現代雅部〜高校生活はいとをかし!〜

佐藤香

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紫苑と更

訪問者※紫苑視点

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「暇~~」
 放課後。大和高校の学生たちは、ほとんどが部活に勤しむ時間だ。
 そんな中、机に伏して文句を垂れる男が一人。
 清原諾左である。
「お前が俺の原稿無視して好き勝手やるからだろうが」
 俺が真面目に考えてやった部活紹介の原稿を、この男は「長い」の一言であっさりとゴミにしてしまった。
 おかげで、無茶振りされた和泉が歌ったり、赤音が何故かバク宙したりする訳の分からない部活紹介となった。
 余談だが、和泉は新入生にファンを増やし、既に多数のファンレターが送られてきている。
 平穏な学園生活からまた一歩遠のいた本人は「なんでぇ……」とあまり嬉しそうではない。
 そして、周りの部活が多くの見学者を相手にしているのをBGMに、我々現代雅部は暇を持て余している。
「よし! 次に部室棟に来た人間を捕まえる!」
「誘拐じゃねえか」
「勧誘だ!」
 哀れな新入生が出ないことを祈りながらも、俺は裏庭に植えられた桜を眺めていた。
 不意に風が吹いて、桜の花弁が舞う。
 そのうちの一つを何となく目で追いかけていると、ぽとり、と誰かの頭に着地した。
「あ……」
 柔らかそうな栗毛に、アンバランスな大きい眼鏡。
 今朝出会った新入生だ。
「来たな! 未来の新入部員が!」
「あっ、諾左!」
 赤音の制止も聞かず、諾左は廊下へと飛び出していった。
 まずい。あいつの勢いじゃ新入生を吹っ飛ばしかねん。
 俺は先回りするべく窓を越えて外に出た。
「ちょっ、紫苑!?」
 和泉の声は既に遠い。残された二人がバタバタと廊下に向かうのが横目に見えた。
「うわわわっ!」
 新入生から悲鳴が聞こえるのと同時に、俺は彼を和泉の元へ突き飛ばした。
「わっ」
 和泉は驚きつつも、新入生を抱きとめる。
「ナイスキャッチ」
「ぐえっ」
 こちらも諾左を無事にキャッチした。
 右腕から蛙が潰れたような声がしたが、気のせいだろう。
 これは、そのまま赤音に託す。
「諾左、大丈夫か?」
「内臓割れてない?」
「いや、見えない」
 漫才のような会話を尻目に、俺は新入生から距離を取った。
 人間観察の基本は、壁と同化することと見たり。
 会話に加わらずにいれる距離感で、不自然に離れない。
 しかし、雅部の連中は俺のこだわりを丸っきり無視して話題に入れてくる。
「紫苑が間に合わなかったらどうしてたんだよ」
 おい赤音、俺を呼ぶな。巻き込むな。
 振り返った新入生と目が合う。顔が良い。
 思わず見惚れていると、彼はこちらに向かってきた。
「ありがとうございました」
「別に」
 駄目だ。これ以上見てたら可愛さで死ぬ。
 俺は窓の外を見て気持ちを落ち着ける。
 ちょうど筋トレ部がスクワットをしているところだ。
 一、二、三……と回数を数えていると、諾左が駄々を捏ねている声が聞こえた。
「廃部になんてさせるもんか~!」
 不穏な単語に新入生が戸惑いの声をあげる。
「あ、あの……。廃部って……?」
「俺たち、問題行動が多いって生徒会に目をつけられててさ。今学期で新入部員入らなかったら廃部になることになってんだ」
 赤音の答えに新入生の顔が曇る。
 人の良さそうな彼は、恐らくこの話に心が揺れているのだろう。
 他に目当ての部活もあるだろうに。
「四人は部活として認められるギリギリの人数だし、本来なら俺たちが三年になった時の新入部員で廃部の是非が問われるんだが……」
「おい、赤音」
 思わず、赤音の声を遮った。
「部外者にべらべら喋るな」
 俺は部室に踵を返す。
 他の部員が呼び立てる声が聞こえるが、無視した。
 これ以上新入生を引き留めるのも悪い。
 そう思ったのに。

 和泉と俺が待つ部室に戻ってきたのは、三人だった。
「お前……何連れてきてんだよ」
 諾左は悪びれる様子もなく、にこにこしている。
 こいつ……。
「おい、一年」
「ひゃいっ!」
 緊張しているのか、新入生は大袈裟に反応する。
 その反応も可愛いが、俺は努めて真顔を保つ。
 他の部活だって時間が決まっている。ここに長居させるわけにはいかない。
「こいつに何言われたか知らないけど、気を遣われても困るし、他のとこ行け」
「……気を遣って来たわけじゃありません」
 少しムッとした態度も可愛いな?
 目の前に推しがいる状況で平静を保つのは至難の技だ。
 俺は深呼吸で気を落ち着かせる。
「だいたい、お前何の活動する気なんだよ」
 俺たちはほぼ個人活動だ。
 俺が部活を立ち上げたのも、気兼ねなく原稿を描ける場が欲しかった為である。
 真面目な父には、漫画家であることを隠しているため、自室で原稿を描くのはかなり神経を使うのだ。
 漫画、しかもボーイズラブで、全年齢本用に工夫しているとはいえ、濡れ場を描くこともある。
 万が一父にバレたら、間違いなく辞めさせられる。
 この面子を集めたのは、ネットという共通の場で活動していたからと、俺が漫画を描いていることを知っていたからだ。
 修羅場の時は原稿を手伝わせているが、それ以外は各々好きなことをしている。
 新入生が目的もなく入ったところで、何ができるというわけでもない。
「……お前、なんか好きなことあんの」
「え? えーと、漫画読むのとアニメを見るのが好きです」
 新入生の答えに、和泉が嬉しそうに返す。
「俺たちもみんなアニメとか好きだよ~」
 ネット世界にどっぷり浸かっている我々は、みんなオタクだった。
「あ、そうだ」
 和泉がふと声を上げる。
「ごめん、俺たち名前言ってなかったね」
 それから、お互いに自己紹介をすることとなった。
「藤原紫苑。雅部部長」
 俺はそれだけ言うと、それ以上会話が広がらないようにする。
 いくら漫画好きとはいえ、BLを嗜む男子は少ない。
 迂闊にカミングアウトして引かれたら立ち直れないだろう。
 新入生……仁科更は、とりあえず色々な活動を体験してみるということになった。
「よろしくお願いします!」
 仁科は元気よく頭を下げる。
 顔を上げた瞬間、開け放したままだった窓から風が吹き込んだ。
 春風は俺の伸ばしすぎた前髪を取っ払い、視界が広がった。
 眩しさに思わず目を細める。
 風に運ばれた花弁が、俺と仁科の間に落ちた。
 仁科は俺を見ていた。
 また、目が合う。
「ひ、ヒカルくん!?」
「ひかるくん?」
 部員たちには馴染みがありすぎる名前に、諾左が思わず聞き返した。
「あ、いえ! 何でもないです!」
 仁科はそのまま俺の方に近づいて、頭を下げた。
「今朝はありがとうございました」
「別に」
 そういえば、朝は前髪を上げっぱなしだったのだ。
 やっと顔が見えて、俺のことに気がついたのだろう。
「何? 知り合いだったの?」
 諾左が興味津々の様子で仁科に尋ねる。
「今朝、登校中に道に迷ってしまって……。紫苑先輩が案内してくださったんです」
「ゴフッ」
 不意に名前を呼ばれて、動揺のあまり噴き出してしまった。
 仁科が不審な目を向けてくるので、慌てて言い訳をする。
「ただの花粉症だ」
 苦しすぎる言い訳に、和泉が噴き出すのが見えた。
「はぁ……お大事に……?」
 仁科も深くは突っ込まないが、あまり納得しているように見えなかった。
 そもそも、俺はアレルギーというものを発症したことは今までない。
「ねー、俺のことも名前で呼んでよ」
 俺の動揺の理由に気がついたのだろう。
 諾左が仁科に向かって声をかける。
「えっと、諾左先輩……?」
 少し照れたように名前を呼ぶのが可愛らしい。
 先輩呼びに気を良くしたのか、諾左が仁科に飛び付いた。
「ひゃっ」
「仲良しっぽくていいな! よろしく、更♡」
 完全に調子に乗っている諾左に苛立ちを覚える。
 俺は、機嫌良く仁科の頭を撫でる諾左を、首根っこを掴んで引き剥がした。
「人前でベタベタするな鬱陶しい」
「なんだよー。後輩可愛がってるだけだろ?」
 諾左は悪びれもせずに言い返してくる。
「ともすればセクハラだぞ」
「でも、お前好きじゃん。こういう……」
 言葉の続きを待たずに、俺は諾左へ頭突きをお見舞いする。
「それ以上喋ったら舌を引っこ抜く」
 あぶねええええ。
 こいつ今、俺が腐男子だってこと普通にバラしそうだった……! なんだこいつ、口の軽さ水素並みか?
 これ以上ボロを出す前に、仁科にはお帰り願おう。
 一旦態勢を立て直す必要がある。迂闊な行動は破滅を招くのだ。
「お前、今日はもう帰れ」
「え?」
 突然の帰宅命令に、仁科は驚いているようだった。
「体験だって、今日突然やれるものじゃないんだ。そもそも人が来ると思ってなかったから、誰も準備してない」
「じゃあ入部……」
「言っとくが、仮入部だ。俺はまだお前を正式な部員として認めない」
 正式に入部してしまえば、仁科は他の部活を見に行きづらくなる。
 部の存続を後輩一人に背負わせるような真似はしたくない。
「僕、頑張りますね」
 にっこりと仁科が微笑んだ。
 その様子があまりに健気で、俺は涙が出そうになる。
 尊さが限界突破してしまいそうだ。
「そうだ。紫苑、更くんと一緒に帰りなよ」
「へ?」
 和泉の急な提案に、俺は間抜けな返事をしてしまう。
「更くんまだ道覚えてないんでしょ。紫苑と家も近いみたいだし、送ってあげたらいいじゃない」
 今朝の話を聞いていた和泉は、仁科が俺の言う「推し」だと気が付いたのだろう。
 俺と仁科の橋渡しのつもりだろうか? こんなんレインボーブリッジ建つが。
「でも……」
 仁科はあまり乗り気ではなさそうだ。
 今朝共に登校したとはいえ、知らない先輩と下校するのは嫌だろう。
「紫苑は態度悪いけど、人は良いから安心して! また迷子になったら大変だし」
 和泉が笑顔で仁科の肩に手を添える。
 今、さらっと失礼なこと言われたな。
「それじゃあ、お願いします」
 そう言って、仁科は先に下駄箱へ向かう。
 パタパタと上履きの音が遠ざかって、残されたのは俺たち四人だけだ。
「諾左てめえ、何バラそうとしてんだ!」
「だからって頭突きは酷すぎない!? 頭割れたかと思ったんだけど! 脳味噌出てない!?」
 俺たちが言い合いを始めたのを、赤音と和泉は呆れ顔で見ている。
「紫苑が言ってた『推し』くんって、更くんでしょ。カッコつけたいんだよ」
「え、何? リアルボーイズラブ?」
「違う! 推し属性なだけ!」
 俺の抗議に、赤音は「どう違うんだよ」とぼやいた。
「早く行かないと更くん待たせちゃうよ」
 和泉の言葉に、俺はハッと我に帰る。
「一緒に帰るとか無理なんだけど。何話したらいいんだよ」
 俺は、生まれてこの方ずっと人見知りを拗らせている。
 緊張のためか思ったことを上手く伝えることができずに、天邪鬼な態度を取ってしまうこともしばしばだ。
「大丈夫、俺たちがサポートするから」
 和泉は笑顔でスマートフォンを指す。
「何かあったら連絡して。三人で待機してる」
 その言葉に背中を押され、俺は校門に向かう。
 既に、仁科が校門の近くに立っていた。
 まだ少し大きい制服に身を包んだ姿は、どこか危なげで、桜にすら拐かされてしまいそうだ。
 大きなレンズがこちらを向く。
「せんぱーい」
 手を振られて、心臓を鷲掴みにされたような心持ちになる。
 しかし、蹲っている場合ではない。
 俺は、大きく息を吸い、仁科の元に歩き出した。
 スマホの画面には、「ファイト!」というメッセージが浮かんでいた。
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