水の庭にて

遠海

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第1章

シャワー室にて

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 狭い関係者通路を抜けて、今は誰もいないシャワー室に入る。積み重なっているバスタオルを1枚抜き取って、真ん中のシャワーブースのカーテンを開けた。渚は昔から表彰台の真ん中ばかり追っていたせいか、並んでいると何となく真ん中を選んでしまう。もう競うことなどないのに、長年の習慣というものは不思議だ。
 水着を脱ぎ捨てて、ザーッと、勢いよく温水が出るシャワーを頭から思い切り被る。手先からピリピリと冷えていた体が温まり、大きく息を吐いた。備え付けの石鹸などもあるが、どうせこの後水に浸かる予定だ。体だけ温めることにし、5分ほどでシャワーを止めた。バスタオルを肩から被る。家の洗剤とは違う匂いが体を包む。少し毛羽だった生地は強く擦ると痛い。上半身を乱雑に拭いたところで、着替えを持ち込むのを忘れていたことを思い出した。しょうがなく、バスタオルで下半身を巻きシャワーブースを出た。

 タイミングとは、得てして重なり合うもので。渚がシャワーブースを出た瞬間、シャワー室の扉が開かれた。入ってきた人物は誰かがいると思っていなかったのだろう、シャワーブースの方を見て、大きく体をビクつかせた。
「――っと!びっくりした……」
 大型犬っぽいな、というのがそいつへの第一印象だった。
 恐らく俺より数センチ高いであろう身長。年齢は同じくらいだろうか。フワフワとした髪質の黒髪に、驚いた表情で大きく開いた目はくっきりとした二重で茶色っぽい。深い彫りに整えられた眉毛は男らしく、がっしりとした体つきに合っていた。
「悪い、始業時間前だから誰もいないと思ってた。えっと、瀬名だろ?」
「確かに俺は瀬名だけど……」
まずい、コイツに覚えがない。割と人の顔は覚えれるタイプなのだが。
「……はは!そんな顔すんなよ、俺が一方的に知ってるだけだから」
 どうやら俺の気まずい気持ちがあまりにも顔に出ていたようで、向こうからフォローが入った。有難いことだが、その気安さに眉を顰めた。しかし、そんな俺にお構いなしにそいつは話を続ける。
「俺、中条なかじょう 俊希としき。入社時期、一緒なんだよ。つまり同期」
 違和感なく差し出された手を、無視するわけにはいかなかった。ぎゅ、と力強く握られた手は思っていたより冷たかった。いや、俺が温もったからなのか。
「瀬名 渚。お前に覚えがない、ごめん。えーっと、営業?」
「いや、社会教育。まだ入社してからお前のとこと関わったことないんだ」
「そうなのか。またお世話になると思う、よろしく」
「こちらこそ。ちょうど挨拶に行こうと思ってたんだ」
「挨拶?」
「次の企画、俺はお前のとことだからさ」
 にっこりと伝えられた言葉に、顔が引き攣った。
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