銀狼公子の導き手

竜胆 琳

文字の大きさ
13 / 29
一部 プリステラ王国編

13 ジェメイ視点

しおりを挟む
 
 
 
 ジェメイが姉のロンメイからの手紙を受け取ったとき、スーシェン帝国南西部にある明家の治める都市スーミンの港を出て、間もなくウーステラ共和国のシェステ港に到着しようという時だった。

「お嬢とメイファ様が離縁だと! 貴族籍から除籍! なんてこった」

 言葉だけなぞれば衝撃を受け憤慨しているように思うが、その口調と表情からは喜悦が溢れている。

「フォウシュン! シェステに停泊せずこのままウノラス河を遡ってデルーナまで直行するぞ」

 舵をとるフォウシュンにそう告げ、ジェメイは手紙を書くために船室へと駆け込んだ。


 * * * * *


 ジェメイは何通かの手紙を飛ばすと、椅子に深く座りなおし一息ついた。
 ふとデルーナで自分の娘ということになっているファルの、自身の姪であるシャオメイの主であるファルナとの出会いを思い出す。
 そしてその母であるお方、先々代の華家当主であるゼオファ様に連れられ、スーミンにやってきた幼き頃のメイファ様を思い浮かべた。
 メイファ様は儚げで、おっとりとしていて亡き母君によく似ていらっしゃったが、ファルナ様はゼオファ様に似たのか、きりりとした眼差しに理知的な瞳をしておられた。色といい容姿といいウエイス侯爵に似たところは……まあないことはないか。
 だが見た目だけではなく、頭の回転の速さ、歳にそぐわぬ振る舞いや言動に驚課されたものだ。

 プリステラでは貴族は幼いうちから学校に行くらしいが、ファルナ様はウエイス侯爵の指示で学校へは行っておらず、文字や計算は姉のロンメイが教えていたという。
 商人の娘でありながら子供の頃から読み書き計算が苦手だった姉に教えられて、あのように利発に育つはずが無い。ファルナ様には四神の加護があるに違いないと思ったものだ。

 五年前、現明家当主の兄であり、スーシェン帝国海軍を指揮する将軍であるガオミン様が、血相を変えて我が家に飛び込んで来られた時は皆飛び上がっておののいたものだ。

「メイファ殿が、メイファ殿が……」

 と、要件を得ないガオミン様の代わりに、事情を説明してくださったのは、明家家宰のチンチェン様だった。
 実家から絶縁されたメイファ様が、先代華家当主にギアスをかけられ、魔力過多で倒れ命の危険に晒されているという。
 華家に代わり明家がわずかながらでもお助けしたいが、貴族が国を行き来するためには両国の王の許可がいるため、代わりに我が茗家のものにプリステラ王国に行ってほしいと頼まれた。

 まず、俺が代表でプリステラ王国へ行くことになった。
 商家の後継である俺は、新しい販路を求めウーステラからプリステラへやってきたという設定だ。
 ちょうどウーステラのシェステにはウエイス侯爵領の領都デルーナに続くウノラス河が流れていた。
 魔道船を使えばシェステからウノラス河を遡ぼってデルーナまで一日でいける。陸路を馬車で行くより何倍も速い。

 そして俺はデルーナでメイファ様の専属メイドという役職についている姉のロンメンを訪ねる風を装ってプリステラ王国にやってきたのだった。


=========================
周辺地図
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...