銀狼公子の導き手

竜胆 琳

文字の大きさ
19 / 29
一部 プリステラ王国編

19

しおりを挟む
 
 
「出港!」

 舵をとるフォウシュンの号令で錨が巻き上げられると、船はゆっくりゆっくりノス川を下リ始めた。 
 エッダルに向かって川を下るため帆がなくても船は進む。今の時間、向かい風がて吹いており帆は帰って邪魔になる。
 魔道具船であるため帆以外の推進力はあるが、メイファの負担にならないようしばらくは船速を抑える予定だ。

 港で出国手続きをするときに一悶着があった。
 領主夫人と令嬢が船で国を出るなどと言う知らせは受けていないと、港の出入国管理官に止められたのだ。
 シャオメイはファルナから預かった二枚の離縁と貴族席除籍の書類を管理官に見せた。

「わたくしたち、平民ですの。ですから出国になんの手続きも必要ありませんわ」

 ファルナがにっこりそう言うと、信じられないとあんぐりと口を開け固まったままの管理官の手から書類を取り返した。
 プリステラ王国では貴族が入出国する場合、人と荷の重さにより税がかかるが、平民の場合は入国のときにしかかからない。
 ファルナたちは馬車や力車に生活用品を積み込んでいる。貴族のままであったらかなりの税がかかったのだ。
 しかし貴族席を除籍されているので平民として国を出るので無税である。
 

 ファルナはゆっくりと遠ざかっていくルーナの街並みを眺める。
 出国手続きで手間取り予定より遅れてしまった。船長のフォウシュンが言うにはエッダル港に着く頃には日が沈んでいるだろうとのことだ。
 メイファの体調優先なので大丈夫そうなら速度をあげる予定だ。

「お嬢様、風が冷たいのでお身体に差し障ります」

 シャオメイがショールをファルナの肩にかけた。
 季節は秋、まだ冬の寒さは訪れないが、水気を含んだ川風は少し冷たい。 

「スーシェンはもう冬なのよね」
「暦の上ではそうですね。こちらよりはもう少し寒いと思います」

 三日月大陸を二分する天龍ティェンロン山脈の北と南では季節が若干異なる。
 山脈より北にあるスーシェン帝国とは使っている暦も違うのだが、向こうでは季節は冬に入りこれから寒くなる。
 スーシェンでは一年が16ヶ月、春夏秋冬それぞれ4ヶ月で新年は春から始まる。
 ウーステラやプリステラなど、山脈から北は一年は12ヶ月で冬の中頃に新年を迎える。
 一月の長さが違うこともあり、年明けはほぼ同じ日になる。

「スーシェン帝国はもっと寒くて雪も降ってるんでしょう?」
「雪の季節はもう少し先ですね。特にスーミンは帝都に比べ雪は遅いのでまだ先のことですよ」
「なんだ、雪だるまを作れるかと思ったのに」

 プリステラ王国の北にあるデルーナは一年を通して暖かく、冬でも雪は滅多に降らず、ましてや積もることなどない。
 シャオメイは珍しく子供らしい主人の言葉に微笑むのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...