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第2話 これが世に言う一目惚れ
しおりを挟む「アオイちゃん」こと芝浦 蒼(しばうら あおい)は、俺と同じ大学の同級生である。
初めて会ったのは、大学の入学式。
ベタにも初めての場所で道に迷った俺の前に現れたのが彼女だった。
しかしそこで「助けて貰った」なんて事は無い。
それどころか、彼女とは今に至るまでただの一度も話した事が無い。
そう、向こうからすれば多分、初対面にも満たないような相手なんじゃ無いかとさえ思う。
しかしそれでも、俺の目には未だに焼き付いて消える事がない。
誰も居ない小さな裏庭で、風に舞う淡いピンクの花弁に囲まれて桜の樹を見上げながら微笑する。
そんな彼女の鮮やかさを。
今どちょっと珍しく、パーマもカラーもしていない素直な黒髪を靡かせて、ナチュラルに施したメイクで彩って。
そして微笑む彼女の表情に、あの時の俺の心臓は確実にエラーを起こしていた。
心拍が途端に早くなり、耳のすぐ奥でドッドッを警報を上げ、そのせいなのか頬がカッと上気する。
そんな経験今まで一度もない事で、だから俺はどうしようもなく混乱した。
しかしどうしても目だけは彼女から逸らせなくて、そうして俺は自覚した。
――そうか、これが世に言う一目惚れか。
そう思った瞬間、俺の中で何かがストンと腑に落ちた。
その時の彼女の柔らかい微笑みの甘さが、未だに忘れられないでいる。
感染症が危険視される現在、校内ではマスクをするのが常識だ。
そんなモラルを勿論彼女も守っている。
俺だって守っている。
他だって守っている。
きっと誰しもが、守っている。
しかし彼女のマスクだけが、本当に本当に邪魔でならない。
たった布一枚だ。
ソレをこんなにも恨めしく思う日が来るなんて思わなかった。
俺の目は、気付けば彼女を追っている。
そうすると、例えマスクをしていても、極々たまに彼女が目元を僅かに綻ばせるのは分かる。
彼女はどうやらあまり盛大に笑うタイプの子ではないようで、いつだって目を淡く綻ばせるような笑い方をする。
その目元を見る度に、しかし俺は歯痒くなる。
邪魔なアレをバッと取り払ってしまいたい。
そうして彼女の笑顔を見る事がもし出来たなら。
そんな誘惑に駆られてしまう。
もちろん実行はしない。
だってそんなの、もし本当にそんな事をしてしまったら怪訝がられるに決まってる。
……否、それならまだいい方だ。
最悪、嫌われる。
そうなったらもう、冗談抜きで大学に来る意味が無くなる。
そのくらいにはもうこの気持ちは手遅れだ。
だから結局そんな事など出来る筈もなく、だからついつい思ってしまうのである。
彼女のマスクだけでいい。
せめて透明だったら良かったのに、と。
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