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神薙
神と人間
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もう昼近くになる。
客は一人として来ない。
いつもの事だが。
「そろそろ昼飯の時間だよな。一旦店閉めて...今日は喜八のとこの漬物にするか」
背もたれもない椅子から体を起こして、少しばかりの小銭を握って、家の中にいる零に「少し出かけてくる」と一言伝え、町へ向かった。
街へ向かうには少しばかり歩かなければならない不便さで、その不便さも相俟って古びた古書店に客も来ないわけだ。
町へ伸びるゆるやかな坂道は、思うより疲れるものだ。
また、森の中を通っているため、落ち葉やらで足元もまた良くない。
ただ、生い茂る木々の間から出る木漏れ日が温かい。
風が冷たい昨日とは違って、今日はとても温かく、いい日だった。
そのあたりの芝生で昼寝でもしたらさぞ気持ちいい事だろう。
雀も枝に止まっては、小さな嘴で鳴いている。
和やかな日を過ごせることは、とても嬉しいことだった。
ただ、
寝てしまいそうなほどな気持ちいい日だからこそ、逆に不安な気持ちが僕を襲った。
少し歩いて、町の入り口が見えてきた。
入り口の物見役の二人に軽くお辞儀をして門をくぐると、先ほどの静けさとは逆に、賑やかな声が聞こえてきた。
町は活気にあふれていた。
新鮮な魚や野菜、豆腐屋に食堂、米屋に馬借屋など、沢山の店が並んでいた。
行き来する人の数は多く、所々で立ち話をしている人もいた。立っていると邪魔になるので、目的の漬物屋まで足を進めた。
本通りを曲がってすぐのところにある漬物屋の「喜八」は、町でも人気の漬物屋だ。
零も自分も、ここの漬物は気に入っていた。
少し楽しみにしている自分もいた。
だからこそ、店を見た時のショックは大きかった。
店の戸は閉まっていて、客の一人も見当たらなかった。
どうしたものかと店の入り口で立ち尽くしていたところ、近くの女性が声をかけてきた。
「お兄さんここの漬物を買いにきたんですか?お店は休みらしいですよ。なんせ亭主さんの奥さんが亡くなったそうで」
抱いていた疑問を聞いてもいないのに全て教えてくれた。
黙ったままも悪いので、こちらも言葉を返す
「そうでしたか、ここの漬物は私も好きなので、楽しみにしていたんですけどね、少し残念です」
「そうよねぇ、ここの漬物おいしいものね。私もこの前会に来た時、がっかりしちゃったわ」
「この前って...前からずっと休みなんですか?」
「ええそうよ、たしか、向かいの奥さんの話だと...ここ一週間はお店を閉めているらしいわ」
どうやら僕が来た時だけたまたま休みだった訳ではないようだった。長く店を休む理由はなんだろうと、素朴な疑問もあったが、これ以上問いただしても悪く思われそうなので、あえて聞かなかった。
「そうですか...また、しばらくしてから来てみます。色々とありがとうございました」
「いぃえぇ~、ごきげんよう」
町の人たちは人と接するのに慣れている。
握ったままの小銭を見て、僕は一言漏らした
「また豆腐でいいか」
二食連続で、豆腐となった。
豆腐を片手に家へ帰った。
玄関で靴を脱ぎ居間に上がる。
零は日向で寝ていた。
「昼飯にするから起きろ。こたつの上の本片付けろよ」
「んぁ...はーい」
片目だけ開けて零から返ってきた返事は、とても眠たそうだった。
口ごもった言い方でイマイチ聞き取りづらい。
台所で買ってきた豆腐を袋から出した。
普通なら鍋などを持って買いに行くのだが、元々豆腐を買う予定ではなかったので持ってはいなかったのだが、豆腐屋の女将がそれじゃあ可愛そうと、袋をくれたのだ。
皿に出して、醤油や野菜やらを戸から出して豆腐と一緒に持っていった。
あとで米を炊こうと、釜に薪を入れて火をつけておいた。
豆腐と醤油、野菜を持って今に行ったが、まだ机の上は散らかっていた。
「片付けろって言っただろ」
「ごめんごめん、今やるから」
そう言い、目をこすりながら本を床へ置き始めた。
「ほらよ」
片付いたこたつの上に豆腐やらを置くと、渋い顔をされたが、こちらが「なんだよ」と言うような顔で見ていたので、敢えて口には出さないようだった。
「いただきまーす」
「いただきます」
豆腐と野菜だけの質素な食事だが、これもまた悪くない。
「豆腐、おいしいね」
「そうだな」
普通の人と何変わらぬ食事をとっていた、このままいつも通りな食事が終わるはずだった。
ふと外を見た時だった
轟音と共に家の中に大きな物体が投げ込まれてきた。
二人は慌てて立ち上がり、身を投げるようにして避けた。
家の柱をくの字型に折り曲げたその物体は、なんと木の丸太だった。
差ほど大きくはないが、ゆうに自分と同じくらい、いや、それ以上はあると思える大きさだった。
丸太が飛んできた方向を見るが、使徒はいつもと変わらぬ林の中で、逆にそれが恐怖心を煽った。
「一旦町に降りよう、ここは危険だ、何があるかわからないが離れよう」
「うん」
しがみつくように体を寄せていた零は、とても怯えていた。
恐ろしいその場から逃げるように、店を置いて出て行った。
「......いつつ...かぜ...」
急ぎ足で町に降りた。
入り口まで来たが、いつもは居る門番がいなかった。
空きっぱなしの門の奥は、さっきとはまた別の騒がしさがひしめいていた。
町へ入った途端、男の人に声をかけられた、見たことある顔だった。
「宗太郎!よかった、無事でよかった」
「相楽さん!」
声をかけてきたのは、父が店をやっている頃の、僕がまだ子供の頃からの知り合いの、相楽 修(そうらく おさむ)という、うちの常連客であり、父が気の許す、友人だった人物である。
久しぶりに会ったので、つい名前を呼んでしまった。
「宗太郎の所は、なにも起きなかったのか?」
まるでさっきまで一緒にいたかのような質問だった。
「と、言いますと、僕だけではないんですか?」
質問の答えにはなっていないが、町に何が起きているのかを知りたくて、つい聞き返してしまった。
「実はな、町で神様の祟りが起きてるんだとよ。って言うんで、今さっき神社の人達やらがお祈りを始めたんだとよ」
「神の...祟りですか」
聞きなれない言葉を聞いて、少し戸惑った。
自分の所で起きたことも祟りと言うなら、少し納得がいかなかった。
「相楽さんの方こそ大丈夫だったんですか?」
「俺っちぁ、別になんも起きてねえけどよ、隣の家が火事だってんで、大騒ぎだったよ」
このように、祟りを受け、町は混乱しているようだった。
いつもとは違う騒がしさの正体はこれだったのだ。
「そうですか...」
すると、相楽さんに男の人が走り寄ってきて、声をかけた
「修!うちの周りでまた火事でぇ!悪いが人手が足りねぇ。手伝ってくれ!」
「わかった!またな、宗太郎!お前を気をつけろよ!」
そう言って二人で町の奥へと走っていった。
「畜生...えらいことになってるな」
何をすればいいのかわからず、ただただ道の隅で立っているだけだった。
あちこちで火事が起きているらしく、煙が上がっていた。
僕が坂から見下ろした時には煙ひとつ立っていなかったのに、だ。
ふと、「火事」という言葉を思い出した時、一つのことが頭をよぎった。
「釜の...火!」
はっと振り向き、さっき降りてきた坂の上を見る。
そこからは、煙が立ち昇っていた。
「零!ここで待ってろ!」
慌てて走り出した。
「あっ!宗太郎!」
急に隣からいなくなった僕をと喚び返す声が聞こえたが、僕は構わず、町を出た。
息も切れて、足も棒にようになりながら家に帰ると、家の裏手から火が出ていた。
「畜生...!」
庭の井戸から水を汲み、水の入った桶を持って家の裏に行った。
だが、火は相当に広がっており、とても消せないとわかってしまった。
「親父の店を...燃やす訳にはいかねぇ...!」
消せないとわかっていたが、桶の水をまいた。
火の中で激しい音を立てたが、火は止まる気配が全くなかった。
振り返って井戸で水を汲み、もう一度火にかける。
火はなんの変わりもなく、ますます広がっていった。
ただただ、見ているだけしかできなかった。
「親父...ごめん...」
諦めかけて下を向いた時だった。
「がっ!」
風邪を切る音と共に、強い衝撃で体を引き飛ばされた。
体が宙を舞い、やがて地面に背中から叩きつけられた。
身体中が痛い。
何が起こったのかわからなかった。
「ぐっ...あ...」
激しい痛みに襲われ、地面で悶えていた。
すると、飛ばされた方向から声が聞こえた。
「五風...」
そこには、黒々とした肌に、赤い目をした人が居た。
たが、それは人ではなかった。
衣を纏い、周りには玉が浮いている。
その手には剣が握られており、その姿は邪気で溢れていた。
言うなればそれは
神の祟りであった。
なぜ自分の名前を知っていて、自分を襲うのかわからなかったが、ここで死ぬのは確かだと思った。
腹を抱えながら立ち上がり、禍々しい神の方を向いた。
神もまた、赤黒い眼でこちらを見ていた。
禍々しい神は、手をこちらに向けてきた。
向けられた手から、禍々しい気を感じた。
ここで、死ぬ。
「ここで...終わりかよ...」
手のひらから発せられたそれは、こちらに向かって風を切りながら飛んできた。
なぜかそれが、とても遅く見えた。
死に際の追憶というやつだろうか。
まだ、やることが沢山あった。
まだ、死のうとは思わなかった。
だが、もう遅い。
体を貫くのは、もうすぐのことだった。
「零...親父...」
死を覚悟したその時だった。
目の前に光の柱が生まれ、それは禍々しい気をは払った。
僕は驚き、頭を上げる。
そこには、神々しい衣を纏った女の人が浮いていた。
彼女もまた、人ではなかった。
客は一人として来ない。
いつもの事だが。
「そろそろ昼飯の時間だよな。一旦店閉めて...今日は喜八のとこの漬物にするか」
背もたれもない椅子から体を起こして、少しばかりの小銭を握って、家の中にいる零に「少し出かけてくる」と一言伝え、町へ向かった。
街へ向かうには少しばかり歩かなければならない不便さで、その不便さも相俟って古びた古書店に客も来ないわけだ。
町へ伸びるゆるやかな坂道は、思うより疲れるものだ。
また、森の中を通っているため、落ち葉やらで足元もまた良くない。
ただ、生い茂る木々の間から出る木漏れ日が温かい。
風が冷たい昨日とは違って、今日はとても温かく、いい日だった。
そのあたりの芝生で昼寝でもしたらさぞ気持ちいい事だろう。
雀も枝に止まっては、小さな嘴で鳴いている。
和やかな日を過ごせることは、とても嬉しいことだった。
ただ、
寝てしまいそうなほどな気持ちいい日だからこそ、逆に不安な気持ちが僕を襲った。
少し歩いて、町の入り口が見えてきた。
入り口の物見役の二人に軽くお辞儀をして門をくぐると、先ほどの静けさとは逆に、賑やかな声が聞こえてきた。
町は活気にあふれていた。
新鮮な魚や野菜、豆腐屋に食堂、米屋に馬借屋など、沢山の店が並んでいた。
行き来する人の数は多く、所々で立ち話をしている人もいた。立っていると邪魔になるので、目的の漬物屋まで足を進めた。
本通りを曲がってすぐのところにある漬物屋の「喜八」は、町でも人気の漬物屋だ。
零も自分も、ここの漬物は気に入っていた。
少し楽しみにしている自分もいた。
だからこそ、店を見た時のショックは大きかった。
店の戸は閉まっていて、客の一人も見当たらなかった。
どうしたものかと店の入り口で立ち尽くしていたところ、近くの女性が声をかけてきた。
「お兄さんここの漬物を買いにきたんですか?お店は休みらしいですよ。なんせ亭主さんの奥さんが亡くなったそうで」
抱いていた疑問を聞いてもいないのに全て教えてくれた。
黙ったままも悪いので、こちらも言葉を返す
「そうでしたか、ここの漬物は私も好きなので、楽しみにしていたんですけどね、少し残念です」
「そうよねぇ、ここの漬物おいしいものね。私もこの前会に来た時、がっかりしちゃったわ」
「この前って...前からずっと休みなんですか?」
「ええそうよ、たしか、向かいの奥さんの話だと...ここ一週間はお店を閉めているらしいわ」
どうやら僕が来た時だけたまたま休みだった訳ではないようだった。長く店を休む理由はなんだろうと、素朴な疑問もあったが、これ以上問いただしても悪く思われそうなので、あえて聞かなかった。
「そうですか...また、しばらくしてから来てみます。色々とありがとうございました」
「いぃえぇ~、ごきげんよう」
町の人たちは人と接するのに慣れている。
握ったままの小銭を見て、僕は一言漏らした
「また豆腐でいいか」
二食連続で、豆腐となった。
豆腐を片手に家へ帰った。
玄関で靴を脱ぎ居間に上がる。
零は日向で寝ていた。
「昼飯にするから起きろ。こたつの上の本片付けろよ」
「んぁ...はーい」
片目だけ開けて零から返ってきた返事は、とても眠たそうだった。
口ごもった言い方でイマイチ聞き取りづらい。
台所で買ってきた豆腐を袋から出した。
普通なら鍋などを持って買いに行くのだが、元々豆腐を買う予定ではなかったので持ってはいなかったのだが、豆腐屋の女将がそれじゃあ可愛そうと、袋をくれたのだ。
皿に出して、醤油や野菜やらを戸から出して豆腐と一緒に持っていった。
あとで米を炊こうと、釜に薪を入れて火をつけておいた。
豆腐と醤油、野菜を持って今に行ったが、まだ机の上は散らかっていた。
「片付けろって言っただろ」
「ごめんごめん、今やるから」
そう言い、目をこすりながら本を床へ置き始めた。
「ほらよ」
片付いたこたつの上に豆腐やらを置くと、渋い顔をされたが、こちらが「なんだよ」と言うような顔で見ていたので、敢えて口には出さないようだった。
「いただきまーす」
「いただきます」
豆腐と野菜だけの質素な食事だが、これもまた悪くない。
「豆腐、おいしいね」
「そうだな」
普通の人と何変わらぬ食事をとっていた、このままいつも通りな食事が終わるはずだった。
ふと外を見た時だった
轟音と共に家の中に大きな物体が投げ込まれてきた。
二人は慌てて立ち上がり、身を投げるようにして避けた。
家の柱をくの字型に折り曲げたその物体は、なんと木の丸太だった。
差ほど大きくはないが、ゆうに自分と同じくらい、いや、それ以上はあると思える大きさだった。
丸太が飛んできた方向を見るが、使徒はいつもと変わらぬ林の中で、逆にそれが恐怖心を煽った。
「一旦町に降りよう、ここは危険だ、何があるかわからないが離れよう」
「うん」
しがみつくように体を寄せていた零は、とても怯えていた。
恐ろしいその場から逃げるように、店を置いて出て行った。
「......いつつ...かぜ...」
急ぎ足で町に降りた。
入り口まで来たが、いつもは居る門番がいなかった。
空きっぱなしの門の奥は、さっきとはまた別の騒がしさがひしめいていた。
町へ入った途端、男の人に声をかけられた、見たことある顔だった。
「宗太郎!よかった、無事でよかった」
「相楽さん!」
声をかけてきたのは、父が店をやっている頃の、僕がまだ子供の頃からの知り合いの、相楽 修(そうらく おさむ)という、うちの常連客であり、父が気の許す、友人だった人物である。
久しぶりに会ったので、つい名前を呼んでしまった。
「宗太郎の所は、なにも起きなかったのか?」
まるでさっきまで一緒にいたかのような質問だった。
「と、言いますと、僕だけではないんですか?」
質問の答えにはなっていないが、町に何が起きているのかを知りたくて、つい聞き返してしまった。
「実はな、町で神様の祟りが起きてるんだとよ。って言うんで、今さっき神社の人達やらがお祈りを始めたんだとよ」
「神の...祟りですか」
聞きなれない言葉を聞いて、少し戸惑った。
自分の所で起きたことも祟りと言うなら、少し納得がいかなかった。
「相楽さんの方こそ大丈夫だったんですか?」
「俺っちぁ、別になんも起きてねえけどよ、隣の家が火事だってんで、大騒ぎだったよ」
このように、祟りを受け、町は混乱しているようだった。
いつもとは違う騒がしさの正体はこれだったのだ。
「そうですか...」
すると、相楽さんに男の人が走り寄ってきて、声をかけた
「修!うちの周りでまた火事でぇ!悪いが人手が足りねぇ。手伝ってくれ!」
「わかった!またな、宗太郎!お前を気をつけろよ!」
そう言って二人で町の奥へと走っていった。
「畜生...えらいことになってるな」
何をすればいいのかわからず、ただただ道の隅で立っているだけだった。
あちこちで火事が起きているらしく、煙が上がっていた。
僕が坂から見下ろした時には煙ひとつ立っていなかったのに、だ。
ふと、「火事」という言葉を思い出した時、一つのことが頭をよぎった。
「釜の...火!」
はっと振り向き、さっき降りてきた坂の上を見る。
そこからは、煙が立ち昇っていた。
「零!ここで待ってろ!」
慌てて走り出した。
「あっ!宗太郎!」
急に隣からいなくなった僕をと喚び返す声が聞こえたが、僕は構わず、町を出た。
息も切れて、足も棒にようになりながら家に帰ると、家の裏手から火が出ていた。
「畜生...!」
庭の井戸から水を汲み、水の入った桶を持って家の裏に行った。
だが、火は相当に広がっており、とても消せないとわかってしまった。
「親父の店を...燃やす訳にはいかねぇ...!」
消せないとわかっていたが、桶の水をまいた。
火の中で激しい音を立てたが、火は止まる気配が全くなかった。
振り返って井戸で水を汲み、もう一度火にかける。
火はなんの変わりもなく、ますます広がっていった。
ただただ、見ているだけしかできなかった。
「親父...ごめん...」
諦めかけて下を向いた時だった。
「がっ!」
風邪を切る音と共に、強い衝撃で体を引き飛ばされた。
体が宙を舞い、やがて地面に背中から叩きつけられた。
身体中が痛い。
何が起こったのかわからなかった。
「ぐっ...あ...」
激しい痛みに襲われ、地面で悶えていた。
すると、飛ばされた方向から声が聞こえた。
「五風...」
そこには、黒々とした肌に、赤い目をした人が居た。
たが、それは人ではなかった。
衣を纏い、周りには玉が浮いている。
その手には剣が握られており、その姿は邪気で溢れていた。
言うなればそれは
神の祟りであった。
なぜ自分の名前を知っていて、自分を襲うのかわからなかったが、ここで死ぬのは確かだと思った。
腹を抱えながら立ち上がり、禍々しい神の方を向いた。
神もまた、赤黒い眼でこちらを見ていた。
禍々しい神は、手をこちらに向けてきた。
向けられた手から、禍々しい気を感じた。
ここで、死ぬ。
「ここで...終わりかよ...」
手のひらから発せられたそれは、こちらに向かって風を切りながら飛んできた。
なぜかそれが、とても遅く見えた。
死に際の追憶というやつだろうか。
まだ、やることが沢山あった。
まだ、死のうとは思わなかった。
だが、もう遅い。
体を貫くのは、もうすぐのことだった。
「零...親父...」
死を覚悟したその時だった。
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