銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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一部 プリステラ王国編

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「ファルナ」

 名を呼ばれて振り返るとメイファがロンメイに付き添われて甲板に出てきたところだった。

「お母様、ここはは風が冷たいですわ。お身体に触ります」

 少し揺れた船にメイファが身体を揺らした。素早くファルナはロンメイの反対側から母親の身体を支える。

「大丈夫よ、これくらい。ロンメイもファルナも心配性すぎます」

 顔色は青白いが、あまり見ない母親の笑顔に、ファルナはすぐに船室に連れ戻すのをやめた。
 ゆっくりと船縁まで歩き、船尾の方を覗きこむ。

「……15年前は、とても不安な気持ちで近づくデルーナの街を見ていたの」

 輿入れの時はメイファを王都に送り届けたスーシェンの者は式をまたず帰国したため、デルーナにはウエイス侯爵に連れられて馬車での移動だった。
 街についた時は民に歓迎され宴も開かれたが、今は見送るものは事情を知るミシェウのみ。

「15年も住んでいたのにここが家だった感じがあまりしないわね」

 メイファにとって家は華州の本家邸ではなく、父母と過ごした明州州都スーミンにあった別荘だ。

「家はどうなったのかしら」
「華家の別邸は現華家当主ザイファどのが4年前に売りに出されました。そこから何度か持ち主が代わりましたが、ようやく買い戻すことができました」

 ジェメイがいつの間にか近くにきており、メイファの呟きに答えを返す。

「俺じゃなく、ガオミン様がですがね」
「まあ。ガオミン様が? あそこはお父様とお母様の思い出が詰まった場所なのだけど、ガオミン様やチァンミン様もよくお越しくださったの」

 メイファは離れていくデルーナの街ではなく、心の目にスーミンの家を映しているのか懐かしそうに目を細めた。

 メイファたちは華家とは縁を切られているので、華州ではなく、明州に移り住む予定だ。
 華州州都に在る華家の本宅にメイファはあまり良い思いではない。幼い頃両親と時折過ごしたスーミンでの日々の方が楽しかったのだ。

 先々代華家当主メイファの父が別荘として建てた館は庭に池のある屋敷だ。
 現華家当主は他領の館など不要、維持費が勿体無いと代替わり後、即売りに出したのだ。
 そこはメイファの母親の実家でもあったのだが。
 もともとはメイファの母親イーメイの生家であるメイ家の所有する土地をゼオファが購入した。
 梅家はすでに継ぐものはおらず、スーシェン帝国の貴族家としては絶えている。ロンメイたちは分家の分家、すでに貴族ではない遠い親戚に当たるメイ家のものだ。

 メイファにとっては15年、ファルナにとっては13年、いや生まれてすぐの記憶はないので13年分の思いはない。
 だが、うあれてからずっと過ごした場所を離れると言うのに、郷愁の思いは湧かなかった。



1章プリステラ王国編(プロローグ)終了です。2章開始までしばらくお待ちください。
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