銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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二部 

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 もうすぐ、スーシェン帝国の領海に入る。
 これでやっと母親がギアスの苦しみから解放される。自分も痛みに邪魔されず魔術を使えるようになる。
 そう思うとファルナは岬を通過するのが待ち遠しくて仕方がなかった。

「通過しますよ」

 フォウシュンの声が聞こえた途端、何かが頭の中に響いてきた。

「え?」

 戸惑う間も無く、ドン!!と何かが勢いよくファルナにのしかかってきた。


 ────カエリ……イト ゴ────
 ────マッテ タ……ノムスメ────
 ────……キノヒト……────
 ────……カ モノ……ミチ────

 次々と頭の中に響く言葉は、まるで頭の中に岩を詰め込まれる様な、痛みと重みを持っている。

「う、あ……」

 ────……マナコヲ────
 ────ヒト ニ────
 ────……メニ、ウ……────
 ────ソ ボウ……────

 ファルナは息をすることもできず、うずくまるが、さらに目の奥に激痛が走り倒れこむ。

 ────ギン コ……────
 ────……ツガイ────
 ────ミ ビキ……────
 ────……ケシ ノ────

 さらに頭の中をかき回す様な激痛に耐えられず、ファルナは意識を手放した。


 * * * * *


 意識を取り戻したファルナは、あまりの眩しさに目を開けられず、思わず腕で目を覆う。
 そうすると少しましになったが、それでも目を焼く様な光に目の奥がズキズキと痛んだ。

(……目を閉じているのに……? 腕で顔を覆っているのに眩しいのはなぜ?)

 自分の状況がわからず戸惑っていると、すぐ近くから声がかけられた。

「お嬢様、気がつかれましたか」

 シャオメイの声だと、すぐにわかった。ガタンと音がしたのは座っていた椅子から立ち上がったからだろうか。
 白い光の中でやや青みがかった光が移動した。それはなんとなく人の影の形に似ていた。

「ここどこ、眩しくて目が開けられない」
「え?」

 戸惑うシャオメイの声に、何かおかしなことを言ったのかと訝しむ。

「ファルナ、気が付いたのですか?」

 母親の声がした方に頭を動かすも、やはり眩しくて腕を外すことができなかった。

「お母様? なんだかおかしいのです。こうして目を塞いでいるのに眩しくて」

 なんとなくではあるが、そこに色味の微妙に違う白い影が三つあることを感じた。

「基本の治療術ですが使ってみましょう。ファルナ、そのまま寝ていなさい」

 額に暖かな手が触れた。メイファのだろうその暖かい手が、メイファが癒しの呪文を唱えた途端、さらに輝きを増した。

「っ!」
「お嬢様?」

 思わず眩しさに顔を背けてしまったファルナに、シャオメイが心配げに声をかけた。メイファの手はずれたものの癒し術は問題なく発動した。

「久しぶりに使った術だけれど、おかしなところはないはず。ファルナ、何を感じたの?」

 母親の問いにファルナは素直に答えた。

「お母様が呪文を唱えた途端、手の輝きが増してとても眩しかったんです」
「それは……」

 娘の言葉にメイファは少し考え込んだ。


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