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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟む「癒しを」
小さくファルナが呟くと、シャオメイの手の切り傷がすうっと消えた。
「っつ」
こんな小さな傷を癒すだけで目の奥に痛みが走る。本格的に魔術を使うと目の痛みどころか激痛が走る。これさえなければお母様を癒して差し上げたいのだけど。
「お嬢様……」
心配げに目元を抑えるファルナを伺うシャオメイ。
心配するのならバトルメイドと自称して、メイド業務に支障が出るまで身体を鍛えるのはやめてほしいものだ。
「これくらいなら問題ないわ。さあ片してちょうだい。領地に戻る準備をしなければならないのだから」
「え、もう戻られるのですか?」
「今夜あたりお父様が怒鳴り込んでくると思うわ」
そういって、王宮であった出来事をファルナはシャオメイに話して聞かせるのだった。
目元を揉んでいた手をふと見る。
魔術。
魔術を操る力を魔力と呼び、この力は差はあれど誰でも持っている。
だが、魔術を操るほどの魔力を持つものはこのプリステラ王国では、いやこの世界の国々では千人に一人、いるかいないかだ。
例外がある。
スーシェン帝国だ。帝国民はみな魔力を持つ。ただ魔術として行使できるほどの力があるかどうかはべつだ。魔術を行使できる力を持つものが貴族になれるのだ。
多くの貴族を抱えるスーシェン帝国、それゆえに大陸一の国家なのである。
スーシェン帝国では魔力の強さによって階級が変わる。時に下級貴族の子が上級貴族となることも、またその逆もあるのだ。平民であっても強い魔力を持てば貴族として授爵されることもある。濃い色の髪を持つものは、高い魔力を保持する傾向にある。
上級貴族の多くが黒や濃茶、群青などの暗い色の髪を持つものが多い。
ただし四神の末裔と言われる皇族の直系のみ白金もしくは、銀色の髪を持つものが生まれることがある。
プリステラ王国の人々は明るい色の髪に鮮やかな瞳の色、白い肌を特徴とする。
だが、隣国ウーステスラ共和国から北に位置する国の人々は暗い色の髪と瞳に、ややベージュがかった肌を持つ。
スーシェン帝国から嫁いできた母メイファと、母の血を強く継いだファルナ自身も黒髪と暗い色の瞳を持っていた。
帝国からメイファについてきたロンメイの髪色は瑠璃色だ。その娘シャオメイも子供の頃は青い色だったが、成長するにつれ群青色の髪となりそれなりの魔力を持っている。しかし幼い時に帝国を出たため、その身分は平民で、魔力の正しい扱い方は帝国外では教わることができなかった。
そのためか、時々力加減をまちがえるのだ。
メイファの母は下級貴族であったが、父親は上級貴族で強い魔力の持ち主だった。メイファ自身は中級貴族としては上の、上級貴族としては下程度の力を持っていた。
だが、帝国を出る時、前華家当主は、メイファに帝国外で魔術を使うことを禁じ、制約をかけた。
〝帝国外での魔術使用禁止〟これこそが現在メイファの身体を蝕む原因となっている。
魔力は体内で増えて蓄積されていく。使うことで総量は減るが、蓄積される魔力に上限はなく、溜まりすぎた魔力は身体に異常をもたらす。
シャオメイは初歩の〝肉体強化〟で魔力を物理的な力に変換しているのだ。
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