水の庭にて

遠海

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第1章

水槽、中と外

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 水槽前のスタッフ用の扉と、大水槽の上部へ繋がっている階段の隙間に置かれたロッカーを開ける。3つ並んだその中身は、それぞれドライスーツと掃除用品とその他、といった様相だ。その他に関して、好き勝手に入れる犯人はもう分かりきってる。渚の諸先輩方だ。渚よりも此処で年月を過ごしてきたせいか、あちこちに巣を作る特性があるのだ。崩れ落ちてこなかっただけ、今日はマシだと思い、諦めて見て見ぬふりをした。一番左のロッカーを開け、中に引っ掛けてあったドライスーツをハンガーごと手に取る。そばにあったパイプ椅子を広げて、その上に放り投げた。自分が着ていた長袖のジャンパーを脱ぎ、黒のインナーだけになる。
 ……流石に目線が気になってきた。此処まで黙ってついてきた中条を振り返る。中条は物珍しそうに積み重ねられた資料を手に取ったり、誰が置いてったのかわからない謎の石を手に持ったりしていた。
「おい。俺、潜って掃除するけど」
「じゃあ俺、外から水槽見るよ。汚れてたら指差すから、来てくれないか?」
「……わかった」
 出会ったばかりのコイツに指示されるのは何となく癪だが、効率としては悪くない。外から見れば中から気づかない汚れもあるだろうし。手を振って中条は出ていった。本当に、何がしたいのか。はあ、と溜め息を吐いて、水槽に潜る準備を再開した。

 ボンベを付けてザブン、と潜る。初めて潜った時、驚いたのは生き物の多さにだった。少し足で体を押し出すだけで、生き物にぶつかりそうになるのだ。だが水槽の住人たちは迷惑そうな雰囲気で俺のことを避けてくれるのだった。
 水槽の中から外を見ると、ひらひらと中条が手を振ったのがわかる。スポンジを持って水槽のガラスに近付いた。距離が縮まるにつれ、鮮明になっていく中条の顔。そこには、眩しいものを見るような、今にも泣き出しそうな、何とも言えない顔で水槽を眺める中条がいた。
 コツン、とガラスを叩いてみると、人差し指を立て足元を指される。確かに水草に紛れて苔がくっついていた。もう一度中条を見る。しかし、先ほどの顔は幻だったのかというほど整った顔をキョトンとさせて、チラチラと中条をみる俺を不思議そうに見ていた。
 ――水で歪んで見えただけなのかもしれない。
 気を取り直して、水草に絡まってたズワイガニを持ち上げて海底に放った。
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