現代雅部〜高校生活はいとをかし!〜

佐藤香

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紫苑と更

部活見学2

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 雅部の部室は、思ったよりも片付いてはいなかった。 
 教室の半分にも満たないくらいの狭いスペースに、机が五つ向かい合うようにしてくっつけてある。それぞれの机には、ノートパソコンが一台ずつ置いてある。先輩方の私物だろう。
 扉のないロッカーには先輩方の荷物がギュウギュウと押し込んであった。
 ロッカー横のスペースは漫画が溢れた本棚やら、マイクスタンドやら、裸のマネキンやら、パーティーグッズやらがごちゃごちゃと置いてある。
 本当に、何やってるんだろうここ……。
 真ん中とその横の机に、紫苑先輩と和泉先輩がそれぞれ座っている。僕が来たことに二人とも驚いている様子だった。
「い、いらっしゃい……」
「お前……何連れてきてんだよ」
 表情は窺い知れないが、紫苑先輩は怒気を含んだ声で清原先輩に話しかける。
「だって、興味あるって!」
「お前らが廃部の話とかするからだろ!」
「違うって!」
「ちっ……。おい、一年」
「ひゃいっ!」
 いきなり自分に声をかけられて、変な返事になってしまう。いや、だって普通に怖いよこの人。
「こいつに何言われたか知らないけど、気を遣われても困るし、他のとこ行け」
「……気を遣って来たわけじゃありません」
 僕がそう返すと、紫苑先輩はため息をつく。
「だいたい、お前何の活動する気なんだよ」
「それは……」
 先輩方は、ネット上を活動の場としていること以外バラバラの活動をしている。
 僕はただのオタクで、ネットに発表するような特技はない。
「……お前、なんか好きなことあんの」
「え? えーと、漫画読むのとアニメを見るのが好きです」
 突然の質問に戸惑いつつもそう答える。
「あ、俺たちもみんなアニメとか好きだよ~」
 和泉先輩が嬉しそうに言った。
「あはは、意外そうな顔してる。俺、見た目チャラいからオタクとか嫌いそうって言われちゃうんだよねぇ」
 和泉先輩がからからと笑う。気弱そうに見えたけど、存外明るく話す人だ。
「ごめん、俺たち名前言ってなかったね。俺は大江和泉。よろしくお願いします」
 和泉先輩がぺこり、と頭を下げる。それに倣って、僕もお辞儀をした。
「仁科更です。よろしくお願いします」
 そういえば、お互いきちんと自己紹介をしていなかった。
 それを見て、清原先輩が「はいはい!」と手を挙げる。
「俺は清原諾左! 動画配信やってます!」
 清原先輩は「清少納言」というハンドルネームで実験動画やレビュー動画を配信しているそうだ。
 特に、レビュー動画はわかりやすくてわりと評判なのだそう。最新のお菓子やおもちゃはもちろん、何故かコスメまでレビューしていた。
「実験動画は理科の先生とかに聞いて、許可とったりしてやってるんだけどさ、先生も暇じゃないから顧問でもない部活にあんま時間割けないんだよな」
 それで、必然的にレビュー動画の方に重心が傾いているのだ。
「化粧品とかは赤音の意見も参考にしてるんだ」
 清原先輩は、そう言って染谷先輩を指差す。
 そういえば、壇上でも化粧がどうとか言っていた。
「俺は染谷赤音。赤染って名前でコスプレイヤーしてるんだ」
 そうして、スマホの画面を見せてくれる。画面の中には、人気アニメのヒロインがいた。
 そう、ヒロインである。
「えっ? これ……? え?」
「うん、それ俺」
 画面の中にいるのはピンク色のツインテールに、ふりふりの衣装を着た可愛い女の子だ。
 僕の目の前にいるのは、短髪がよく似合う男らしい爽やかなイケメンだ。
 僕は混乱して、画面と目の前の顔を見比べる。
「メイクと画像加工で何にでもなれる。それがコスプレだよ」
 目の前のイケメンは、とてもいい笑顔で僕の肩に手を置いた。
 コスプレってすごい……。
「よーし! じゃあ紫苑でラストだな!」
 清原先輩が、いつのまにか少し離れたところに行ってしまっていた紫苑先輩の肩を引き寄せる。
「鬱陶しい」
「紫苑冷たい~」
 紫苑先輩は、清原先輩を引き剥がすと、ポツリと呟く。
「藤原紫苑。雅部部長」
 それきり、またそっぽを向いてしまう。
 ていうか、部長……? 部長って、清原先輩かと思った。
 今日も壇上で話していたのは清原先輩だ。
「こいつ目立つの嫌がるから、副部長の俺が前に出るようにしてるんだよ」
 意外そうな僕に気がついたのか、清原先輩が説明してくれる。
「ていうか、紫苑。お前それだけって! 他に言うことあるだろ!」
 清原先輩がそう言っても、紫苑先輩はこちらを向こうともしない。
「……部外者に教えてやることでもない」
 頑なな紫苑先輩の様子に、清原先輩はやれやれと首を振る。
「ごめんな、こいつめちゃくちゃ人見知りでさ。友達なくすからもっと言い方考えろって言ってるんだけど」
「余計なお世話だ」
 清原先輩の言葉に、すぐ怒気を含んだ声が飛んできた。
「……この調子でさ」
 清原先輩は小声で付け足す。
 正直、人見知りで片付けていいんだろうかって感じだ。
 兎にも角にも、これで活動と部員については知ることができたということになる。
 しかし、僕には一つ気になることがあった。
「仮に入部したとして、僕は何をしたらいいんでしょう……」
 先輩方の活動はあまりにもバラバラだ。というか、ほぼ個人活動で、部活動の形を取ってる理由もよくわからない。
 加えて、僕は漫画やアニメを見る専門だ。それ以外の活動は全くしていない。
 ネットでやることといえば、新作の感想をツイッターで呟くくらいだ。
 先輩方も「うーん」と唸っていた。後輩指導となると個人プレーとは勝手が違う。
「特にやること決まってないなら、俺たちの活動を体験してもらって、それから入部を考えてもいいと思う」
 和泉先輩の提案に、清原先輩も染谷先輩も頷く。
「そうだな! あ、でも、別に更の動画載せたりはしないから、安心してな」
「俺も、いきなりイベントはハードル高いだろうし、部室で着てみるくらいでいいから」
 新しいことに挑戦したいという目的だけで部活探しをしていた僕には、たくさんのことにチャレンジできる機会はありがたかった。
「よろしくお願いします!」
 僕が頭を下げると、三人は嬉しそうに笑う。
 僕らは口々に「よろしく」と言い合って、握手を交わした。
 紫苑先輩だけが何も言わずに、離れた場所でただ僕らを眺めている。
 その時、開いた窓から風が吹き込んできた。
 突然の来訪者は、桜の花びらを手土産に部屋を通り過ぎていく。
 それは、紫苑先輩の長ったらしい前髪を攫い、初めて彼と目が合った。
 長いまつ毛に、切れ長の目。その中にあるガラス玉のような黒々とした瞳。
「ひ、ヒカルくん!?」
 そこにいたのは、今朝僕を遅刻から救ってくれた「ヒカルくん」だった。
「ひかるくん?」
「あ、いえ! 何でもないです!」
 清原先輩が首を傾げるので、僕は慌てて誤魔化す。
「あの、今朝はありがとうございました」
 僕が頭を下げると、紫苑先輩は「別に」と短く返事をした。
 清原先輩が不思議そうに尋ねてくる。
「何? 知り合いだったの?」
「今朝、登校中に道に迷ってしまって……。紫苑先輩が案内してくださったんです」
「ゴフッ」
 突然、噎せたような咳払いの音がした。
 そちらを振り向けば、真顔の紫苑先輩と目が合う。
「ただの花粉症だ。気にするな」
「はぁ……お大事に……?」
 そんなやりとりをしていると、清原先輩が「ねー」と声を掛けてくる。
「俺のことも名前で呼んでよ。諾左って」
「は、はい。えっと、諾左先輩……?」
 突然の申し出に戸惑いながらも、名前を呼べば、清原……改め諾左先輩は、嬉しそうに僕に抱きついた。
 急なスキンシップについドキッとしてしまう。
「仲良しっぽくて良いな! よろしく、更♡」
 甘えるような声色で、耳元で名前を呼ばれて、顔が熱くなる。
 これが都会っ子の距離感なのかな?
 慣れるまでに苦労しそうだ。
「あはは、真っ赤だ。可愛いな~」
 諾左先輩は僕の頭をわしわしと撫でている。
 されるがままになっていると、紫苑先輩が諾左先輩を僕から引き剥がした。
「人前でベタベタするな鬱陶しい」
 首根っこを掴まれた猫のような姿勢で、諾左先輩は抗議の声をあげる。
「なんだよー。後輩可愛がってるだけだろー」
「ともすればセクハラだぞ」
「でも、お前好きじゃん。こういう……」
 諾左先輩が言い終わらないうちに、紫苑先輩の頭突きが炸裂する。
「それ以上喋ったら舌を引っこ抜く」
 その言葉は、額を押さえて悶絶している諾左先輩にはもはや届いていないだろう。
「おい、一年」
「ひょえっ」
 不意に声を掛けられて、思わず額を手で隠してしまう。
「お前、今日はもう帰れ」
「え?」
「やることも決まってない人間がこのままいても何もならないだろ」
 突っぱねるような言い方に、少しだけムッとする。
「でも……」
「体験だって、今日突然やれるものじゃないんだ。そもそも人が来ると思ってなかったから、誰も準備してない」
「えっ、じゃあ入部……」
「言っとくが、仮入部だ。俺はまだお前を正式な部員として認めない」
 紫苑先輩の言葉に、和泉先輩と赤音先輩はやれやれと肩を竦める。
 一貫して素っ気ない先輩の態度に、僕はむしろ燃えてきた。
「僕、頑張りますね」
「ふん」
 この頑なな先輩に、絶対入部を認めさせてやりたい。
 そして、願わくば、自分のやりたいことがここで見つけられるように。
 僕の決意を、再びやって来た春風が空へ運んでいった。
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