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第1章
苦手なもの
しおりを挟む「植松さん、どうして急にコンペを全員参加させることにしたんですか?」
植松さんはこの水族館の館長である。初めて会った時は驚いたものだ。こんなに厳つい人間がこんな夢のような空間で働いているのか、と。しかし、偏屈な漁師や癖の強い研究者と、和気藹々と渡り合うその人格には誰もが恐れ入るのだ。この人以外、ここで館長ができる人物はいない。そんな人が、『コンペは任意参加』という暗黙のルールを打ち破り、誰にも周知していなかった新たな試みをするのは珍しい。
「今期は社会教育課の人材が潤沢なんだ、夏休みに向けて子供達へ学びの場を設けたい。今は夏休み前で繁忙期でもないし、時間的にも余裕はある。『新人』にも経験させるには丁度良いタイミングだった」
「……『新人』の俺にも気を遣っていただけて光栄です」
『社会教育課』は、主に水族館においての教育全般を任されている。水族館にやってくる子供たち、大人たちに向けて。水族館で働くスタッフに向けて。水族館で研究をするための研究者に向けて。水族館に関しての教育にこの課は不可欠なのだ。
「そう苦手意識を持つな。展示に選ばれたらボーナスも出る」
「仕事も発生するじゃないですか……。しかも、子供相手」
「お前な……」
苦々しく呟いた俺に呆れたような植松さんの声が聞こえた。分かってる、目に入れても痛くないほど可愛がってる3人の娘を持つ植松さんにはわからないのだ。その内の一人で俺と同い年の女は、今日も事務室で電卓を叩いているんだろう。
子供は苦手だ。思い付きもしない行動を取るし、顔に水が掛かっただけで泣く。あの予想できない動きが理解不能で、なるべく関わりたくなかった。こんなところで働いているのに何を、と良く言われる。だがそれはそれ、これはこれ、なのだ。それに、これについてはクラゲ担当の吉川も同意してくれる。まあアイツに至っては『研究さえできれば他はノイズ』とでも言うのだろうが。
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