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第6話 何故そんなに怒っているのか(1)
しおりを挟む窓から差し込んでくる朝日が、少しずつ眩しくなっていた。
隣に本が積んである光景は、場所こそ違えどいつもの事だ。
私はやはりいつものように、いつもとは違う場所で床に座って手元に目を落とす。
パラリ、パラリと捲るページの音が、そろそろ目を覚ましたらしい小鳥のさえずりと共に聞こえていた。
私は別に、本を読む事自体が好きなのではない。
もちろん嫌いではないけれど、それ以上に求めているものがこの本の先にはある。
この本のタイトルは『ノースビークの風土と生活』。
隣に積んである本は、『極寒のツンドラ地帯の活用に関する考察』『おいしい! 寒い場所のごはん』、そして『長続きする薪の組み方』。
読みたい本は他にもあったけど、とりあえず最初に読みたい本を積んでいる。
どの本も、このノースビークの土地の歴史を研究するにはいい材料だった。
どれも興味深く、読めば読むだけ私の頭の中にはノースビークの人や土地の歴史がムクムクと形成されていって――。
「何をしている」
部屋の外からはパタパタという足音が聞こえてきたと思ったら、なんだか後ろから深みのあるコーヒーのような声が聞こえたような気がした。
でもきっと気のせいだろう。
だって昨日『互いの生活には口を出さない』と決めてくれたのはあの人で、今は私の『いつも』の途中。
流石にまだ丸一日も経っていないのに、約束を反故にしてくる筈はない。
意識はどんどんと深く、手元の本――いや、その先にあるこのノースビーク辺境伯領の歴史へと沈み込んでいく。
あぁきっと彼らはこうして生きている。
こういう事に楽しみを見出し、この時はこんな事もあったのではないか。
そんな考察が次々と頭に浮かんで物語を紡ぎ、私を楽しませてくれ――。
「おい」
肩を何かに掴まれて、私はゆっくり顔を上げた。
振り向けば、私の肩を片手でつかんだ銀色の髪の美丈夫が、何だかとても不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしてきている。
何だろう。
そんな疑問は、私に目をパチクリとさせた。
「ケルビン様?」
何の用事だろうと思いながら小さく首をかしげると、元々彼の眉間に寄っていた皺が、更にギュッと深く刻まれる。
「何をしている」
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