

「俺は仕事へ行くけれど、昼には一旦戻ってくる。それから雑貨屋へ何か食うものを買いに行こう。魔法もその時何とかするから。とにかく家でおとなしく待っていろよ。危ないことはするな。眠かったら遠慮せずにベッドで寝ろ」
 ルシアは俺より年上だがかなり世間知らずだ。一人にするのは不安だが、俺は仕事に行かなければならない。
「待つぐらいできるわよ。任せなさい」
 そんなルシアに不安を覚えせつつ、俺は家を出ていった。
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