自称勇者のリザードマン、少女に拾われ世界を知る

おしゃべりデイジー

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約束の地へ

見つけた力

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 傷つけてしまった兵士との面会や役場から直接依頼を受ける際の段取りなど。
 ジャロウにとっては面倒な手続きを終わらせていたら、もう夕方である。
 二人はブアレの冒険者ギルドへと向かっていた。

 そんな彼らの後ろをついてくる男が一人、あの『デルガ』だ。

「ごめんなさいデルガさん、せっかく鉱山に行くんですからついでの仕事でもないかと……」
 少し申し訳なさそうにソフィアが言う。
「ふん、流れの冒険者が金欠病なのは知っている。だが本命はモグラ退治だと言うことを忘れるなよ」
「ありがたい。デルガどの」

 この男、衛兵隊長デルガは意外にもあっさり同行を承諾した……というよりはジャロウたちをあまり信用していなかったと言った方が正確だろう。

 役人ミショットは「モグラ問題はいつものように冒険者に頼めば良い」と従来通りことを進めようとしていたのだが、彼は罪人の監視役兼戦力としては自分が適任だと押し切ったのだった。

「オレは外で待ってる。早く済ませろ」

 ギルドの外にデルガを残し、二人は掲示板へと向かった。
「ジャロウさん、あの人といて大丈夫ですか?」
「ああ、むしろ有難い。あやつはおれよりも強い。あの魔法のような技、何か言葉を唱えたあとに動いたようだったが……」
 力を見て学びたい、とも一人ではソフィアを守りきれない、とも思っていた。

「あ! ありましたよ依頼。鉱茸を摘んでほしいですって」
 鉱茸、名前通りに鉱山に生えるキノコのことだ。ヨロイモグラに占拠されて町の鉱山には入れないはずだが、山周辺にも自生することから、変わらず依頼が貼り出されていたのだろう。

「ほう、摘んでいる暇があれば良いのだがな」
「わたしたちで暇をつくるんですよ。そのためのモグラ叩きです」

    *

 町は一日でも早く操業を再開したかったのか、もうすぐ夜だというのに鉱山へ向かうこととなっていた。
 「デルガどのは、あの長槍を持ってはこないのだな」
 鉱山に入る前の準備中、ジャロウは気づいた。今の彼の装備は、片手で振れるような短い槍に小さい円盾。その大きな体格に似合わないものであることを。

「あ? 穴ん中で長いもん使えるわけないだろ」
 そしてジャロウの得物を見て言葉を返す。
「もしかしてお前、それ一本しか持ってねえのか?」
 彼の持っている武器といえば長身のサーベル、だけだった。
「まずかったか?」
「ちっ……これ使え」
 ぶっきらぼうに短剣を投げ渡す。太幅の刃を持ったダガーナイフだ。

「いいかトカゲ、本来モグラは鱗の間にしか刃が通らねえ。だがお前の腕力なら腹側にも突き通すことができるかもしれん。隙があったらそいつをねじ込んでやれ」

 ソフィアはそんな彼らのやりとりを見て、少し微笑ましく思っていた。門前の兵士が「隊長は面倒見が良くて、決して悪い人ではない」と言っていたが、意外にもその通りだったからだ。


 準備もそこそこに、三人は鉱山に足を踏み入れる。
 予想外に中はうすら明るく、作業員のための照明が点いたままとなっていた。
「これ……魔鉱のランタンですよ。良いもの使ってるんですね」
「売り物にならんくずでも灯りがつくからな。ミショットのこだわりだ」
 ソフィアがそう関心していると、通路の角からずりずりと何かを引きずるような音がしてきた。
 
 デルガの表情が鋭いものに変わる。
「さっそくモグラのご登場だ。一気に行くぞ」
 しかし彼が槍を構えると同時に、ジャロウがその前に立ち塞がった。
「まっ待て! 話ができるかもしれん。役所の人間も言っていただろう、まず話してみろと」

 不服そうなデルガを尻目に、彼は音のした方へと近づく。
 覗き込むと、確かにそこにはヨロイモグラが這っていた。
 ヨロイモグラも彼の姿に気がつくと、上半身を起こし立ち上がり、二足歩行の姿となる。

(……おれよりもでかい)
 這っている際には妙に小さく見えたギャップもあり、威嚇されているようにも感じられた。

「お、おれはリザードマンのユウシャ・ジャロウ! ヨロイモグラの民よ、この度は交渉のために……」
 そう言い終わらないうちに、モグラは甲高い鳴き声をあげた。

「そいつは仲間を呼んでいる! 今すぐやれ!」
 すぐにデルガの声が聞こえてきた。仲間を呼ぶ? それは、戦うためなのか? いや、まだ会話の余地があるかもしれない――

 そんな迷いなどお構いなしに、鋭い爪がジャロウを襲った。
「ッ……なぜみな話を聞こうとせんのだ!」


 一方ソフィアたちはその場から動けずにいた。
 あの鳴き声は『仲間を呼ぶ』というより『攻撃の合図』だったのだろう。
 いつの間にか空けられた横穴から、二匹のモグラが飛び出してきたのだ。

「デルガさん! 詠唱の隙を稼いでください!」
 言われずとも、といった素早さで彼はソフィアを庇う。
 左手の小盾で器用に爪を受け流しながら、短槍で目や口元を狙う。致命傷には至らないが、堅実な戦い方だった。

「穿て。尖柱!」
 詠唱を終えたソフィアが杖の先で坑道を叩く。
 雷のような一閃が地面を走ったかと思えば、モグラの直下から尖った岩が突き出し喉元を貫いた。
「もうひとつ!」
 先ほどと同じように行使する。しかし今の一撃で学ばれたのか、後ろにステップを踏まれ避けられてしまった。

 下唇を噛むソフィア。だがデルガは仕留めきれなかったことを想定して動いていたのだろう、すでに追撃の体勢を整えていた。

 それは大きく体を捻り武器を持った腕を後方に引き絞る姿、『槍投げ』だ。
「剛……擲ぃ!」
 弦のように弾かれた体から鉄槍が撃ち出される。その一撃はヨロイモグラの体を貫くどころか、岩肌にまで突き刺さっていた。

「……すごいですね」
「あんたこそな」


 敵が動かなくなるのを見て、ジャロウのもとへ急ぐ二人。だがそこで見たものは、モグラに覆い被さられている彼の姿だった。
「ジャロウさんっ!? 大丈夫ですか!」
 
声をかけると、もぞもぞとそれが動き出す。
「あっああ……生きてるぞ」

「おい、賢いな! 奴の重さを利用するとは」
 デルガは下敷きになっているジャロウを引っ張り出す。
 モグラを見ると、胸には深々とダガーが突き刺さっていた。それは彼が覆い被さられた際に咄嗟に突き立てたものだった。

 しかしジャロウは少し不満げというか、不甲斐なさそうな顔をしていた。
「これは……まぐれなのだ。おれの力ではないのだ」
 ちらとデルガの顔を見る。
「おれにもデルガどののような力が欲しい。アレは一体、どうやっているのだ……?」

 力――『旋突』などの彼の技たちは、常人とはかけ離れたものだった。
 ジャロウは己の非力さを嘆いており、欠片ほどでも理解しておきたかったのだ。

「ああ、あれか。ありゃイメージだ」

 イメージ、随分とざっくりした物言いにジャロウは目をぱちくりさせた。
「こう、グワーッと力が入る感じがするだろ? で、オレにはできるって勢いであとは行動するだけだ」

 流石に伝わらないと思ったのか、ソフィアが横から口を出す。
「あの、魔法にも似てると思うんですけど、想像力が大事だと言うことですね」
 ざっくりとした説明なのはあまり変わらなかった。

「明確な想像と自分の力への信念、それを冷静さと発声の勢いで形作っている……と言うことではないでしょうか?」

「だー! 小難しいこと考えないで、こう、自分ができるーって思う自分のやりてえことを、やるぜ! ってタイミングで思いっきりやる!」

 両方訳がわからなかったが、少なくとも自分にも『できないわけではない』と理解できた。


    ***


 それから目標としていた鉱山の広場に着くまでは、モグラの伏兵だらけだった。

 一匹が這って通れるほどの穴を掘り、その岩壁の中に潜む彼らを見つけることは容易ではない。
 特にソフィアの消耗が激しく、目に見えて歩く速度が落ちていた。

「おい、静かにしろ。声がする」
 広場の方からは、喋り声のようなものが聞こえてきていた。
 詳細は掴めないがただの鳴き声ではなく、ハッキリとした言葉のようだ。

 間違いない。コボルトシャーマンのように喋ることができる個体もいるのだ。
「なあデルガどの。モグラにも言葉を使えるものはいるのだよな?」

「……かつては交渉できたらしいが、もうただのモンスターだ」
「まあ声は鉱夫だろう、このまま突入する。まだ生きているなら助けねばならん」

 デルガに急かされ『交渉』という甘い考えは頭の奥にしまい込まれてしまった。


 広場は労働者たちの憩いの場として作られたと言うこともあり、祈りの像やテーブルなどが置かれていた。

 中央にある演壇には、一匹の大きなヨロイモグラがうつ伏せになっている。
 その周りにやつれたオークや毛の抜けた狼人、老いたドワーフなどヒト以外の種族が集まっていたのだ。

 そんな彼らの前に、ジャロウを先頭として三人が現れる。
 妙な雰囲気だった。鉱夫であろう亜人たちは拘束されてもおらず、今の今まで談笑していたのだ。

「おお、我が同胞よ! 後ろの者は……ヒトか」
 中央のモグラが話しかけてきた。おさ、なのだろうか、ゆったりとした喋り方だ。

「ヨロイモグラの長とお見受けする。その者たちを解放して鉱山から出て行って欲しい」

 おさは一瞬目を丸くしたが、すぐに眉間に皺を寄せジャロウを睨みつける。
「ヒトに飼われた愚か者め。私こそが解放者なのだ」
 その一言を聞くと、周りの亜人たちはツルハシやスコップを構えだした。

「奴隷解放者きどりか。モンスター風情が勝手をする!」
 先に駆け出したのはデルガだった。
 しかし直後、彼の頭上からヨロイモグラが数匹降ってくる。またも伏兵だ。

「差別主義のイノシシめが。周りをよく見るがいい」
 そしてジャロウたちが入ってきた後方からも、数匹のモンスターがぞろぞろと近づいてきていた。

 見えているだけでも五匹近く、まだ広場の穴にも隠れているかもしれない。
 もはや腹を括るしかないと誰もが思った時、弱々しいソフィアの声が響いた。

「塞げ……天盤てんばん
 杖が向けられた先は、広場唯一の出入り口である後方の道だった。

 瞬間、通路の天井に大きな亀裂が入りガラガラと崩れ始めた。その岩はモンスターたちを押し潰し、敵の侵入経路を閉ざす形となっていた。

 ソフィアはそのままその場にへたり込みながら口を開く。
「あとは……広場、だけです。モグラさん、捕まえて下さいね」

 もちろん自分達の退路も塞がれてしまった訳だが『ヨロイモグラは岩壁をも食い破れる』つまりは、長を生け捕りにさえすれば助かると言うことだった。

「……メチャクチャだな」
「ああ、あやつはいつも想定外をする!」

 残るは広場内の敵だけ。数は多いが退路を失ったジャロウたちには勝つことしか見えていなかった。

 モグラが脅威となるのは『武器を通さぬ鱗』と『穴からの奇襲』だ。
 だがここまでの連戦で刃の通りやすい箇所は分かりきっていたし、一度穴から出たモグラたちはあまり恐ろしい存在とは言えなくなっていた。

 着実に数を減らしながら演壇へと近づく二人。
 だが、長に近づきすぎたことがかえって仇となった。

「おおおおいテメェら! こっ、この女がどうなってもいいのか!」

 ソフィアが、亜人たちに刃を向けられていた。
 彼らはそういうことには慣れていないのだろう、自分達さえ明らかに動揺している。だが慣れていないことというのは、やり過ぎてしまうものでもある。本当に命を奪ってしまいかねなかった。

 ジャロウははたと足を止めた。
 ソフィアとの間には距離がある。走ってどうにかなるものでもないだろう。
 ならばどうする? 武器を捨てるか? いや――

 一瞬のうちに考えを巡らせる彼は、ついさっきデルガに言われた言葉を思い出していた。
(己のできると思う、やりたいことを、最高の機会に、思いっきりやる……か)
 武器を握る手は、不思議と軽い。

 それから彼の心の臓は時が止まったかのように静かだった。
 とんでもない行動に、素早く熟慮したうえで踏み切るソフィアを見ていたからかもしれない。
 やらねば。

「『瞬地斬』!」
 声が届くよりも速く、鉱夫の武器を切り落としていた。

 彼の軌跡には、立っていられないほどの風が巻き起こる。
 気づけばジャロウの身体はソフィアの真横にまで移動しており、肩からは湯気のようなものが登り立っていた。そのまま、男たちを振り返りこう告げる。
「もう、やめておけ」

    *

 長の捕縛は拍子抜けなほど簡単にいった。彼自身が老いのため、抵抗できなかったのである。
「我が家も、もうおわりか」
 ヨロイモグラたちの亡骸に目をやりながら、長はぽつりとつぶやいた。

「長どのよ、どうしてもこの山を襲う必要があったのか? ほかに住む場所も……」
 ソフィアを背負うジャロウが聞くと、彼はふるふると頭を振った。
「古くは故郷だった場所だ。連れて帰りたいじゃないか、我が子らを」

 それから外に出るまでに『リザードマンの約束の地』に関する話も聞いてみたが、残念ながら何も得るものは無かった。
 ただ、「そんなものがあるのなら、私たちにとってはこの山の事だ」という言葉だけがジャロウの心に重たく残っていた。


「おい、トカゲ」
 技を編み出し勝利したというのに、浮かない顔をするジャロウに声をかける。
 ぶっきらぼうで乱暴な言葉使いは、デルガのものだ。

「あー物探してんならしばらく町にいるといい。あとなんか依頼受けてただろ」
「……あ」

 二人の冒険者は、しばらくブアレの町に滞在することとなった。
 ……キノコ狩りのために。
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