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第2話 『女嫌い』と『歴史狂い』(1)
しおりを挟むノースビーク辺境伯家の若領主・ケルビン様は、無駄に見目がよく「あの誰ともなれ合わない一匹狼なところがカッコいい」という根強い令嬢たちからの評判もあってか、領主になる前は二年に一度、領主になったら年からは『国防に忙しい』という理由を付けて毎年欠席しているというのに、よく社交場で話の種になる。
中でも彼の女嫌い・社交嫌いは周知の事実で、今や社交界では『もしかして領主になるための交換条件にケルビン様が社交界への不参加を要求したのでは?』という憶測が飛び交っているほどだ。
「因みに社交に出ない交換条件に領主を継いだという噂は、事実だ。夫人と方々を旅するのが夢だった彼の父――つまり私の友人が、『領主になれば社交場に出ないといけないから嫌だ』と言った息子に、『別に出ずとも目くじらは立てんから』と言ってあとを継がせた」
そうなのか。
だとしたら尚の事、それ程までに人嫌いな人のところに嫁ぐなんて、前途多難な気しかしない。
「歴史研究に没頭するあまり通常の社交場にもまったく顔を出さず、出るのは精々年に一度の王城でのもののみ。そこでも話をしているとすぐに歴史関係の話に持っていくものだから、周りからは密かに『歴史狂い』などと揶揄されているお前とは、ある意味お似合いだと思わんか」
「残念ながら、否定する要素は思い浮かびませんね」
矛先が私に向き出したのでいつものようにサラリと躱したところ、お父様は「はぁー」とわざとらしいため息をついた。
「まったく、そんな自分をそうやって許容するものだからお前は尚の事周りから浮くのだ。あぁまったく、何故こんな変な子に育ってしまったのか……」
「どう考えても、歴史狂いは古書や骨董集めが好きなお父様やお祖父様の影響、マイペースな子の性格はお母様譲りでしょう。お陰で私は間違いなく貴方方の娘なのだと胸を張る事ができます」
「そんな事で胸を張るな。第一父上や私はちゃんと程度を弁えている。お前のように睡眠時間や食事を削ってまで没頭していない!」
うーん、そう言い返されてしまうと返す事がない。
「とにかく、だ。周りからは『歴史好き』、下手をすれば『歴史狂い』などと言われているようなお前にこの縁談は、またとない話だと思わないか?」
そう言われ、私は思わず眉尻を下げた。
たしかにお父様の言う通り、そもそも家として今回の縁談について考えてみれば、またとない……どころか破格の話だと思う。
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