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第二章:初めての社交お茶会に出向く。
第16話 貴族の天秤と、仕返し要求(2)
しおりを挟む「なに、そんなに難しく考える必要は無い。君はただ――」
「モンテガーノ侯爵」
「……なんだね?」
話を遮られたモンテガーノ侯爵は、声のトーンを一段階落としながらクレアリンゼに目をやった。
不機嫌だ。
そう言いたげな視線に、しかしクレアリンゼは対照的な微笑みを浮かべる。
「先日のドレスを汚された件について、セシリアはまだ一度も直接の謝罪を受けておりません」
セシリアの「和解を受け入れる」という言葉に甘えて謝罪をなぁなぁにしようとしているが、そうはいかない。
こちらに脅し混じりの譲歩を求めるのなら、その前にする事があるだろう。
クレアリンゼは、暗にそう彼を言葉で刺す。
クレアリンゼにとって、現状の中で最も癇に障っていたのがこの事だったのだ。
ドレスを汚した事が故意か過失か。
それについては、この際触れないでおこう。
しかし事実として、あちらはドレスを汚したのだ。
『和解』をするのなら、一言面と向かっての謝罪があって然るべきである。
クレアリンゼの言葉に、侯爵の顔が嫌そうに歪んだ。
プライドの高い彼の事だ。
おそらく謝罪の言葉を言葉にするのが嫌なのだろう。
それが、自分よりも下の爵位の者に対してならば、尚更。
彼は数秒間、苦渋の表情を浮かべていた。
しかし、ついに重い口を開く。
「……ほら、クラウン。きちんと謝罪しなさい」
数秒の沈黙間に、彼は「親の自分が先だって謝罪する」という選択肢を捨てた。
家長として、息子の失態を代わりに謝る。
当主という彼の立場ならば、そういう選択だって出来たにも関わらず、だ。
それは、親としてならば未だしも、貴族としては、取ったところで大した問題のない手段ではあった。
これがもし次期当主となる長子だったら、また話は別だっただろう。
しかし第二子息であるクラウンの粗相に関しては、その縛りは発生し得ない。
個人が個人に謝罪する、それだけで事足りる。
しかし侯爵にはこの時、残念ながら見えていなかったのだ。
自分の息子の様子が。
父の言葉を受けたクラウンは――酷く嫌そうな表情を浮かべた。
まるで「自分に非なんて一ミリも存在しないのに、何故」とでも思っている様な表情だ。
それどころか、セシリアを鋭く睨み付けさえいた。
しかし、歯噛みはしても父の言葉には逆らえないのか。
数秒の沈黙後、彼は不服が渦巻く表情のままで口を開く。
「悪かっ――」
その時だった。
「謝罪は不要です」
微笑を湛えた柔らかい拒絶の言葉が、クラウンの謝罪を途中で遮った。
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