16 / 38
第二章:セシリア10歳、社交界デビューする。
第2話 社交界
しおりを挟む会場へと足を踏み入れたセシリアは、まず会場内の人の多さに驚いた。
会場も大きいのだが、それ以上に貴族達を始めとして、他にも王城勤務の使用人が食事や飲み物を用意していたり、貴族が連れてきた使用人たちが主人の世話をしていたり。
そんな姿が随所に見られる。
中でも目立ったのが、使用人が何やら主人に耳打ちをする姿だ。
(何だろう?)
一瞬だけそう思い、しかしすぐにその原因に気付く。
耳打ちされた貴族たちのほどんとの目が、こちらに視線を向けたのだ。
おそらくあれは、有力貴族の入場を主人に教えていたのだろう。
しかし、それにしても注目されすぎな気がするのは気のせいか。
現に少し間を開けて、他家が入場してきてているのに、ほとんどの視線がこちらに突き刺さっている。
その原因が分からなくて疑問を抱いていると、その雰囲気を察したマリーシアがこっそりと耳打ちしてくれた。
「オルトガン伯爵家が3大伯爵家と言われている話は、先程馬車でしたでしょう?」
その、たった一言。
それだけでのセシリアの中の疑問が氷解する。
「つまり今視線を向けてきている方達は、みんな我が家に対して何らかの渡りを付けたい者達という事なのですね?」
確認する様な声色でそう聞き返せば、マリーシアが「その通りです」と優しく頷いてくれた。
するとセシリアの言を裏付けるかの様に、丁度こんな声が漏れ聞こえてくる。
「さて、いつ挨拶に行くか。出来ればあちらが全員揃っている時にしたいものだが……」
「少しでも会話が弾めば、今年の社交が幾分かやりやすくなる。勝負所だぞ」
それは周りから我が家が如何に高く見られているかの証明だ。
しかし同時に面倒そうな香りがする。
(最初だし、なるべく多くの方と顔つなぎをすべきなんだろうけど……。正直『面倒』ね)
そう思わずにはいられない。
しかし聞こえてきた声は、それだけではなかった。
「ほぉ、あれがオルトガン伯爵の――」
「あぁ、キリル様やマリーシア様の時も思ったが、オルトガン伯爵夫人に似て――」
ヒソヒソと囁かれるそれらの声は、語尾がよく聞こえないものの、どうやらセシリアの事について話している様である。
それと同時に、セシリアには値踏みの視線が向けられた。
それは少し不快で。
しかしそれを外面に出すようなヘマは、オルトガン伯爵家の名にかけて絶対にしない。
その為、心中で顰めた顔とは裏腹に社交の仮面を一層深く被りなおす。
すると今度はキリルが耳打ちしてきた。
「鬱陶しいよね、ホント。ウチはどうやら目立つみたいで、僕の時もマリーの時も、何かと注目された」
向けられた視線には、労りの情が見て取れる。
しかしそんなに心配しないでほしい。
兄姉が我慢したのだ。
セシリアだって頑張って我慢する。
「……まぁうちは他家とは違って社交界デビューまでは、顔を知る機会さえ無いからね。皆きっと珍しがってるんだよ」
そう言った彼の声は、紛れもなく辟易していた。
しかし流石はクレアリンゼの血を引いているだけはある。
そんな感情はお首にも出さない表情でセシリアの前を歩いていた。
(きっと周りは、まさかこんな声で話をしてるだなんておもっていなんだろうな)
ふとそんな事を思えば、少し可笑しくなってきた。
まるで悪戯の成功を自分たちが知っているかの様な、そんな心持ちだ。
「セシリー、何で笑ってるの?」
キリルにそんな疑問を投げかけられたのでその理由を素直に答えると、彼はすんなりと納得した後で「確かに、そう考えると気分は良いね」なんて言いながらクスクスと笑った。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる