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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟むファルナは母親の寝室を訪れ、離縁の書類を見せた。
俯き加減で手にした書類をじっと眺めていたメイファは、寂しげな表情でファルナに書類を返す。
「あの人は……何かおっしゃっていたかしら」
「いえ、何も。三日以内に屋敷を出ることと、公爵家のものは持ち出すなとだけ」
「そう」
それっきりメイファは窓の外を眺めるのだった。
「これからロンメイと侯爵邸に行って、向こうに置きっ放しの物を取ってこようと思います」
「こちらの衣装は必要ありませんから、処分してかまいません」
「良いのですか? お母様」
「ええ、もう袖を通すことはないでしょうから」
メイファは池を眺めたままファルナに告げた。
それ以降沈黙したままのメイファを残し、ファルナはロンメイを連れ部屋を後にした。
一人っきりになったメイファはなにかを懐かしむように左手の指輪をそっと撫でる。
「侯爵様に〝似合う〟と言っていただいた衣装もありましたのに」
優しくされた記憶もある。だからこそこの異国の地で生きていこうと心に刻んだ。
あの子を亡くしてからだろうか? 徐々に冷たく突き放されるようになったのは。
「この国のものは全て置いて行きましょう」
左手の指輪をそっと外し、枕元から取り出した小さな化粧箱にしまった。
* * * * *
「お嬢様、お帰りなさいませ」
侯爵邸の表玄関から中に入ると、ちょうど通りがかった代官のフォートナムがファルナにお辞儀をした。
「もうお嬢様ではありません。連絡は来ているのでしょう?」
その言葉にフォートナムの眉間にシワがよる。
「残念でなりません。ファルナ様なら良い執政者におなりでしょうに」
「縁が無かったのでしょう。ゆっくり話をしている時間はないの。家宰のジレットを呼んでいただけるかしら」
フォートナムは後ろに控えていたメイドに合図を送ると、控えていたのかすぐにジレットが現れた。
「御用でしょうか」
ファルナはロンメイから書類を受け取ってジレットに見せた。
「これはお母様が嫁いで来られた時の私物の目録書です。侯爵家への贈答および持参品は抜いてあります。ウエイス侯爵様より侯爵家のものは持ち出し禁止と言われましたが、このリストにある品はお母様個人の所有物なので返していただきたいの」
ファルナはにっこり微笑みながらジレットにリストを渡した。
すでに半分以上の品が、メイファ本人の許可なく持ち出されたり、売られたりしていることは何方も承知の上だ。
特に宝飾品などは愛人の手に渡っている。
「そ、それは……」
返すことなどできないものをどうすればいいのか、主人からはその場合の指示はもらっておらず、ジレットは返答に詰まった。
「ジレット、お返しするべきものをすぐにそろえなさい」
「フォートナム様……」
代官の言葉にジレットは冷や汗が吹き出すのを感じた。
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