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第7話 『変な女』はアクションか ~ケルビン視点~(3)

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 そして書庫室の真ん中で、綺麗に収納されていた筈の本を隣に何冊か積み上げ、一心不乱に本を読み漁っている令嬢の姿を見つけた。

 窓から差し込む朝日に照らされて、チリのような埃が空気中をキラキラと漂っていることと捲るページの手以外に時間の経過を感じさせないその光景は、俺の心に怒りや苛立ちが爆発するよりも先に、困惑を生んだ。
 
 すると、どうやらついてきていたらしいあの女のメイドが「マリーリーフ様は、一度熱中するといつもあぁなのです」などと言ってくる。

「ケルビン様の目には奇妙に映るかもしれませんが、あれがマリーリーフ様の通常運転です。歴史に想いを馳せるあまり徹夜をした上朝食を抜く事など、そう珍しくもありません」
「徹夜?」
「はい。昨日の夕食後からすぐにこちらの部屋に籠られて、それからずっとあのままです」

 ますます意味が分からない。


 ここに来るまで彼女の行動は絶対に当てつけだと信じて疑わなかったのに、目の前の光景はとてもじゃないが当てつけをしているようには見えない。

 一心不乱に本に集中する姿は、まるで熱心な――いや、こいつは女だ。
 そういうアクションを見せておいて、その実内心で一体何を考えているか。

「おい」

 呼びかけたが、まったく反応がない。
 まるで聞こえていないかのように、微塵も微動だにしない。

「おい!!」

 肩を掴んでグイッと引っ張れば、やっと深緑色の驚いた瞳が俺の事を映し出した。
 そしてあの女は言ったのだ。

「ケルビン様が『屋敷内では好きにしていい。互いの生活に干渉はしないようにしよう』と言ってくださったので、そのお言葉に甘えていたのですが……」

 困惑の混じったその表情は、嘘をついたり取り繕っているようにはまったく見えなくて。

 何だこの生き物は。
 どういうつもりだ。

 というか俺は『お前の生活に干渉しない代わりに、俺の生活にも干渉するな』と突き放したのであって、『互いの生活に干渉はしないようにしよう』などというあたかも「互いにうまくやるために相互協力しよう」というようなニュアンスを込めたつもりはない。
 なのに、一体どう聞いたらそんな解釈違いをする事になるのか。

 色々と言いたい事はあったが、何だかドッと疲れてしまった。
 もういい、俺にはこの後執務も剣もある。
 あの女には結局何もぶつける事もなく、俺は食堂に戻ったのだった。

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