銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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一部 プリステラ王国編

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 フォートナムはウエイス侯爵本人が領地に帰ってこなくなった三年前に、領主邸に居を移すよう侯爵から指示を受けた。確かに代官として采配を振るうには都合がよかった。
 だがフォートナムより先に、二人は敷地の端に離れを建て移り住んだ。
 メイファの死産以降、ギクシャクしていた侯爵夫婦の関係を知っており、自分は侯爵とメイファとの関係修復のための橋渡し役になれるのではと、少なからず進言苦言を呈した。全く役に立たなかったが。
 メイファの個人資産、特に宝飾品についても、何度か意見したので承知している。すでにこの屋敷にないことも。

「フォートナム様、この品々は……」
「ふむ、侯爵家家宰ともあろうものが、管理不行き届きで紛失してしまったと。困りましたね。では相応の金額で保証して差し上げるべきでしょう。侯爵家の管理不足なのですから。ではファルナ嬢、私の執務室にお越しいただけますか」

 思わぬところから、この場合は助け手といっていいのだろうフォートナムの言葉に、最初は戸惑ったもののファルナはにっこり微笑んでフォートナムの後についていった。
 ロンメイは話し合いの間に残されたままの荷を整理するため、家宰とともに屋敷の奥に行った。

 執務室で目録書をみながら話し合った結果、愛人のもとにある宝飾品、侯爵が持ち出した魔道具などは適正価格で買い取られることとなった。
 屋敷に置きっ放しになっているメイファのドレスは、どれも五年以上前に作られたもので、それは侯爵家の服飾費から購入されたものだ。
 だから侯爵家のものとして所有を放棄する。

「どれも流行遅れのものですから、そちらで処分してくださいな」

 白金貨を二人で数えながらファルナはフォートナムに告げた。
 公爵家の私的資産用の金庫の鍵を締めながらフォートナムはファルナの顔をみる。

「離れの館はどうされるのですか?」
「ああ、あれは残しておけば侯爵様とに目障りでしょう。スーシェン様式の家などお二方にとってなんの価値もございませんでしょうから。後日プラムブル商会のものを寄越し、解体しますわ。元の林に戻すことはできませんけど、が欲しがられておられた庭園を作るには更地の方がいいでしょう」

 フォートナムは〝侯爵様、奥方様〟と呼ぶファルナの表情を見るが、全くといって痛痒を感じさせない。
 目の前の少女にとってすでに父親は〝他人〟と認識されていることがよくわかった。

「そうですか、私は趣があって良いと思いますが。彼の国を訪れたのは……もう随分前ですがプリステラとは全く違う様式に驚きました」
「私はまだ一度もことがないので楽しみですわ。フォートナム様、お時間を撮らせて申し訳ありませんでした」

 ファルナは立ち上がり、綺麗な淑女の仕草で挨拶をする。

「いえ、これも領地と邸を任された代官の仕事です」

 フォートナムはドアをあけファルナを通すと、その背を見送った。

「あのお方が後をついでくだされば、この領地もさらに発展できたでしょうに。ミラーナ嬢に良い婿が見つかればいいのですが」

 誰もいなくなった執務室でフォートナムの大きな溜息は誰にも聞かれることなく、吐き出された。
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