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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟むミシェウと店内でやり取りをしていると、ゼルが荷下ろしが住んだことを伝えにきた。
「明日、父さんがきたら一緒に家にきて。私たち明後日には出ないといけないの。詳しくはここで言えないから」
「承知しました」
「お願いね」
ファルナはシャオメイと共に馬車に乗り家に戻っていった。
領都の侯爵邸は中心部より南西に少し離れた静かな場所にあった。高さ三メートルほどの石壁で囲まれた邸の、表門をそのまま通り過ぎさらに山に近い裏門へ向かう。
表門と違い閉じられたままの裏門には番兵はいない。その裏門も通り過ぎ林に面した場所で馬車を止める。
シャオメイは石造りの城壁に手をあて「〝開門〟」とワードを唱えた。
すると石壁の一部が、ガコンとくり抜いたように後ろに下がり、ゆっくりと横に移動し、馬車が通れる穴があいた。
ファルナが馬車を中に進めると、今度はシャオメイは内側から石壁に手を当て「〝閉門〟」と唱える。
先ほどとは反対に石壁が動き、またガコンと音をさせたと思ったら、石壁は隙間などない元の形に戻る。
「出て行く前に、これ廃棄していかなきゃね」
御者台から降りると目の前にある家に向かって歩き出した。
プリステラ王国ではついぞ見かけない、朱塗りの柱の平屋の建物が裏にこしらえた人工池にその姿を映していた。
母を思いスーシェン帝国様式で建てられた屋敷はこじんまりとしていて可愛らしいが、この屋敷ともお別れだなと思い眺めていたら官女の衣装に身を包んだロンメイがこちらに向かって歩いてきた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。シャオメイ、粗相はしなかっただろうね」
「ただいま戻りました」
「母さん……帰宅一番にそれって……」
そんな言葉をかわしながら屋敷の扉をくぐると、ファルナは色変えの魔道具を外す。
「お母様の具合はどう? あまり良くないと聞いたのだけど」
「お嬢様の手紙についてお話したら、空魔石に注ぐスピードが上がりまして、今日は朝餉もしっかり召し上がられましたよ」
「よかった」
柔らかく、微笑みながら報告をするロンメイの言葉に、ファルナはほっと息をつくのだった。
そして表情を引き締める。
「ジェメイに連絡したんでしょう? 明日こちらに来ると連絡をもらったわ」
「弟が? なら船を使えますね。奥様には陸路は少々負担ではと思っていたので、よかったですわ」
そのつもりで呼びつけただろうにと、言葉には出さずにっこりと微笑み合うファルナとロンメイだった。
「これからのこと、話しておく必要があるから、湯あみのあとお母様の部屋に伺います」
「承知いたしました」
ロンメイとは別れ、ファルナはシャオメイと湯殿に向かった。
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