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1章 Secret Rebirth

【七】ごめんなさい!!(上)

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 僕の視力は空を超えた宇宙、太陽系の惑星はおおむね視認できる。
 聴覚も、地球の反対側のことを拾えた。
 それに超音速の脚力があれば、なんでも見聞きして駆けつけられる。
 と言えば凄そうに見えるが、端的に言えば、両目が望遠鏡で、耳が超集音マイクだ。
 普通に生きるには、過剰なスペックだ。

「どうするんですか?」

「アンカーを設定させるんだ。耳や目の焦点。でも、それをいきなりやるのは難しいし……彼女の場合は、気になる人々のことを思い出したのが原因だから……」

「お待ちを。ジェーン様が、他者を気にかけられているのですか?」

 失礼な質問だ。
 しかし、ジェーンを知っている人間なら、全員が同じ疑問を浮かべるだろう。

 彼女のような人物。
 能力や肉体ではなく、精神面で人とは異なる超越性を持つ人種。

 ハッキリ言うと、僕は生前、そういう人らに散々いじめられてきた。
 ヒーローでもヴィランでも、心が超常的というのは、それだけで……本当に……なんで……いつもいつも……!

「あの……」

「ごめん。考え事してた。君には信じられないように思えても仕方ないけれども……。僕も何度も疑ったものだけれども、彼女のような人種は、非常にユニークな精神構造をしているだけで、心が育まれていないわけではないんだ」

 嫌な感情に、うっかり沈み込むところだった。
 世界に変革を齎すのは、彼女らのような特別な精神性を持つ者達だ。
 僕にはないモノを、どういう経緯でか獲得した人達。

 昔は仕事でも議論でも勝てず、部屋で膝を抱えてシクシク泣いたものだ。

「思うに、彼女には悪気は一切ない。だから、悪い人ではないよ。これからを見て欲しい。ていうか、君のことも大事に思っているよ?」

 良いんだか悪いんだか知らないが、彼ら/彼女らとは深い縁がある。
 誤解があれば解き、不仲があれば和解するように働きかけねば。

「……本当に変化しようとしているのかしら。それで、気にかけている人物とは?」

「昼に、貧しい人たちが暮らすエリアを散策した際に、ある兄弟のお世話になったんだ。ずっと彼らのことが心に残っていたらしい。僕と同じ心の動きをしたから、能力が発動したみたい」

「魂の合致ですね」

 メイド長は、マナを通して主の体内に働きかけた。
 血水魔法によって、血液に介在するジェーンの意志を溶かす。
 そうすることによって、心が前世に重なったことで発生した力の暴走への抵抗を弱めた。

 魂が宿るのは血液。
 それは僕にも親しい概念だ。

 血水魔法によって魂の拒絶反応を軽減させたのだ。
 これにより、ジェーンの視界に、初めて超聴力が暴走したスゲーマンの記憶が上映される。
 僕にも同じものが流れている。

 13歳の頃、幼馴染の少女と部屋で話をしていると、ふとした拍子でキスをした。
 その日にそれをするとは、一切想像していなかった。
 僕は、精一杯気にしていないクールなふりをした。

 ──へ、へ、へ、へば……まだ……明日、学校でな。

 両親譲りのこってりとした訛り。
 未来にはスゲーマンになる少年は、この頃は子供も同然。
 女の子と手を繋ぐだけで、心臓が口から出てくる。

 ファーストキスを“いいな”と思っていた相手とできたことで、声は上擦り、頬は発火したように真っ赤になった。
 後から考えると、“最悪のやらかし”だった。
 いや、この時点でやらかしについては自覚していたが、ファーストキスに舞い上がっていた。

 帰宅して、夜になり、ベッドに横たわった僕は、幼馴染が何をしているのか気になった。
 目を閉じれば、相手の息遣いを感じられるかと思い、意識を集中させると、“それ”に目覚めた。

「クソッ、これじゃただ子どもの性欲の目覚めを見せられてるだけじゃない!! あたしには、だいぶ無意味だわ、これ!!」

 悶え苦しむジェーンが、僕の宝物のごとき記憶を一言で切り捨てた。

「落ち着いてください。前世の記憶を思い出したんですね? それなら、スゲーマンはその後にどうしましたか」

 前世、遠い昔に青春をしていたスゲーマンは、超聴力によって幼馴染の鼾が轟音になって聴こえた。
 彼はすぐに、そこに行って鼻を摘みたいと思った。
 そうすれば鼾が止まり、安らかに眠りにつける。

 しかし、そんなことはできない。
 深夜に、幼馴染でも女の子の部屋に押し入るのは、悪いことだから。

 代わりに、絶叫を聞き。
 注意が音源に向いた。
 彼の義母が──

「ここからは不要な記憶だわ! おにぎり頂戴!」

 夜食用に、いつもベッド脇に備えているおにぎり三つ。
 すぐにトレイから持ってきた。

「具は何にいたしますか?」

 こうしている間も、ジェーンは耳に流れてくる騒音に耐えている。
 今は気を紛らわせるために、床に何度も額を打ち付けている。

「海老マヨ!!」

 なるほど、耳にこびりついた爆音を、マヨネーズの油分で紛らわせるというわけか。
 重さで具がわかるシスマが一つ手渡した。
 受け取ると、丸ごと口に押し込んだ。

 口を動かし、エビの弾ける食感とマヨネーズの滑らかさがお米に混ざる味わいを楽しむ。
 すくっと立ち上がった。

 彼女の好物を味わっている間は、全感覚がそれに集中している。
 長持ちしないだろうが、行動可能にするには十分だ。

「直接、あの子たちの所に行く!」

 スゲーマンの聴覚を揺らしたのは、幼馴染の鼾。
 一方で、こちらは襲われているだろう子供二人の危機。
 前者は無理に止め難いが、後者は止めても問題ない。

   悪いのはテメエらだぞ、クソガキども。俺らの邪魔をしたら、どれだけの内臓を取られてもしょうがねえ!

 意識を集中させ、音がどこから来ているのかを探る。

   かわいいねぇ、こんなところにはもったいない玉の肌だよぉ……

 貧民窟と同じ方向と位置。
 細かい位置はわからないが、とにかく行けばわかる。

   やめろ! 弟を離せ!! 僕はどうなってもいいから!

「よし、適当に行くわ! やっぱ、何事も爆速直進が正解ね!!」

「適当って──」

 無謀な行動を取ろうとするジェーンを諌めるために、肩を掴んだメイド長が、お米の聖女と一緒に音速の線となった。

 時間を遡った時ほどではないが、それでも超高速の移動だ。
 屋敷を飛び出し、閑静な街を通り抜け、夜中に走る馬車を追い越し、ひとっ跳びで時計塔を超える。

 空を飛ぶ力は戻っていない。
 高速で動いて、遠くの音も聴き取れるだけ。

 両足を動かす。
 前に進ませる。

 度を超えた高速だと、走る一歩で数百メートル先まで進める。
 数度、同じ道を通ってから、貧民窟に入った。

 めまぐるしく流れる風景。
 通り過ぎる貧しい人々の住処では、住民がろくに仕事をせずにお米ばかりを食べているため、夜になっても活動している住民が多い。
 むしろ、昼は寝ていて、夜に活動を再開する者が主流とさえ言える。

 この貧民窟では、自分がどこにいるのか、どこへ向かおうとしているのかも不確かだ。
 少しでも、より多くの音を聞こうとすると、たちまち眠らない狂騒が、がなり立てる。

 力に慣れていない状況で、それは悪手。
 故に、とにかく足を動かす。

 虱潰しに、家屋のドアを高速で開け閉めして、中を確認していく。
 仮に住人が起きていても、何が通ったか悟らせずに終わる自信があった。

 雨風を防ぐ以上の役割はなさそうな家屋を除くと、馬鹿騒ぎしている者、偽札を作っている現場、麻薬の取引、犯罪計画、リンチ、強姦、殺人。
 最後の3つは、とりあえず棲家の壁を引っ剥がして警告しておいた。

 犯罪とは、隠れないといけないもの。
 風が吹きさらしのオープンな場所にされては、意欲が激減だろう。

「見つけたぁ!!」

 そうやって、種々様々な貧民窟の生活を無理やりチラ見し、ついに探していた声を見つけた。
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