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3章 Super Avenge

【八】これがヴィジランテですよ

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王城の屋根で跳躍。
そう言えば不敬と受け取る人もいるだろう。
だが、相手のしていることは跳ぶという行為に留まらない。
跳んでは隠れる。だが、それがどこかはわからない。

ついさっきストリーマーにされたことだ。
武術の達人、その道を極めた技術。
ジェーンが突き出した腕を避けては、
脇腹や腕に切り傷を拵えて消える。

「アハハハ、弱い! 手も足も出ないでやんの!!!
 それが聖女! 星を砕く力の継承者かよ!
 家帰って編み物でもしてろバーカ!」

罵声の後に影が跳んできては、
カウンターを取る余地もなく攻撃を受ける。
じわじわと体と心に傷が作られていく。

「ほら次はどこかなあ? 悲鳴をあげてみなよ。
 手加減はしないけど、おれが楽しめるから」

実にいやらしい戦い方だ。
誰の系譜にあるかよくわかる。

屋根の片隅に突如現れたと思ったら、
常人の目では追い切れるわけもないスピードでやってくる。
追おうとする頃には消失する。

どこに逃げたのかはわからない。
ストリーマーに追い込まれたのと同じ環境。
さっきは超人的な身体能力がある状態だった。
だが今はそれがない。
二度目の消失戦法というのは精神的に楽かもしれないが、
力がないと状況は改善しない。

「どこに消えたの……」

またも動きの正体を掴めず、ジェーンが困惑する。
跳んでくる、切りつけてくる、逃げる。
追いかけるとすでに見えない。

周囲を調べようにも深手を負って、
弱体化もしているジェーンでは、
機敏な動きなどできるはずもない。

「跪いて“参りました”と泣き叫びなよ。
 ぬくぬくと育ったあんたにはお似合いの末路だ。
 おれ達の血と汗を吸って生きてきた貴族様にはなあ!」

「誰のおかげで毎日ご飯食べられてると思ってんの?」

「~~~~~~ッッ!!!!」

食料革命を起こして国から餓死を無くした者からの端的かつ鋭い反論。
返事がないのは、それだけ堪えたからだとわかる。
めったにそういうことを言わないからこその、返答の許さなさだった。

「し、死ねえいっ!」

本来なら最初から勝負がついている戦いだ。
それをどうにか耐える形に持っていっている。

「来たっ」

三度目の攻撃。
屋根の端に現れたウンカが小さな身体で瞬速を発揮。

先端がフックのように折れ曲がった細剣を振るう。
奇妙な形状だが剣筋におかしなところはない。

「この武器、いいだろ。
 ウンカっていうのはすごく小さくて、弱い。
 でも稲に小さな穴を穿って、
 そこからじわじわと大切なエネルギーを吸い取ると、
 大規模な根枯らしができるんだぜ」

数回切り返したところで、
タイミングを見計らい、
防御を合わせた。

腕に巻き付けたマントで剣を受け止める。
僕の意識が介在した血のマントは、
ジェーンの血液を使っているが、
形を成して僕の意思で多少の動作をするのは、
シスマが首飾りに込めた血水魔法の術によるものだ。

だからジェーンがグロッキーになっても、
僕は多少独立できる。
分厚いマントが細い剣と腕に巻き付くと、
攻撃を受け止めることができた。
年齢と体格差によって、少年と力比べには勝てる。

「小さな体、小さな傷でも、
 齎す被害は巨象の暴走を上回る。
 面白いよな、蝗害」

「ぶぼぼぼぼぼぼ」

この世で最も嫌っている現象が一つの名前。
話を聞くだけでジェーンの口から血と吐瀉物が溢れる。
口を無理に閉じようとすると無防備になりそうなので、
双眸から涙を滂沱と流しながらも、穴から液体が出るに任せた。

それにしてもこの勢いのよい衰弱。
遅効性の麻痺毒でも塗られているのか。
即効性じゃない理由は性格によるものかもしれない。

「いつまで掴んでるんだ……よっ!」

巻き込んだ腕とは別の腕にある武器を振るう。
空気を裂くが、僕であるマントを動かし、盾にした。
真紅の布地が広がり柔らかく攻撃を受け止め、それから包み込んだ。

「これで両手を掴んだわ!」

「コノヤロッ!!」

「があっ!!!」

死に体にしたと確信した瞬間に、
ウンカが器用に身を捻って、
足先でジェーンの肩に刺さった短刀を蹴った。
傷口を強く抉られて、聖女の口の端に泡が吹き出る。

肩から無理矢理にでも抜くべきだったか。
しかし、ここまで深く刺されば自ら抜くのは容易ではない。
そうしている間に敵はいくらでも攻めてくる。
せっかく捕まえたのにマントから逃げるように身を引いてしまい、
ウンカが自由になってまた消えた。

「あの人が言っていたよ!
 あんたは周りのことも自分のことも何もわかっちゃいない!
 それはつまり弱者ってことだ!!
 だからメイドの骨がこんなに刺さって今も抜けない!」

「言わせておけば……!」

ムカっ腹に頬を震わせて憤る。
しかし怒ってヤケになっても何もならないことを、彼はよくわかっていた。

「苦戦していますねえ、ぬふふふ」

横から小さな頭がにゅっと突き出された。
飛ばされた流野りさが戻ってきたのだ。
聖女の行いに不満はないのか、
そのことに言及はしない。

だが、ジェーンが苦しんでいるのを楽しんでいる、
そう取られかねない顔をしている。

「貴女を相手にしている時と同じ感じだわ。
 どうやればいいの」

「ですが、ジェーン・エルロンドはただ“やかましい”というだけで
 私を飛ばしたがる危険人物です……。
 これは早急に痛い目を見てもらわなければ……スマホとか持ってます?
 動画に残したいです、この光景」

「地獄に忘れてきたんじゃない? 待ってるから取ってきていいわ」

皮肉られて流野りさは、逆に不気味な笑みを浮かべた。
本当に不気味な、にんまりとした笑みだ。
地獄のハイエナが似た顔をするのを見た覚えがある。
およそ人間のものとは思えなかった。

りさの笑顔っていっつも不気味でゾッとするんだよなあ。

「では、私の言う事を聞いてください」

おっ、ついに彼女が名誉挽回する時が来たぞ。
その名誉はすぐに殺意に塗り替えられるだろうけど、
作戦を思いついたストリーマーは宇宙最強に相応しい有能さを持つ。

事実、ストリーマーの話に耳を傾けるジェーンは、
複雑そうな顔で顎を手で擦った。
感嘆する代わりに苦々しげに吐き捨てる。

「くっ……すごく鮮やかで腹が立つわ……!!」

気持ちはわかる。
感心とムカつきが同時に来るんだ。
けれども、じきに誇らしく思えるから我慢だ。

「わかりましたね?
 貴方の傲慢さと狂気がどれだけ危険か。
 いつかこの私が全世界ライブ配信してあなたを苦しめます」

「話聞いてるのに傲慢扱いされるのおかしいでしょ……」

また胡乱な論理展開を開示する流れになったと悟り、
ジェーンはため息をついて首を振った。
同時にまたウンカがどこかから現れて数回小さく跳ねて攻撃してくる。
それをジェーンは棒立ちの無防備で攻撃を受けた。

そうしてジェーンに傷を刻んで
逃げていこうとするが、今回はそうはならない。
マントである僕がウンカの靴を片方外した。
それにより、屋根から消えても、どこにいるかがわかる。
音が屋根の下より聞こえてくる。

僕がさっき、彼の靴に鈴を巻き付けておいた。
ヴィジランテやヒーローの名前は体や性質を表す。
つまり、ウンカの名を持つ以上は
跳ぶように移動するし、
そうするには巻き付いた鈴の音が出ないようにするのは至難の業。

「その鈎付きの剣がわかったわ。
 速度を殺さずに屋根を駆け回ったら、そのまま足元に引っ掛けて
 足元の下の空間を通って、いきなり出てきたみたいに這い登ったのね」

シンプルな種だ。
だが、そういったものを戦い中に悟られず実行し続けるのは、
かなりの練度を要求する。
いったいまだ幼いこの子にどれだけの訓練を課したのだろう。

「音がわかったところで!」

鈴の音を騒がしく立てながら、
ウンカが反対方向から出てくる。
そして、ジェーンのところに疾走する。
戦いの才能がある彼女には、
予測ができる動きと攻撃。

タイミングを合わせてウンカ、
フレディの顔に目掛けて脚を突き立てた。
会心のタイミング。絶対に外れないもの。
しかし、嘲笑する少年の姿が揺らいだ。

さっきの王の幻を見たときも使われたものだ。
光の屈折を操るという魔術。
あの少女がどこかから援護をしていた。

鈴の音を鳴らしたままで外そうとしなかったのは、
逆手に取って撹乱に使おうとしたから。

「わかっただろう!?
 知恵はパンチ……いやキックより強しだ!
 お前のメイドも弟も同じ目に合わせて──」

極小のズレで攻撃のリズムをずらした本物のウンカは、
ジェーンの背後に回って、
双剣で挟んで削り取るように鉤をかけんとしてきた。

「オリャー!!!!」

「ふぎゃー!」

その少年の顔面に靴底が叩き込まれた。
太くて逞しいジェーンの足腰は、超怪力が消えても
確かな馬力を誇っている。

まさか全力で子供の顔を蹴りはしないだろうが、
有効打になるだけのパワーは込められている。

「よしよし。これがヴィジランテですよ。
 絶対に敵……とくに偽善塗れな傲慢かつ独善的な
 超人ヒーローが相手なら勝利を確信するように誘導し、そこを狩ります!
 何故か、わかります? 私はわかります。
 それはぁ……努力せずに手に入れた力があって負ける失望顔を見るのが
 とっても気持ちいいからなんですぅ、でへへへへへ」

そうだ、僕もそうやって何度もヴィジランテに負けてきた。
正確には、特に互いの誇りを欠けるとかそういうものではない、
単なるいざこざなら簡単に勝てるのに、
負けてはいけない時ほどストリーマーに完敗してきた。

鼻の下を伸ばしてストリーマーが過去の栄光に思いを馳せている。
これが彼女だ。とんでもなく性格が悪い。
だが、相手の思考と狙いを容易く手玉に取って勝利へと導く。

「ちょっとこれ使うわ!」

鼻血を出して白目を剥いたフレディが回復する前に、
鈎細剣を奪い取り、自分の肩をほじる。
激痛は歯を食いしばって我慢し、
広げた傷口から抜け落ちた短刀を脇に抱え、
フレディを抱きしめて、伏兵からの追撃が来るより先に自分から飛び降りた。

数秒と経たず、真紅のマントを燃えるように大きく翻し、
聖女が天高く飛んで行った。
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