水の庭にて

遠海

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第1章

行き先

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 海風を全身で浴びる。温めてない身体には少し寒い。オッサンから借りた自転車は少し錆びついていて、ペダルを漕ぐたびに金属が擦れる音がして五月蝿い。だからなるべく一漕ぎに力を入れて、タイヤを回した。
 土手から見える海は朝日を反射してキラキラと輝いている。晴れていなかった気持ちが少しだけ、マシになるような気がしなくもない。いや、しないか。
「クソ野郎が」
 ボソリ、と爽やかな風の中に毒を吐く。

 大して長く付き合ってた訳ではない。1年ほど前に、飲み屋で声を掛けられて、意気投合した。相手が男もイケると言うから、身体の関係も含めての付き合いが始まったのだ。
 地元の人間ではないことはすぐ分かった。焼けてない肌に、砂浜に慣れてなさそうな足どりが可笑しかった。本人も遠方勤務中でいつまでこの地域にいるか分からない、と。そもそも何の仕事をしてたっけ。忘れてしまった。ただ都合が良く、楽しくそばにいてくれて、気を使われないことが心地良かっただけ。
 もしかしたら、ある意味潮時だったのかもしれない。この街から女を連れて、アイツは都会へ帰るのだろう。俺は、きっとこの街から離れられない。

 真っ白なコンクリートの塊でできた建物が見えた。来館者駐車場を抜けて、職員専用道路と書かれた看板を横目に坂道を上る。立ち上がってペダルを漕げば、何とか降りずに小さな駐車場にたどり着いた。そこは広く見積もって8台ほどの車が停めれるスペースで、今はまだ2台しか停まっていない。端の方に大きなバイクと自転車が数台寄せてある。そこに並ぶように自転車を停めた。
 排気口がすぐそばにあるのか、少し生臭い。しかし慣れた匂いではあるため、自転車を移動させるほどでもなかった。鍵を閉めて、ポケットに突っ込んだ。前籠から鞄を取り出して肩に引っ掛ける。
 先にシャワーを浴びたい。足は自然とシャワー室に真っ先に向かっていた。
 ふと、思い出す。アイツの魚を使わない料理は美味しかったな、なんて。
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