銀狼公子の導き手

竜胆 琳

文字の大きさ
26 / 29
二部 

しおりを挟む
 ファルナは、手巾を片手で押さえたまま身体を起こした。起き上がったことで広げられた手巾がペロンと半分に折れた。

「あ、もっと楽になったわ」

 遮魔布が二重になったことでさらに眩しさが軽減されたようだ。

「ロンメイ、あの寝衣は持ってきているかしら」
「確か……馬車の方の衣装箱に」
「持ってきてもらえる」
「承知しました」

 メイファはロンメイに遮魔布の寝衣を取りに行かせた。

 多くの荷物はミシェウが後から送ってくれることになっているので、持ってきているのは旅に必要な分だけだ。
 さらに船の中では数着を着まわしているため、多くは馬車に積んだままとなっている。

「シャオメイ、ジェメイに荷に遮魔布がないか聞いてもらえる? あれば天蓋のようにベッド周りを囲めば楽になると思うから」
「はい、行ってきます」

 シャオメイが部屋を出て行った後、メイファはベッドに腰をおろし、ファルナの顔にかけた手巾を目隠しのようにして後頭部で結ぶ。

「ああ、お母様。これなら眩しくないです」
「でもこのままじゃ、外に出ることもできないわ」
「なんとなくものの形や人の形はわかります。お母様がここにいらっしゃることもちゃんと感じます」

 そう言いながらファルナはメイファに抱きつく。
 長くこのような触れ合いもなかった二人はしばらくお互いを抱きしめあった。

「あなたには子供らしい時間を送らせてあげられなくて申し訳ないと思っています。義兄様はどうしてわたくしにこのような制約ギアスをおかけになったのかしら」

 ファルナの髪を撫でながら呟くように長年の疑問を言葉にした。

「叔父様にお会いしたことはありませんけど、できればもう少し長生きしていただきたかったです」

 現華家当主は、メイファとファルナに対し良い感情を持っていない。
 メイファからすれば恨みを買う覚えはなく、ましてや顔を合わせたこともほとんどない甥だ。
 父はメイファの母とメイファを華家一族とあまり関わらせようとしなかった。
 そこに何か理由があったのかもしれないが、メイファの両親はどちらもすでに亡く、理由を知ることは難しく思う。

 船室の扉がノックされ、入室許可を出すとジェメイが黒い巻き布を持ってやってきた。

「シャオメイから聞いたのですが、遮魔布は無くて断魔布ならちょうど一巻きありました」

 ジェメイが持ってきた布は断魔布で、断魔布より魔力を通さない布だった。
 魔力がこもった魔石を包み、魔力が漏れないようにする為の布だ。

「あまり大きくないから頭側に吊り下げるようにすれば、眠りやすいのではないですか?」

 部屋にロープを張って頭元だけおおうテントのように断魔布を吊り下げた。

「これで眠ることはできるけど、船室でこもりっぱなしになってしまうのかしら」

 悩んでいるとロンメイが寝衣を持って戻ってきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...