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2章 Secret Origins
【十一】予定空けといてくださいね
しおりを挟む「大師匠! ご機嫌いかがですか!!」
屈託のない声。
耳を澄ますまでもない、ドタドタとした足音。
エドガーが、山盛りの炒め飯とステーキをトレーに載せ、
さらに米酒を脇に挟んで運んできた。
どえらく慕われたものだ。
僕は彼の姉の人格に間借りしている、ただの居候だというのに。
「おっ、外にいらっしゃるんですか。
風流でいいですねえ!
やっぱり正義の眼差しからは、
悪徳なんて一目瞭然ですよね!」
「違うよ。景色を楽しんで、ぼーっとしてただけさ。
まあ、座って。座って」
「ありがとうございます!」
向かいの椅子を、ぺしぺしと叩く。
巨体が、美麗な細工椅子に押し込まれた。
ギシギシと、今にもはちきれそうな音を立てているが、
軋むだけで、どうにか耐えている。
……高級品は違うなあ。
「じゃあ、せっかくだし一緒に食べよう。
お腹、空いてるかい?」
「ええ!? いいんですか!!」
ぱあっと喜色を浮かべ、
エドガーは小皿に分けた炒め飯を二口で平らげ、
米酒を、ごくごくと飲み干した。
……お代わりを持って来た方がよさそうだ。
僕も倣って夕食をいただこうとした、その時、
耳に慣れた音が届いた。
────!
「あ、ごめんね、エドガー。
すぐ戻ってくるから」
そう言ってホテルを高速で降り、
馬車に轢かれかけた猫を助け、
追い剥ぎに荷物を奪われた老婆に盗品を返し、
木の枝に引っかかっていた風船を子供に渡す。
締めに、路地裏で恐喝していたごろつきの集団を、
詰め所へと連行した。
「大丈夫ですか?」
腰を抜かしていた浮浪者を助け起こすと、
伸び放題の髭と眉毛の奥にある、落ち窪んだ目が、
信じられないものを見るように見開かれた。
「ジェーン様では……!?」
そうか。
手配書も出回っているし、
元から有名人なら、すぐにバレてしまうか。
困ったな。
体はジェーンでも、心はジェーンじゃない。
正確に言えば、肉体だけが同じ、別人だ。
「す、すいません……。
追われる身でしたよね。
申し訳ねえ。俺なんかのために、わざわざ……」
「なんで、そんなこと言うんですか?
見捨てていい人なんて、この世にいませんよ」
「その例外が、俺なんですよ。
ギャンブルに狂って借金まみれで、
嫁と子供にも出て行かれました。
……当たり前の話です」
お悩み相談だ。
生前を思い出すなあ。
助けたらそれで終わり、
すぐにどこかへ行ってしまうヒーローも多いけれど、
やっぱり、助けた後に話をする方が楽しい。
せっかくの出会いなのだから。
「そんなこと、言ってはいけませんよ。
少なくとも貴方は、
自分の過ちを理解しているじゃないですか」
「知ったところで、
事態が解決するわけじゃねえ……」
「お腹が空いて、一人でいるから、
そんなに悲観的になるんですよ。
せっかくだから、一緒にご飯を食べましょ。
今は……先約があるから……
うーん……明後日、同じ時間帯に、ここで」
余裕を見て、明後日にしておいた。
それまでには、事態も多少は動くだろう。
人格をバトンタッチしていたとしても、
ジェーンに頼み込めば、来てもらえるはずだ。
「そんな……どうして、そこまで……」
「食事の約束をしただけですよ。
大げさです。
じゃあ、明後日の予定、空けておいてくださいね」
手を振って、その場を走り去る。
……少し、強引すぎただろうか。
今はまだ、みんな僕のことを知らない。
変な人だと思われたかもしれない。
「────聖女(ラスタレス)様」
助けた男の呟きが、耳に届いた。
フランス語由来の単語をもじっているのが不思議だが、
遠い未来なら、言葉が混ざるのも自然だろう。
Luster(光を放つ者)が、Lustress。
聖女と称えられるジェーン、そのものだ。
……なら、大丈夫だな。
街中を超高速で駆け抜け、
高級ホテルの最上階へ、ひとっ飛びで戻った。
「ごめんごめん。
一人にしちゃって」
一緒に食事をする相手を置いていき、
しかも目立つ高速移動までしてしまった。
ジェーンは我慢していたのに、
僕ってやつは……。
怒られたら、素直に謝ろう。
だが、一人で食事をしていると思っていたエドガーは、
目元を押さえ、肩を震わせていた。
何があったんだ。
美味しそうな料理にも、手をつけずに。
まさか……
そんなにも一人飯が嫌だったのか?
「初めて、人助けに行くところを見られた…………!!
尊すぎる……!!
感情が溢れて、止まんねえ……!
俺の見る目は、正しかった……!!」
…………そんなに?
僕は炒め飯を口に運び、
鮭と一緒に炒められた、濃い味付けを楽しんだ。
久々に直接食べるが、
鮭って、米との相性が良すぎる。
「よくわかんないけど、落ち着きなよ。
ほら、あそこの煙が出てる家。
久々に、お父さんが農場から帰ってきたんだって。
おめでたいよねえ」
「ふぐっ、うぅぅぅ……!!
ようやく、このマッスルボディの使い道が
わかりましたぁ……!!」
「あの……聞いてる?」
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