水の庭にて

遠海

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第1章

協調性とは

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 植松さんが眉を下げて、苦笑する。
「そんな不安そうな顔をするな。大水槽担当には中条が付くだろう、きっとリードしてくれる」
「いや、俺全然知らないんすよ、その中条のこと」
「何?だが中条は、」
「知ってますって、同期なんでしょ。さっき自己紹介はしましたもん」
 先ほど本人から伝えられたばかりの話だ。植松さんは俺が社交的ではなく、一人を好むことを知っている。数少ない同期を知らないことはもう諦めて欲しい。
「……あー、まぁそうだな。同期だな」
「何で知らないんだろ、少ない同期の顔くらい覚えてるつもりだったんすけどね」

 教育課と顔を合わせることは滅多にない。きっと時間を経て忘れてしまったのだろう。ウンウンと唸る俺の頭を軽く撫でて、植松さんは立ち上がった。
「まぁ良いじゃないか、その数少ない同期と交流を深める良い機会だ。お前はもう少し協調性を持て」
「俺ほど協調性あるやついないでしょ」
「馬鹿野郎、同年代ともだよ。お前は親父どもばかりにモテる」
「嬉しくねぇ……」
 本当に嬉しくない。だが、恐らく俺が漁師連中とそれなりにやってるから出た言葉だろう。

 水族館の生き物の集める方法はいくつかある。自分たちで採取する、業者から買う、ほかの園館から譲ってもらう、繁殖のために借りる、地元でしか取れない生き物の交換会に参加する、そして漁師に譲ってもらう。俺は顔見知りの漁師が何人かいて、何度か珍しい魚を融通してもらったことがある。そのせいか植松さんは漁師連中と会う時は頻繁に俺を連れて行く。一人でも問題ないくせに、抜け目ない人だ。
 そんな親父にばかりモテて同年代との交流が少ない俺を、喝を入れつつ心配してくれていることくらい誰でもわかる。不器用な優しさに何だかむず痒い気持ちになって、下手くそに笑って誤魔化した。

 片眉だけ器用に上げた植松さんは、その誤魔化しを受け入れてくれたようだった。柔らかな視線だけ向けた後、俺に背を向けて歩き出す。向かう先は分かっている。植松さんは開館時間になると必ず入場口で立つ。そして誰よりも真っ先に客を迎えるのだ。
 たまには館長孝行しても良いかもな、なんて気持ちでその大きな背中を追い掛けた。
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