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第1章
回遊魚のように
しおりを挟む中条と二人でうろうろしているのには理由がある。それは飼育課大水槽担当の先輩たちにコンペのメイン企画者にされてしまったからだ。館長の『新人やうちで展示をやったことない人間をメインに企画を考えてくれ』という言葉を大義名分にした先輩方は、教育課の人間を一人確保できたことで仕事を終えた気持ちでいて、大水槽担当代表として俺と中条がコンペの大元を考えることになってしまったのだ。それを聞いた俺は先輩に直談判しに行こうとしたが、まあまあと穏やかなこの男に宥められて渋々了承したのだった。決して困った顔で眉を下げたこいつの顔に絆されたわけではない。だがコンペについては了承したものの、普段の仕事もとなると負担が大きすぎるということで、先輩に仕事を複数押し付けている。仕事が好きで、趣味も仕事だと公言してる先輩もいる変な課だ。恐らく喜んでた人もいたから許されるだろう。
そうして、のんびり大水槽エリアにやってきた俺たちは、何を言うことも無く、ぼんやりと示し合わせたかのように三人掛けのソファに座った。拳2つ分ほどの距離を空けて、なんとなく、隣に気配を感じている。
水音に、換気扇の音、時折聞こえる人の声をBGMにして、会話のない時間が過ぎていく。水族館の大水槽には、何らかの魔法がかかっていると思う。人を無心にするとか、眺めているだけで時間があっという間に過ぎ去っていく、みたいな。ぼうっとジンベイザメやマダラトゲエイが優雅に泳いでいるのを目で追う。あ、イワシとぶつかってる。大きな魚は小さな魚とぶつかると、鰭で怪我をすることもあるのだ。後で確認しなければ。
ふと、意識を隣に向けると、ジッとこちらを見つめる視線に気付いた。何か言いたいことでもあるのか、と首を傾げて促してみる。
「……瀬名は何で水族館で働こうと思ったんだ?」
「何だ急に」
「いや、何となく。コミュニケーションじゃん」
「……さぁ?"何となく"だよ。お前は?」
「えぇー?恥ずかしいんだけどなぁ」
何だこの気持ち悪い生き物。少し顔を赤らめて、口を尖らせて、もじもじする大男は存外気持ち悪い。見たくなくて、手のひらで額を叩いた。勿論中条の額を、だ。
「え!?痛い!?なんで!?」
「気持ち悪いからもじもじするな」
「猫パンチ……」
「拳がお望みか?」
手を握りしめて拳を見せてみる。間に合ってまーす、と首を横に振る姿に面白くて、真顔が続かなかった。変なやつ。クスクスと笑いが堪えられなくて、何笑ってんだよ、と言われながら笑い声で音にならない返事をした。
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