女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

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第4話 嬉しい誤算。好きにできる!(1)

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 感情を押さえたような低めの声が、私には深みのあるコーヒーのようだと思えた。

 少し苦くて、しかし印象的でまた聞きたくなる。
 そんな感覚に妙な感嘆を抱いたが、すぐにハッと我に返る。
 
「はい、ウォーミルド子爵家のマリーリーフと申します。この度は――」
「余計な口上を聞く気はない。来い、一応部屋までは案内はしてやる」

 一応初対面のようなものだ。
 きちんと挨拶を……と思ったのだけど、どうやら不要らしかった。

 後ろでミアが殺気立ったのが分かった。
 おそらく今口を開けば「何ですかアレは」と言うだろう。

 が、別に私は怒りを感じない。
 私だって本当ならば畏まったり形式ばった事をするのは好きではない。
 そういう形式も歴史が作った一種の形態ではあるけど、そういうのは知識として知っていればいいのであって、私自身がそれをそのまま実践する事にはあまり興味はないし、歴史や伝統を重んじない人を腹立たしく思ったりもしない。


 踵を返した彼に続けば、荷物を持ったミアが後ろに続いた。
 ズンズンと歩いていく彼に、思わず小走りになる。

 彼はこちらを見る事もなく、不機嫌そうな声で言う。

「父上とどんな取引があってここにいるのかは知らないが、俺はこの婚姻に納得していない。そもそも誰が好き好んで、女なんていう面倒な生き物を屋敷に迎え入れないといけないのか……」

 後半になるにつれて独り言のようになった彼の声に、私は思わず首を傾げる。

 もしかして彼は知らないのだろうか。
 私が友好と借金の形としてここに来たことを。

「とりあえず、ここには住まわせてやるがあくまでも同居に過ぎない。俺とお前は赤の他人だ、俺はお前の行動に一切の感知をしない。だからお前も俺の生活に口を出すな。俺は鬱陶しいのが大嫌いだ」

 突き放したような物言いだった。
 いや実際に、きっと突き放しているのだろう。

「お前に妻としての行いも求めない。ノースビーク辺境伯家としての社交活動も、屋敷内の采配も、今までしなくてもうまくいっていた。変に手を出して妙な事を起こすな。お前がすべき事はここにない」

 もし彼を好いている令嬢ならば、いやそうでなくとも、もし縁談を前向きに捉えていた令嬢ならば、この言葉を聞いて怒ったり悲しんだりしたのかもしれない。
 しかし私はそうではない。

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