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二部
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ファルナは、手巾を片手で押さえたまま身体を起こした。起き上がったことで広げられた手巾がペロンと半分に折れた。
「あ、もっと楽になったわ」
遮魔布が二重になったことでさらに眩しさが軽減されたようだ。
「ロンメイ、あの寝衣は持ってきているかしら」
「確か……馬車の方の衣装箱に」
「持ってきてもらえる」
「承知しました」
メイファはロンメイに遮魔布の寝衣を取りに行かせた。
多くの荷物はミシェウが後から送ってくれることになっているので、持ってきているのは旅に必要な分だけだ。
さらに船の中では数着を着まわしているため、多くは馬車に積んだままとなっている。
「シャオメイ、ジェメイに荷に遮魔布がないか聞いてもらえる? あれば天蓋のようにベッド周りを囲めば楽になると思うから」
「はい、行ってきます」
シャオメイが部屋を出て行った後、メイファはベッドに腰をおろし、ファルナの顔にかけた手巾を目隠しのようにして後頭部で結ぶ。
「ああ、お母様。これなら眩しくないです」
「でもこのままじゃ、外に出ることもできないわ」
「なんとなくものの形や人の形はわかります。お母様がここにいらっしゃることもちゃんと感じます」
そう言いながらファルナはメイファに抱きつく。
長くこのような触れ合いもなかった二人はしばらくお互いを抱きしめあった。
「あなたには子供らしい時間を送らせてあげられなくて申し訳ないと思っています。義兄様はどうしてわたくしにこのような制約をおかけになったのかしら」
ファルナの髪を撫でながら呟くように長年の疑問を言葉にした。
「叔父様にお会いしたことはありませんけど、できればもう少し長生きしていただきたかったです」
現華家当主は、メイファとファルナに対し良い感情を持っていない。
メイファからすれば恨みを買う覚えはなく、ましてや顔を合わせたこともほとんどない甥だ。
父はメイファの母とメイファを華家一族とあまり関わらせようとしなかった。
そこに何か理由があったのかもしれないが、メイファの両親はどちらもすでに亡く、理由を知ることは難しく思う。
船室の扉がノックされ、入室許可を出すとジェメイが黒い巻き布を持ってやってきた。
「シャオメイから聞いたのですが、遮魔布は無くて断魔布ならちょうど一巻きありました」
ジェメイが持ってきた布は断魔布で、断魔布より魔力を通さない布だった。
魔力がこもった魔石を包み、魔力が漏れないようにする為の布だ。
「あまり大きくないから頭側に吊り下げるようにすれば、眠りやすいのではないですか?」
部屋にロープを張って頭元だけおおうテントのように断魔布を吊り下げた。
「これで眠ることはできるけど、船室でこもりっぱなしになってしまうのかしら」
悩んでいるとロンメイが寝衣を持って戻ってきた。
「あ、もっと楽になったわ」
遮魔布が二重になったことでさらに眩しさが軽減されたようだ。
「ロンメイ、あの寝衣は持ってきているかしら」
「確か……馬車の方の衣装箱に」
「持ってきてもらえる」
「承知しました」
メイファはロンメイに遮魔布の寝衣を取りに行かせた。
多くの荷物はミシェウが後から送ってくれることになっているので、持ってきているのは旅に必要な分だけだ。
さらに船の中では数着を着まわしているため、多くは馬車に積んだままとなっている。
「シャオメイ、ジェメイに荷に遮魔布がないか聞いてもらえる? あれば天蓋のようにベッド周りを囲めば楽になると思うから」
「はい、行ってきます」
シャオメイが部屋を出て行った後、メイファはベッドに腰をおろし、ファルナの顔にかけた手巾を目隠しのようにして後頭部で結ぶ。
「ああ、お母様。これなら眩しくないです」
「でもこのままじゃ、外に出ることもできないわ」
「なんとなくものの形や人の形はわかります。お母様がここにいらっしゃることもちゃんと感じます」
そう言いながらファルナはメイファに抱きつく。
長くこのような触れ合いもなかった二人はしばらくお互いを抱きしめあった。
「あなたには子供らしい時間を送らせてあげられなくて申し訳ないと思っています。義兄様はどうしてわたくしにこのような制約をおかけになったのかしら」
ファルナの髪を撫でながら呟くように長年の疑問を言葉にした。
「叔父様にお会いしたことはありませんけど、できればもう少し長生きしていただきたかったです」
現華家当主は、メイファとファルナに対し良い感情を持っていない。
メイファからすれば恨みを買う覚えはなく、ましてや顔を合わせたこともほとんどない甥だ。
父はメイファの母とメイファを華家一族とあまり関わらせようとしなかった。
そこに何か理由があったのかもしれないが、メイファの両親はどちらもすでに亡く、理由を知ることは難しく思う。
船室の扉がノックされ、入室許可を出すとジェメイが黒い巻き布を持ってやってきた。
「シャオメイから聞いたのですが、遮魔布は無くて断魔布ならちょうど一巻きありました」
ジェメイが持ってきた布は断魔布で、断魔布より魔力を通さない布だった。
魔力がこもった魔石を包み、魔力が漏れないようにする為の布だ。
「あまり大きくないから頭側に吊り下げるようにすれば、眠りやすいのではないですか?」
部屋にロープを張って頭元だけおおうテントのように断魔布を吊り下げた。
「これで眠ることはできるけど、船室でこもりっぱなしになってしまうのかしら」
悩んでいるとロンメイが寝衣を持って戻ってきた。
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