神さまは詰めが甘い

鈴元 香奈

文字の大きさ
2 / 4

02:その容姿でそれは止めて欲しい

しおりを挟む
「あ、あの、大丈夫ですか?」
 気軽に声をかけてもいいのかと悩んでしまうほど、その男性の美しさは完璧だった。
 私の声に気づいたのか、彼は私の方を見る。その美しい瞳に私が写っていると思うだけで、ちょっといたたまれない。

 彼は優雅に半身を起こし、不思議そうに辺りを見回している。そして、私に向かってふわっと軽く微笑んだ。
 その笑顔は本当に美しすぎる!
 そのお姿を拝見できただけで満足だ。
 彼の写真の一枚もあれば、残りの人生を楽しく生きられるのに違いない。そう思わせる程彼は見目麗しい。切実に写真を撮りたいと思った。
 でも、いきなり写真を撮っては駄目だ。それではただの不審人物だから。私は自分自身にそう言い聞かせていた。

「見たことがあらへん風景やな。ここはどこや?」
「へっ?」
 思わず変な声が出てしまった。別に関西弁が嫌いなわけではないけれど、見かけは完璧な王子さまが関西弁なのは許せない。
「ワイの言葉、わからへんのか?」
 美しい動作で立ち上がったその男性は、不安そうに私を見つめている。背が高くて手足も長い。それに比べて顔は小さかった。プロポーションも完璧だ。そして声もとても素敵だった。
 それにしても、こんな美形の一人称代名詞が『ワイ』って、あり得ない!
 誰かが面白がって外国人に変な言葉を教えたに違いない。

「貴方の言葉は理解できます。でも『ワイ』は止めてもらっていいですか?」
「何でや? ワイはガキの頃から『ワイ』やで」
 うぅ。関西在住の外国人だったのか。関西に住むなとは言わないけれど、こんな美形の子どもがいるのならば、居住地には気を配ろうよ。そう彼の家族に言い聞かせたい。

「せやけど、ほんま良かったわ。ワイはな、誰とでも会話ができるという神様の祝福持ちなんやで。その能力が使えんようになったんかと心配したやんか。言葉が通じるなら、異界の地でも何とかなるさかい、安心やな」
 関西弁には慣れていないけれど、意味はわかる。
 彼は『異界の地』って言ったよね。それに神様の祝福で言葉が通じるとも。

『神様! なぜ彼の言葉を関西弁に翻訳するのですか? 画竜点睛を欠くとはまさにこのことでしょう。ここまで神の配分と言っていいほどの美形を作り上げて、一人称がワイって、詰めが甘すぎます』
 問題はそこではないと思うけれど、『ワイ』のインパクトが凄すぎて思考が脱線してしまった。

「『異界の地』とおっしゃいました?」
 やはりこれが重要だと思う。怖いけど確認だけはしておこう。
「そやで。ワイのもう一つの祝福はな、界を渡ることができるんや。どや、凄いやろ」
「は、はい。そうですね」
 眼の前の男性は信じられない程の美形だけど、電波な外人さんだった。
 とりあえず写真だけは撮らしてもらって、さっさと家へ帰ろうと思う。

 中身がどんなに変な人であろうとも、その容姿に罪はない。写真は大きく引き伸ばして部屋の壁に貼ろうかな。そんなことを考えながら私はバッグからスマホを取り出した。
「あの、写真を撮らせてもらっていいですか?」
「写真てなんや? 聞いたことあらへんで。そないな機械も知らんしな」
 彼はスマホを興味深く見ていた。
 今どき写真やスマホを知らない人が日本にいるはずないと思うけれど、彼の設定ではそうなのだろう。私はとりあえずその設定には逆らわないことにした。
 私の目的は美形の写真を撮ることで、危ない外国人を更生させることではない。

「実演してみますから、少し笑ってくれますか」 
「わかったで。こんな感じでどうや?」
 王子さま然とした超美形が微笑んでいる。背景は見慣れた町並みと一級河川。違和感はあるけれど、彼の関西弁ほどではない。
「それでは撮ります」
 スマホからシャッター音が響く。
 場所を変えながら五枚ほど写真を撮る。その間、彼は大人しく微笑んでいた。


「スマホの画面に映っているのが写真よ。コンビニの機械でプリントもできるの」
 スマホの画面に先程撮った写真を表示して、美形の外人さんに見せる。写真の腕には自信はなかったけれど、被写体が芸術品並の美しさなので、写真の技術など全く必要がなかった。
 現実感がない程の完璧な美形が画面に現れている。彼はスマホの画面を驚いたように見つめていた。
「自分、おもろい機械持ってんな。これ、ワイにそっくりやがな」
 自分って、もしかして私のことですか?
 この人に翻訳能力を与えたとの設定の神様、お願いですから標準語に再翻訳してもらえませんでしょうか?
 
「せやけど、自分の使う言葉、ようわからんわ。スマホやの、コンビニやの」
 神様は私の願いを聞いてくれなかった。
「そんなこと、気にしなくていいと思うの。それでは、さようなら」
 彼の容姿は名残惜しいけれど、これ以上話していても疲れるだけに違いない。写真も撮らしてもらったし、目的は達成した。

「ちょっと待ってや。ここがどこか教えてもらってへんけどな」
 彼に背を向けて歩き出そうとした私の背中からそんな声がした。どさくさに紛れて帰ろうと思ったけれど、彼は誤魔化されなかったみたいだ。
「違う方に訊いていただいた方がいいと思うの。私もこの辺は不慣れなものですから」
 私は顔だけ振り返ってそう告げる。家まで歩いて十分程度の、完璧に地元だけど嘘をついた。これ以上この人と係わりたくはない。
「そやかて、誰もおらへんし」
「向こうの方へ歩いていくと駅に出ます。そこには人がたくさんいますので」
 私は歩いて来た方を指差した。私の家とは逆方向なので都合がいい。

「そうか。残念やけど、あっちへ行ってみるわ」
 彼が歩き出したので、私は安心してスマホの画面を確認した。やはり彼は貴いほどに美しい。

「あかん!」
 突然電波な外人さんが後ろから抱きついてきた。
 驚いて振り向くと、大きな火の玉のような物体が迫ってきていた。
 眼の前が真っ赤に染まるようだ。
 私は急いで目を閉じる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

本命は君♡

ラティ
恋愛
主人公の琴葉。幼なじみの駿太がサークルに入っていることを知り、自分も入ることにする。そこで出会ったチャラい先輩の雅空先輩と関わるうちに、なんだか執着されて……

転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。 水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。 と、思っていたらなんか可笑しいぞ? なんか視線の先には、男性ばかり。 そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。 人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。 料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。 お、美味しいご飯が食べたい…! え、そんなことより、恋でもして子ども産め? うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

処理中です...