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第二章 第二幕:侯爵子息トラブル編
第4話 罠という名の『種』が早速芽吹く ★
しおりを挟むしかし、セシリアは全く動じない。
何故なら。
(この話をすれば、お母様がこうするだろう事は分かってた)
そうなるように仕向けたと言ってもいい。
そして母がああいう言葉を口にしたという事は、セシリアがこれからしたい事を的確に読み取ってくれた事に他ならない。
だから、セシリアはにっこりと笑ってこう告げる。
「こちらに居られる、モンテガーノ侯爵の第二子息・クラウン様です」
母に対してだけではなく、周りのその他大勢にも十分聞こえる様にハキハキと。
そう心がけた声は、その機能を十分に果たす。
その証拠に、周りの目が一斉にセシリアを追いかけて来ていた彼へと注がれた。
「……そうなの」
注がれた視線の中には、クレアリンゼのものももちろん含まれている。
しかしその温度は、やはり周りよりも1段階低い。
社交場では非常に珍しいブリザード一歩手前の笑みを称えながら向けられた視線に、まだ10歳の免疫皆無の子供が耐えられる筈もなく。
クラウンという名の彼は、居竦められてすっかり固まったてしまった。
しかしクレアリンゼが冷たい視線を向けたのは、ほんの数秒だった。
彼の表情を奥を読み終わると、彼女はすぐさま興味を失ったかのように、彼から視線を外す。
そしてセシリアへと向き直り、ニコリと笑ってこう尋ねる。
「それで?」
どうするの?
そう言外に問われて、セシリアは「はい」と答える。
「クラウン様が“ああ”仰ったことですし、私は彼の言葉に従いーー今日は此処でお暇を頂きたいと思います」
「そうね、それが良いでしょう」
クレアリンゼは娘に対してそう応じると、すぐさま談笑相手達に満面の笑みを向けた。
しかしその瞳の芯は、依然として凍てついたままである。
「申し訳ありません、皆様。今日は私、娘と一緒に帰りますわ。お話の続きは後日にさせてくださいね」
そう言うと、周りの了解を待たずにセシリアへと向き直り「行きましょうか」と優しく告げられた。
こうして2人はホールの中心をぶった切る様に通過して会場を後にする。
その凛とした背中は、まさかドレスを汚された家の親子には見えなかった。
セシリアのこの一連の言動は、すべて社交界に植え付けた反撃のための『種』である。
そしてこの『種』が芽吹きを迎えるのは、そう遠い話ではない。
と、いうのも。
後に残されたのは、クレアリンゼの話し相手をしていた貴族当主の奥方達である。
「あらら……。クレアリンゼ様、珍しく本気で怒っていましたわね」
そんな声に、別の奥方が「当たり前よ」と応じる。
「自分の子供が『あんな事』を言われたのだから、怒らない方がおかしいわ。だってあれって、ほら。『暗黙の了解』の」
その声に、他の面々が同意を込めて頷いた。
どうやら先のセシリアの状況説明を聞いて、彼女達は皆一様に『暗黙の了解』なるものを頭に思い浮かべた頭に思い浮かべたらしい。
しかし。
「でもあれは故意だったんでしょう? クラウン様がそうでなければ話は別じゃない?まだ子供なのだし……」
過失っていう事もあるわよね?
そんな意見に「バカね」と嬉々とした声でまた別の奥方が会話に参加する。
「故意だと思ったからこその、あの怒りようなんじゃない。クレアリンゼ様は過失に対して怒る様な方じゃ無いでしょう?」
その言葉に、先の質問者が「それもそうか」と納得する。
彼女達はもう20年以上前からの仲である。
クレアリンゼの性格と怒りの沸点は、彼女達だって良く知っているのだ。
それに。
「クレアリンゼ様の観察眼って凄まじいから、間違う事も無いだろうし」
彼女の観察眼に対する疑いも抱かない。
それほどまでにクレアリンゼの特技は精度が高い事も、彼女達は知っている。
そうして話が盛り上がっている一団に、とある女性が近づいていった。
「御機嫌よう、皆様何をそんなに盛り上がっているのですか?」
「あぁあのね、先程――」
こうして『種』が、早速芽吹いた。
↓ ↓ ↓
当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413976943128
↑ ↑ ↑
こちらからどうぞ。
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